『第8節:観察者』
去りゆく2人を見送りどことなく虚無感に見舞われる。
てか、奏は何してんだ。
ふと疑問に思い電話するとつながった瞬間、最初に耳に入ったのは
大勢の女の子の声だった。
「も、もしもし。香織、楓とシャロ先輩は大丈夫か?」
「大丈夫だけどお前の方が大変そうだぞ。息めっちゃ上がってるじゃん。」
「最初は新入生の女の子達に追いかけられてその後に同級生や先輩達にも・・・」
なんか難しい話してきたから電話切っちゃった。
女の子から追いかけられるってどんな現象?
アインシュタインの一般相対性理論も理解できない頭なので分かりませーん。
*
なるほど。楓君が直ぐに教室を後にしたのはお兄さんの元へと向かうためか。
「武力A-知力B魔力Aか。なるほど、噂に聞いたとおりの実力だ。
安心院兄弟は弟の方が優秀なのか」
さてさて。速く4人のステータスを紙にメモりますか。
「武力B-知力C+魔力D-。お兄さんはずいぶんと低いけどあの人変な色してんだよな~」
まあ、安心院はこれから観察していくしいっか。
「一条 奏は武力A知力A-魔力C。やっぱ侍は優れた家系ほど魔力を必要としないか」
ふ~む・・・何だ、学園中に魔力が張り巡らされている。
突如、校舎から地面から学園中のあらゆる場所からRPGに出てくるような岩の形をしたゴーレムが現れる。
「へー、学園全体にゴーレムか。よほどの実力者がいるみたいだね」
影に手を伸ばしタッタラッタッタッターと、誰が聞いてる訳でもなく口ずさみながら漆黒の如く
長さ180センチメートルほどの槍を取り出す。
「でも、数を増やした分一体に込められた魔力はカスだね!」
現れたゴーレムは5体。
遅くただ腕を振ってくるだけの動きのゴーレムの頭を難なく貫く。
「ゴーレム好きが何か実験したかったのかな。でもこの程度じゃ武力Bあれば倒せる筈」
学園を見渡すと武力クラスの生徒が率先してゴーレム排除の勤しんでいるため、怪我人は出ていない。
「再生能力も自爆能力も持たない。ただ現れては近くの人間を攻撃するだけ・・・」
*
鳴り響く雷鳴。刃から逃れるためにいくつもの分身を出し陽動、
自身もクナイに雷遁を纏い相殺。
土遁で足場を崩し、火遁の放火による遠隔攻撃。
これを自慢のスーツで難なく避け反撃の一手を加える。
ぼくらの戦いの場はもはや立ち入り禁止と言ってもいいほど危険な所になっている。
「すごいすごい!いろんな術使えるんだ!」
「はぁ、はぁ。これだけ攻撃しても届かないうえに一撃一撃が強力すぎる」
「まだまだ行くよ!」
突如、周囲にゴーレムが現れる。数は8体。
「か、楓君の術?」
「違います、戦いに夢中で気づきませんでしたが学園中に魔力が張られています。
相当の術士がいるようです。」
「とにかく、こいつ倒そっか」
「はい、でもどんな仕掛けがあるか分からないので気をつけてください」
「オッケー、楓君もね」
ゴーレムを倒すのに10秒もかからなかった。武力Bあれば倒せる。ぼくらにかかれば瞬殺だ。
「魔力を拡散してるせいで1体1体が弱いのかな」
「ですね、武力Bあれば倒せる」
「・・・武力B」
声を合わせた頭に浮かべた人物は武力B-のあの人だった。
*
「わー、なんだこいつらー!」
急に校舎や地面から出てきたぞ、そんで近くにいる人間片っ端から襲ってやがる。
他の生徒は簡単に倒してるが僕は無理だ。
【逃げ足】使って逃げるしか手が無い。
「おい、上見ろ!」
上?・・・屋上からゴーレムが降ってくる。
新しいのが上で生まれてそのまま落ちてきたんだ。
やばい、追ってくるやつから逃げることはできるけど、落ちてくるやつを避けるスキルでは無い。この量は身体が潰される。
「死・・・んでたまるかー!」
(よく言った、さっさと変われ)
意識が遠くなる刹那、かろうじて聞こえたのは岩が地面に衝突する音だった。
「おい、生徒が1人巻き込まれたぞ」
「早く救助しなきゃ」
「どけ、この程度の質量ならば一瞬でどかせる。波!」
「い、いない。血痕も無い。」
どこに目を付けておるんじゃ。儂はとうにその場を離れておるというのに。