『第9節:軽率に保証人にならないように』
翌日の夕方、宴会場にて閉会式が行われる。唯一行われた総合戦すらも頭によって不戦となった此度の交流会で、一体何を閉じるのかは分からない。などと思っていたが、やはり優秀な生徒を輩出してきた伝統ある交流会。功績を残し者を正しく評価する事は忘れない。
「最優秀賞、ダニエル=ミラー。貴殿は脱獄囚、頭 卵値を討伐した功績をここに賞する」
朝から生徒も教師も事件の取り調べを受け、ある理由で僕は疑われた。頭の遺体が消えたという、あり得るが確認できない事態をそうそう納得はしてもらえない。優秀な人間の肉体は、死体ですら価値がある。ましてや頭は魔力A+。有数な魔力の家系の人間である僕は、しつこく疑われた。(実際は回収してるから間違ってはいない)
しかし百合さんが何とか誤魔化してくれた。事件の調査は升園家が主体で行われ、事件現場にいた百合さんの発言の信用度は高く、両腕を失った百合さんを完治させた薬師丸先生は多額の報奨金を得たそうだ。
ダニーが頭を討伐した事は、一部では過剰防衛という声もあった。しかしその声はほとんどが、魔力に対する知識が欠落した者達で、「どんな死後魔法を持っているか分からないが、何もしなければ先輩もダニーも殺されていた」という教育委員会会長の和さんの発言から、ダニーの行いは栄光とされ、英雄となった。けれど、今後ダニーが新たな英雄伝を生む事は
不可能となった。賞状を受け取った後、ダニーの演説はその場にいた者を凍り付かせる。
「俺はステータスが、Bまで下がりました」
頭との取引により自ら頭を打ち抜いた代償。即死を逃れたのは、ダニーが先輩を護る為死ねないと心の中で強く想った事が起因したらしい。更に頭が保存魔法により、腐敗を防ぐ事ができた。これは先輩がダニーの遺体を傷つけたくないという愛情によるもの。
2人が互いを想い合った結果が、凶悪犯討伐へと導いた。しかしダニーのステータスが平均となってしまったのも事実。
「僅かな時間でしたが、日本で出会ったみんなとの時間は、掛け替えのないもです」
A+を失うという国家の損失とも言える事態に直面しながらも、ダニーは笑顔で日本の日々で得た思い出を語る。これは下手したら日米関係が悪化するかもしれない。そんな危機を胸に浮かべる者も、少なくないだろう。
「俺は国に帰ります。愛する人と」
ダニーは会場から先輩を見つめる。どういう事だとザワつく中で、先輩は駆け足で会場に向かう。昨日のうちに聞いた話なので驚かないのは僕と百合さんのみ。その他は先輩から真実を聞かないかぎり信じないという目をしている。
「私も祖国に帰ります。高校生活も残り僅かですが、決めました」
瞬間、驚きの声が会場を包む。ダニーのステータス降格よりも衝撃なのか。まあ、事情を知らない立場からすれば、先輩の転校は受け入れがたいものだもんね。
こうして2人の新しい門出を祝うだとかなんだとか言い、和さんは歌い出した。
目立ちたがりの性格はここぞという時に発揮される。
様々な感情が交差する会場は特別時間が速く流れたのか、気づけば閉会式は終了していた。
交流会終了後は夏休みに入るため、生徒の行動は個人の判断に委ねられる。
校舎に帰るためバス停に向かう者、自宅から迎えが来て帰宅する者、旧校舎に残り他校の生徒と交流を継続する者。最前者は昨日、沖田先輩が送り届けたため、残りは帰宅者か旧校舎に残るかのどちらか。昨年は奏と一泊して遊んだ後学園に戻ったが、今年は諸々事件が起こりすぎたため、明日帰宅しなければならない。さて、部屋に戻るか・・・などと考えていたが。
「かーおーりーくーん!!」
