『第8節:名前が書いてあるプリンを何故食べるのか』
そして僕らはみんなの元へと向かった。
A+の帰還に多くの生徒が歓喜する。付属品の僕は直ぐに蚊帳の外へと追い出される。
何故か手島が僕の所に来ると、窈窕の佐倉という人から事件の一部始終を聞いたらしい。
「お前も、頭討伐に協力したそうだな」
僕のもう1つの魂のおかげだけど、そういう事にしなければ話がややこしくなるから
肯定する。どうせ手柄目当ての調子乗りとか、罵倒されると思ったけど、意外にも謝意を
述べられる。それは薬師丸先生から聞いた話だった。
「百合を助けてくれて・・・あ、ありがとな」
百合さんは両腕を失い、鞘に用意されていた血液増幅薬を飲まなければ絶命するほど、
瀕死だった。まあ、僕がいなければ死んでいたとも言えるけど、何より薬を用意していた
あんたが、百合さんを助けたと言うべきだろう。
「私も話に加えてくださる」
2人きりでいたのが目立ったのか、百合さんが歩み寄ってくる。
「一成、ありがとう。貴方が私の為にと用意してくれた薬が無ければ、私はこの世にいなかった。そしてごめんなさい。武力A+である事に慢心して、余計なお世話と否定して」
武力A+が瀕死となる状況なんて考える方が難しい。けれど、万が一の事態を考えた
手島の百合さんへの想いは、以外と純粋なのかもしれない。
「謝罪はいらねえよ。無事だったなら、それで」
「・・・一成、婚約の話を戻してもらえるかしら」
「何でだよ。お前はもう自由の身だろ。元々許嫁の話はなかったのに、百合がA+ってだけで決まった話だ。薬の件で恩を感じてるなら、気にするな」
あーなるほど。百合さんが武力A+だから、優秀な子孫を残すために両家の親は2人を
取り繕うとしたんんだ。手島は百合さんの申し込みを断るが、百合さんは改めて
許嫁ではなく、学生らしい申し込みを切り出す。
「では、私と付き合ってください。升園家の人間としてではなく、窈窕の生徒として
告白します。私は貴方のことを愛しています。」
「ば、だって、お前は香織が好きなんじゃ。」
ん???サラッと爆弾発言だが、それ本人の前で言う?
「まあ、そこら辺の話は置いといて、あんたの気持ちはどうなんですか」
本人の本音を諭すように言うと、手島は口元をガクガクして分かりやすく動揺する。
「よ、よろしくお願いします」
2人は俯きながら手を重ねる。本日は2組のカップルが誕生、僕には一切女っ気が無い。
というか、僕のリア充成分は自分ではなく他人へと流れてるんじゃないか?
心の中で愚痴っていると、次に手島は謝罪してきた。
「香織、謝らなければいけないことがる。負けた腹いせに、お前の悪い噂を
周りに広めてたんだ。本当にごめん」
「さいですか。じゃあ、お1つお願いを聞いていただこうか。
僕が隠してる能力については、ご内密に」
「そんな事でいいのか?」
「魔力系には重要なんですよ。秘匿にしておかなければならない能力なもんで」
「分かった。口が裂けても話さない」
「私も、一切口外いたしません」
「では、お2人の時間をお楽しみください」
視線を合わせては照れくさくそっぽを向き、また合わせる。初々しいカップルを早急に
視界から外し、旧校舎の寝室へと歩き出す。歩くと途中で、ふと、重大な事に気づく。
窈窕の佐倉さんは僕のもう1つの魂を知っている。手島は僕を毛嫌っていたから、保身のため強いという情報ではなく、ズルをしたという情報を拡散していた。
それは問題無いが、佐倉さんは普通に情報を拡散しかねない。急いで口封じしなければ。
しかし、窈窕の魔力クラス3年ということしか知らず、お疲れモードの集団に飛び込む勇気もない僕は、どうすれば良いのかと考え込む。すると、再び眼前に獰猛な幻獣が何もない空間から現れる。
「ケルベロス・・・なら」
「よっと。あ、安心院君」
楓達を送り届け終えたのか、ケルベロスの能力で沖田先輩が現れる。
総合戦出場者は、佐倉さんの空間魔法に避難したから顔を知っている。
「沖田先輩、窈窕の佐倉という人はどこにいますか」
「萌香さんならさっき学園に帰ったよ。帰宅希望者をケルベロスの能力で学園に送ったの。
赫夜ちゃんも、楓君と一条君を看病するって学園に帰ったわ」
うわー!最悪だ。窈窕は男子禁制。よほど重要な用事でない限り、立ち入る事はできない。
もし事件の調査とかで、会場にいた佐倉さんがベラベラ話したら・・・マズい。
「安心院君のこと凄い誉めてたよ。爪を隠した能ある鷹だって」
「それ、いろんな人に言ってました?」
「ん~私以外には話してないと思う。学園に着くと、萌香さん1人で校舎に向かってたし」
うっし、ぼっち万歳。学園内で広まる心配はないから、調査前に口封じしないと。
「どうしたの?」
「ちょっと、佐倉さんに用事が。そうだ、母なら」
一族内専用の緊急連絡端末を取り出し、母に連絡する。この端末を使うのは初めてであり少少しワクワクするが、落ち着いた母の声を聞くことで平静を取り戻す。
「何があったの」
緊急のため無駄を省き、用件から入るため話は速く進む。窈窕の人との思い出話をよくしていた母なら、生徒と面会できるよう取り入ってくれないかという考えは、見事的中する。
「それで、どんな風に告白するの」
「・・・は?」
「言葉とムードは大事よ。会う前に必ず私に相談しなさい」
佐倉という人に会いたいとしか伝えてないため、僕が好きで会いたいと勘違いしている。
訳を説明すると、いつも冷静な母から初めて落胆した声を聞く。
「あらあら、せっかくだし食事に誘えば?」
「窈窕は英証と違って、外出禁止だよね。連れ出したら僕殺されちゃう」
「家同士の会合なら、特例で外出許可がでるのよ。うちはいつでも大丈夫だから、
堂々と誘いなさい」
ここでちまちまと話し合っても意味が無いと判断し、「へーい」と返事をして電話を切る。
面会の目処が立ちつつあるが、お嬢様学園に1人で行く事を考えると少し憂鬱だ。
格好に礼節に、気をつけなければいけない事だらけ。うおー面倒くせー。
それに手ぶらじゃあれだよな、何を持って行けば良いんだ。
頭を抱えていると、気遣いの鬼が近くにいるのを忘れてた。
「だ、大丈夫?」
「大丈夫なのかどうかも分からないです。沖田先輩から見た佐倉さんって
どんな人ですか?」
「あまり話した事ないけど、さっき話した感じだと良い人かな」
なら話は通じるか。そうだ、女性からの意見を得よう。
「女性って何を送られると喜びますかね」
「プレゼントとか貰ったことないし、う~ん。
佐倉さんにだよね、今度一緒に買い物行く?」
「マジッスか、お願いします」
沖田先輩に挨拶を済ませ、校舎に向かう。女性目線から選んでもらえるなら安心だ。
ふ~安心安心。にしても沖田先輩がプレゼント貰ったことないとは意外だな。
意外だ意外だ・・・あ、やっべ。女の子と2人で出かけるの初めてだ。
焦りだした直後、通常端末に非通知からの着信があり、一瞬恐怖を覚えたが、相手の第1声のせいで恐怖が継続される。
「今晩は。香織」
凜とした声の主は奏の許嫁、二 扇律。何故、僕が恐怖しているのか。
扇律さんが僕を呼び捨てする時は・・・。
怒っている時だから。




