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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
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第6節:泥棒と怪盗の違いとは

父の仕事部屋へと移動し、机に隠されたスイッチを押すと地下に続く階段がある。

螺旋状の階段は先が見えず、目的地に着くまで呪術から忍術に変わった経緯を話してくれた。


「呪術と言っても、魔力の一種には変わりはない。ただ発動方法に問題があった」


自然に漂う魔力を利用する四季忍術。そもそも魔力が自然内に存在するのも、魔力植物から発せられたものだったのか。


「呪術に用いるのは生きた人間の魂。強力な術ほど、必要とする犠牲者の数は多い。

 当時は、術者が術を使用するためだけに子を産んでいた事もあった」


「犠牲と共にある能力か。そりゃ、非人道的だね」


「術者の負の感情と、犠牲となる人間の魔力が高ければ高度な術を発動できる。

 主な目的は、争いで敵対する存在の排除」


「犠牲者の負の感情と合わせれば、マイナス×マイナスで正の能力が生まれそうなのに」


「・・・」


父は口を閉じ、しばし階段を下る足音のみが響く。


「やはり、ステータスで党首を継がせる制度は変えるべきか」


「唐突に何さ」


「ご明察。ある時、犠牲者が抵抗し負の感情同士が混ぜ合わさり、より強大な能力が

生まれた。術者と犠牲者は他者の命を利用する事なく、新たな能力を使用できた」


「それが四季忍術誕生の秘話。まあ、好転したのは良かったけど。

何で呪術師は残ってるの?」


「予言者が代々生まれたからだ。安心院に関する危機を予言してくれる。

 更に魂を利用する呪術は、私も琴刃も使わせてもらった事がある」


「まさかだけど、目の前にいるのは父ではなく、魂は別の人間とは言わないよね」


「・・・」


父は再び口を閉ざす。今にして思えば、僕に謎の魂が宿った時、解明しようとする動きは見せなかった。あれ?でも楓が作った薬は大和の物。これはどういう事だ?

いやそれより、目の前の人が本当の父ではないとか、漫画みたいな真実聞かされたら申し訳ないけどめっちゃ興奮する。


「私と琴刃が党首を継いで間もないとき、一条に盗賊が現れた。

 当然、一条の護衛の前に成す術は無かったが」


何てことない、名家のお宝やら情報を盗みたい盗人を返り討ちにした話。

けど僕らが生まれる前、この両家に危機が訪れていた。


「その数日後、武力A+の奇襲があった」


「やっぱそういう事あるんだ。その時に呪術を使ったって事ね」


「ああ。異なる魂を融合させる呪術。“他魂混合”

 私と琴刃は融合し、武力と魔力A+の戦士となった」


・・・こっわ。武力と、魔力がA+!?

そんなの誰が勝てるんだよ。呪術ってすげーな。


「だが当然デメリットもある。それは両者の魂が入れ替わってしまう事」


一条と食事したり修行した時、父と琴刃さんの性格で引っかかる点が多かった。

真面目な奏の父である琴刃さんは、党首としてはどうにもチャランポラン過ぎる。

そして才能にかまけて修行を適当にやる僕とは対照的に、父は堅実な人格をしている。

つまり・・・。


「え、ちょ、うっそー。こんにちは琴刃さん」


「私は琴刃という訳ではない。入れ替わったというより、魂が混ざった際に相手の魂の割合が高くなってしまった。と言うのが正しいだろう」


「だから楓は僕と違って父に似てるのか。魂が混ざった後の子だね」


「・・・香織、私も黒榎もできれば多くの子に恵まれたいと考えていた。

 しかし兄弟が多ければ、跡目争いの要因になりかねない」


「そこら辺の話には理解あるよ。じゃあ何か?性格が一変した父に抱かれたいと

母が迫ったとか?」


「お前に母はそんな女に見えてるのか」


「だって母は父が大好きじゃん」


「・・・そうだな」


後ろ姿から照れてるのが分かる。子を授かりたいと願う親の心境はまだ分からない。

けど家庭の事情で1人しか授かれないのは、悔やまれるだろうね。


「楓を生んだのは、“他魂混合”を教わる条件だった」


「何じゃそりゃ。まさかだけど、楓は呪術師と母の子だなんて胸糞話じゃないよね」


「安心しなさい。私と黒榎の子だ。

 呪術を仕様するには、毎回呪術師から課せられる条件を満たさなければならない。

 私と黒榎は、子を授かれるのなら是非もないと承諾した」


「よく分からんな。どういう人達なの?」


「間もなく会える。香織の目で判断して欲しい」


螺旋状の階段を下り続け、扉が見えてくる。父は足を止めることなく歩み進めるが、なんと扉を開けずに通過した。魔力によるものだと判断し、僕もそのまま扉に向かって歩くと通過できた。


「安心院の人間以外が通れば呪われる扉だ」


「なる・・・ほど」


特に珍しい話ではないが、扉の先の空間の方が衝撃的だった。

天井は青く、床は一面緑、日本情緒を感じさせる木造建築が建ち並ぶ。

そこには町というより、集落があった。のどかで心地の良さそうな。


「これはこれは、彩華様。農臣様のご用ですな」


「ああ。いつもの所だな」


「はい。そちらはまさか」


気づけば父は老人と会話していた。地下にこんな広大な空間がある事に驚いていたとはいえ、近づくまで気づかないなんて。


「驚くのも無理はない。ここの人間は皆【隠密】B+以上を所持している。

 視認しない限り、存在を感知できない」


視界に意識を捕らわれていたから気づかなかったのか。老人は僕の顔をじっくり眺めると、何故か涙を流す。


「香織様、ご立派になられましたな」


「赤ん坊の時に、一度ここに連れてくるのが決まりなんだ」


「少年の本家の人間に会えるのは貴重ですからな。お目にかかれて光栄でございます」


「どうも」


党首にならないと知り得ない存在。僕みたく、若くしてここに来られる人間は、

そうそういないのか。


「もう行くぞ」


「はい。お気を付けて」


老人に見送られながら歩き出す。「気をつけて」という言葉が引っかかるが、身内と言えど

これから呪術師に会うんだ。気を引き締めねば。

しかし、のどかな風景にそぐわぬ場であった。住民と思われる人は、僕らを見る度挨拶を

してくれる。演技とは考えにくい、純粋な優しい人柄を感じさせる。

呪術は負の感情を用いて発動する。事前知識から、関係者は皆根暗のだろうと先入観を

持ってしまった。これは軽率なのか、はたまたこれ自体も呪術に思惑なのか。

答えを出すのは農臣という呪術師に会ってからにしよう。


「ここだ」


他の住宅と何ら変わらない、農臣と書かれた表札がある家の前で父は足を止める。

家の中からは特に魔力を感じない。しかしこの中に、安心院を影から支える呪術師がいる。

呼吸を整えていると、父がノックをする。


「どーぞー」


若い男性と思われる声が、けだるげに返事をする。

扉を開けると、時代劇に出てきそうな古風な内装をしている。

少し先に進むと、居間で横たわりながら巻物を広げて読んでいる白髪の男が1人。


「初めましてだな、兄弟」


見た目は僕と変わらぬ年齢と思える男は、上体を起こして他意を含んだように僕を兄弟と

呼ぶ。一体・・・どんな人なんだ。


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