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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
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第7節:ボールペンはカバーをカチっとするやつが好き

巻物を閉じそこらにほっぽると、農臣と思われる男は視線を上下させ僕を観察する。


「ああ、自己紹介がまだだったな。類異家党首、類異 農臣だ」


「香織です・・・類異?」


「何だよ。話してないのか。お前等が名乗ってる安心院は、安心に術を使えるが起源。

 元々は異なる類いの人間、類異が俺達の姓。安心院を名乗れなんざ論外だ」


「姓が違うのに兄弟呼ばわりはないだろ。ってか、あんた幾つだよ。

 僕とそう変わらないよ」


「んだよ、めんどくせーな。おい彩華、まさか俺が呪術師って事しか話してないのか?」


「香織は、正式な党首ではない。今ここにいるのは特例だからな」


「あー、そう言われればそうか。年齢は15だ。言っておくが、若くして俺が

類異の後を継いだんじゃねーぞ。親父が酒に溺れて早死にしたんだ」


「それは、ご冥福お祈り申し上げます」


「んな気遣い必要ねーよ。むしをあんたらにとっては、死んで清々しただろ」


言葉の真意は分からない。会った事もない・・・いや赤ん坊の頃に会ったのか?

とにかく、人の死をそんな風に言うのはどうなんだ。


「実の父親に冷たいな」


「何てったって、香織がここにいるのも、俺の親父のせいだからな」


「まどろっこしい。説明していない事は全部話してくれ。

 僕が聞いたのは、“他魂混合”とやらで父と琴刃さんの魂が混ぜ合わさり、その条件に

 楓を授かったって話」


「そこまで聞いてるなら、もう大体分かるだろ。

 香織がここにいる、そもそもの理由から考えれば」


僕は呪術師になるためにここにいる。楓に万が一の事があった際、呪術で救ってもらうための条件。ここに僕と父が農臣の親である、先代類異家の党首が死んで清々する理由とは。

いや、待てよ。他魂混合を教わるのには、第2子を授かる・・・うーわ、悪質。


「僕を呪術師にするために、楓を産むようあんたの親は仕向けたのか」


「せーかーい。楓がいなければ、お前が忍の才能を失う事も、呪術師になる事も

なかった。お前の人生を狂わせたのは実の弟、安心院 楓だよ」


ヘラヘラ語る農臣に感情をぶつけるのはお門違い。この人が生まれる前・・・いや、この人の父が招いた事。それを息子に文句言う訳にはいかない。だが、今の発言はいただけない。


「楓は僕の人生を狂わせてなんかいない」


「そーかい。まあ、呪術を習得した後に同じ事を言えたら、謝るよ」


「類異の目的は何なのさ。安心院の危機を予言する立場でありながら、安心院に迷惑を

かけるとか支離滅裂過ぎるだろ。僕に呪術を学ばせるのも何かの陰謀か?」


「それもまた、呪術を習得した後に説明するよ」


要領が掴めない話し方をされ、相手の目的を探ろうとしたけど直ぐに止めた。

何にせよ、僕が呪術を学ばなければ楓を救えない。

だったら、今は一刻も早く習得にかからないと。


「分かった。なら早く呪術を教えてよ」


「あせんな。呪いを学ぶのに、何の準備もしないのは自殺行為だ。

 まあ、準備したところで、自殺行為なのは変わりないけど」


「準備?」


「今から地下に移動して術式を刻む。刻まれると幸せな記憶を全て失い、肉体と精神に負荷をかけ心身共に苦しめる。それ自体は1分程度だが、そこから更に24時間お前を安楽死できる薬のある部屋に閉じ込め、死なないで部屋から出てきたらおしまい」


「何で安楽死できる部屋に閉じ込めるの」


「術式を刻まれた後の24時間は、魔力の質も量も爆発的に高まる。

 その上、心身共に消耗してるから、魔力を押さえ込めるか分からない。

 1番危険なのは、お前がそのまま木っ端微塵に自爆する事。

 それを防ぐための安楽死の薬だ」


「こーっわ。一応の救いの手って訳か。でもちょっと待って。

 僕が自殺したら楓は助けてくれないの?」


「助けるよ。1分が経った時点で呪術師には成れてる。“楓を助けるのは香織が呪術師になるのが条件”を満たしてるからね」


「・・・ふー。よし、やろう」


「香織、本当にすまない。お前にばかり、私は背負わせてしまっている」


楓がいたから僕は忍の才能を失った。でもそれは、武力A+という怪物から一族と盟友

である一条を守るため。何より、弟がいる生活は楽しかった。父が謝る話じゃない。


「名家の党首になった人間が、そんな易々と謝らない方が良いんじゃない?

 別に必ず死ぬわけじゃないし。成るようになるっしょ」


もしかしたら、実の家族を手にかけるかもしれない。知らない誰かを傷つけるかもしれない。

安心院の汚点となるかもしれない。けれど、弟を助けられるなら、どんな業も背負う。

人の役に立てるような大層な人間ではない僕が、唯一自分ではない誰かのために頑張る

機会を得たんだ。それに、案外平気かもしれないし、分からないんだ。

だったら、うだうだ考えるのは止めよう。そして実行に移そう。


「・・・じゃあ、こっちに来い」


居間から地下へと移動し、何もない部屋の中央に座らされる。


「1つアドバイス。1分間はどう足掻いても、耐える事はできない。

 だから問題はその後、何があっても死なないと自分を保て」


「死なない・・・か。頑張ってみる」


農臣は巻物を開くと、文字が浮き上がり僕の身体の中へと流れてくる。

父と農臣は部屋から出ると、体を・・・徐々に、何かが、むしばむ。



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