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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第8章:セミの音を聞く間もなく
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第4節:県庁所在地って聞くことは多くとも言うタイミングはあまりない

客室に入るとキッチリしたスーツ姿の父と、ラフな私服姿の母がいた。


「初めまして。私は窈窕学園 佐倉 萌香と申します」


建前上とはいえキチンと挨拶をしたのにも関わらず、母はマイペースに挨拶しだす。


「香織の母でーす!聞いてた話より綺麗な青髪ね。青李と並べていたい!」


母は肩を掴み、顔を近づけ髪を見つめだす。初対面の人に、こんなグイグイ来られるのは迷惑だろうと父が進言する。


「黒榎、建前上は会合なのだから、少しは礼儀を弁えなさい」


正反対の性格をした男女を前に、佐倉さんは動揺する。


「父、できれば堅苦しいのは抜きで。別に本当に結婚するわけじゃないから」


「そうよそうよ。せっかくだし、2人の学生生活聞かせて」


だからと言って、母の様に緩すぎるのは困ると思いながらも、言っても無駄なため口を閉ざした。


「香織君は、ご自身の生活を話してないのですか?」


「我が家の方針でね。親元を離れて、成長に必要な事を自ら発見し実行する。

 必要な時しか接触を断っているのだよ。

 私も黒榎も、高校を卒業するまでは家に帰らなかった」


「楓は寂しがってたけど(笑)」


「本当に自由なのですね。窈窕では日々の行いを親に伝える義務があるので、何かしていないとお怒りの連絡が来ます」


確か帝王も似たような事をすると聞いたな。あくまで怠けることなく、常に挑戦する心を

持たせるのが目的だが、そんな管理教育ごめんだね。


「だからこそ、窈窕の卒業生はみんな優秀なのよ。

 でも優秀の形は十人十色。萌香さんがどんな人なのか教えて欲しいわ」


「まだまだ未熟ですが、学園では・・・」


上品で奥ゆかしい女性を育成する国立窈窕学園。

やはり学園での生活はかなりハードなものだった。

1秒とズレずに行動し、授業は100点か不合格かの2択。

一般教養に加えてクラス別授業が過酷なため、毎年何人もの退学者を

出している。佐倉さんは本当は英証に来たかったらしいけど、親の会社が作る

ハーブティを窈窕の理事長が気に入ったため半ば強引に入学させられたらしい。

しかし、入学後も成績を残し3学年まで進学できているあたり、佐倉さんの優秀さを

疑う余地は無い。


「相変わらず厳しい所ね。もう萌香ちゃん香織と結婚しない?

この子そういう面倒くさいの嫌いな性格だし、馬が合うと思うわよ」


「母さん!」


「すまないね、うちの家内が」


「い、いえ。香織君は名家の人間でありながら、周りの柵みに捕らわれず、自分らしくいるので羨ましいです」


「じゃあ次は、自分らしくいる香織の学園生活を聞かせて。

 あと萌香ちゃん、もっと気軽に話して欲しいな」


「はい。分かりました」


「えーっと・・・」


入学初日に先輩に絡まれた事、交流会じゃあ帝王の手島に絡まれた事、夏休みにホラー

フェスティバルで久々にイタズラ心に火が付いた事。クリスマスでは先輩にダンス

パーティに出るぞと絡まれた事(先輩2回出てきた)。

今年に入ってからは、蔵本や交流会の話は防いで、公募行事で楓達の発表について話した。


「いいな~本当に楽しそう」


「学びも遊びも全力なのが英証なのよね」


「香織もちゃんと楽しんでいるようで良かった」


絡まれまくってる話のどこに楽しんでいるのか疑問だが、聞いてる側からすれば

楽しそうに聞こえるのかな。


「さて、お喋りはここまでにしとこっか」


「萌香さん、来てくれてありがとう。今後も息子と仲良くして欲しい」


「そんな、私の方こそ我が儘を聞いてくれて感謝しています」


「ふふ、本当にいい子。この後はどうするの?」


「さっき扇律さんに旅館に来いって言われたから、温泉でくつろいでもらおうかな」


「じゃあ、ここからは男性陣と女性陣に分かれましょ」


「は?」


「温泉に1人で入らせるわけにはいかないでしょ、女同士もっと話したいし」


あんた30秒前にお喋りはここまでって言ったのもう忘れたのか。

僕の奔放な性格は母似なのだろう。対面してから佐倉さんを何度も動揺させて

申し訳ないが、今回のが一番キツいだろ。


話して間もない他校の男の親と2人きりとか軽く拷問だわ。

だがここで引き留めるわけにはいかない。母の言葉の意味を察するに、佐倉さんとは

別行動を取らなければならないから。


「あ、じゃ、じゃあ後でね」


「はい。ごゆっくり」


佐倉さんを連れて、母は急ぎ足で部屋を出て行った。

分かってる。「男性陣と女性陣。」これは、僕と父の2人だけにしたいというメッセージ。

親子の時間。それは団欒ではなく、子孫繁栄に関わる話だった。


「本当は萌香さんを送り返した後にしようかと思ったのだが、先ほど赫夜から連絡があって、緊急を要する事態となった」


「・・・楓に何が」


「その前に、囮薬について復習をする必要がある」


「囮役が由来の忍薬。本来の力以上の能力を引き出せるが、一時的なもので服用後は魔力を失う。故に、服用者は薬の効果が切れるまで囮となる」


「と、教えたのは、あの薬の使い道を修正したからだ」


「別の用途が?」


「本来の目的は自身のリミッターを外し、魔力A+を人為的に創り出すこと」


「そんな無茶な!」


「可能性は恐ろしく低い。だから服用の条件を、跡継ぎを授かった党首にした」


「でも楓は、子どもでありながら服用してしまった」


「言いたい事は分かるな」


先ほどの扇律さんの時とは比べものに・・・というか、人生最大の張り詰めた空気に思わず

認識している現実から背けたくなる。だが言わなければならない。


「このままでは安心院は僕らの代で潰える」


何も言わず首を縦に振る父を見ても、何故か落ち着いている自分がいる。

発言の中にあった違和感。そして僕の発言を肯定した。


「赫夜からの連絡は、病床の楓が吐血したらしい」


息子の一大事を冷静に語る父。かくいう兄である僕も、意見は話を最後まで聞いてからにする。


「これは魔力の質が変わり、身体が拒絶反応を起こした証拠。

 つまり楓は、これまで前例が無い薬に耐えうる人間なのかもしれない」


「・・・でもあくまで、かもしれないの話。万が一の時の判断は?」


「その万が一が起こる前に、香織に聞きたい事がある」


家族同士の会話では、ほぼ禁句に当たるであろう発言を、父の口から聞くこととなる。


「安心院の名を、捨てる気はあるか?」


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