先輩のの綺麗な顔は、グチャグチャになるほど泣き崩れている。そして駆け寄るというか、鮭を見つけた熊みたいに僕の右手を握ってくる。閉会式にいた生徒に挨拶をしていたから、さりげなくその場を離れていたら、律儀な先輩は僕のことを忘れる事なく別れの言葉を伝えに来た。
「ありがとう。僅かな時間だったけどほんと~~~に楽しかった、幸せだった。
香織君と奏君と楓君と赫夜ちゃんに、卒業式で見送って欲しかった、本当よ?」
別に疑ってねーよと言いたかったけど、改めて先輩と離れると認識すると・・・いや。
まあ、永遠の別れじゃないし、悲しむ必要はないか。
「それと、会長選戦の事だけど」
「はい。できるだけ奏を軸に動きます」
「香織君がなってもいいんだよ?」
「尊敬する先輩に言われると、その気になっちゃいますよ」
社交辞令でも嬉しいのか、先輩がおいおいと泣いていると、ダニーがやってくる。
「お、香織。やっと見つけた」
「ほら、ダニーも香織君に、さ“よ”な“ら”言“っ”て“ーーーー」
泣きじゃくりながら言葉を放つ先輩が、今まで見た事ないほど情緒不安定であった。
そんな先輩の頭を撫でながら、ダニーは僕の左手を握ってくる。
「さよならだ、香織。それと、もう1つの魂もな」
あれ、何か、意識が遠く・・・
「なんじゃ、律儀な奴よのう」
「・・・グスン。私、向こうに戻っても、香織君の才能を取り戻す研究を続けるから」
此奴もまた律儀なもんじゃ。せっかく情人と国に帰るのだから、香織の事は気にせず
生活すれば良いものを。
「勝手にせい。儂から言いたい事は、異国の挙式が楽しみというのみじゃ」
「き、気が早い!!」
「hahaha!招待するから来てくれよ」
「そうか、なら達者でな」
「・・・は!え、一瞬意識飛んでた」
「香織君、楓君と奏君にもよろしく伝えてね。赫夜さんにも」
「え、ああ、うっす」
「赫夜って誰だっけ」
「うちの分家の者です。今は楓と奏の側で看病をしてくれてます」
「・・・2人は大丈夫なのか」
雰囲気は一変し、深刻なムードとなる。明るいまま送り届けたいが、思い遣りの強い2人は、同じ戦場の場に立った人の事を気にせずにはいられないらしい。
「奏は大丈夫ですけど、楓は微妙です」
「そうか。楓が隙を作ってくれたおかげで勝てたから、お礼がしたいんだけど」
「人の役に立つため動くのは、安心院の人間なら当然です。
お礼はお気持ちだけで」
などど言ったところで、世話好きの鬼という名も持つ先輩ははそう納得しない。
「向こうでも魔力に詳しい人に、楓君の症状を治す方法はないか聞いてみる」
「できる範囲でお願いします。魔力については秘匿にする人が多いので、下手に関わって
先輩に何かあったら、それこそ楓は責任を感じます」
「うん・・・うん」
2度の返事をした先輩の心情は読み取れないが、とにかく今は2人の門出を祝う時間。
夜深くなった山奥に、2人を空港へと送る車が到着した報告を受けると、先輩達は手を握りながら歩き出す。旧校舎正面ゲートには、多くの生徒が歓声を上げながら車への路を作り出す。僕は集団に混じるのは柄じゃないため、遠くから、先輩達を見送る。
「さようなら、シャーロット先輩」
こんな遠くからでは届くはずもないのに、先輩は何故か振り向いた。
すると、口の動きは、確かにこう言った。「またね。」そして車に乗り山道へと消えていった。
さあて、部屋に戻って寝るか。そう思った瞬間、声をかけられる。
なーんでこうも、僕が何か行動を起こそうとした瞬間に水を差されるのか。
「いたー!助けて安心院君!」
奇声を上げながら駆け寄って来る沖田先輩を見てると、どこか先輩を思い出させる。
何だ何だと思っていたら、どうやらあの幻獣についてだった。
「ケルベロスが?」
はたして三つ首を有した獣に何があったのか。沖田先輩に案内されるがままに、旧校舎裏側へと移動する。




