『第7節:自転車は軽車両であるとキチンと学校で教えるべき』
ダニーの話は、日本に来るまでのところで終わってしまった。話の内容から、僕はダニーの恋敵という事になる。全然そんな素振りを感じず、なんか申し訳なくなった。
まあ、それより、驚くべき事実が明かされたな。
「つまりダニーが、自分の造った銃を使わなかったのを裏切りと思い込み、先輩は英証に来たと」
「うん・・・今まで見たことない銃で、知らない間に浮気されたと思ったの」
手で顔を覆い、しゃがみ込んだ状態で先輩は釈明する。
確かに先輩は思い込みというか、感情で行動する面がある。
しかし、僕が入学するずっと前から好きな人に裏切られた(妄想の)中、英証の中心人物
として過ごしていたとは驚いた。
「ダニーにとって、香織は憎むべき存在だったって話になるのか?」
百合さんが、代わりに質問してくれて助かる。恋敵に心情を問われるとか、
殺意湧くだろうし。
「憎むは少し違うな。一成が、自分から婚約者を奪った最低野郎みたいに話してたから、シャロもたぶらかされてるんじゃないかと、心配だったんだ」
「あいつ・・・」
元婚約者の百合さんはあきれ果てる。まあ、奪ってないけど婚約を解消された手島から
したら奪われたも同然か。
「でも、英証に行って校長に挨拶した時、香織の事を聞いたんだ。安心院の人間とは聞かされなかったけど、揺るぎない信念と、柔軟な器を併せ持つ良い生徒だって」
わーお。校長にはそう映ってるのか、照れますな。
「一成の話とはだいぶ違うと思ったけど、実際に会って確信した。
こいつは悪い奴じゃない。シャロは日本で、新しい恋に出会ったんだって」
「シャロは本当に、香織が好きなの?SNSの内容だと若干違う気がするぞ」
んな訳ねーよと否定しようとしたら、手を地面に着き、下を向いたまま先輩は返答する。
「今年になってからだけど、気にはなりかけてたの。感情で動く私に呆れる事なく、
付き合ってくれる優しさに、いつからか惹かれてた」
「・・・え!!!!!」
「うお、香織の大声初めて聞いた。2人は付き合ってるんじゃないのか?」
いつも大声で驚かされる身がダニーを驚かしてしまった。いや、僕の方が驚いとるわ。
呆れる事なくって別に僕だけじゃないし、もっと優しい人いるだろ。何より・・・。
「いや~その、付き合うもなにも、フラれた身なもんで」
「・・・シャロ様が香織くんの告白を断ったのは、ダニー様の事を諦めきれずに
いたからなのでは」
百合さんは、戦闘モードの荒々しい口調から、いつものお淑やかな口調に戻っている。
なんでやねんと突っ込みたいが、核心を突いた発言に対する先輩の返答や如何に。
ゆっくりと立ち上がり、真っ直ぐにダニーを見つめながら、口にした。
「ええ。私は離れてからも、ずっとずっとダニーの事が好きだった。今まで告白を
断ったのは、心のどこかにダニーがいたから。試験の真相を知って・・・うんうん。
再開したあの時に気づいた」
先輩の瞳は、今まで見た事がないほど透き通って、その言葉は第3者である僕の心にまで響いた。
「勝手に離れた身で、こんな事を言うのはとても図々しいけど、またダニーの側にいさせてください」
ダニーの表情はさして変わらない。既に答えは決まっているかのように、口にする。
「当たり前だ」
続けて、静かに歩み寄り、今度はダニーから先輩を抱きしめる。
そして、先輩は泣いた。最初は静かに涙を流し、次にダニーの腕を強く握り、声を上げて
泣いた。目の前で恋が成就する様子に、本来なら「ケッリア充が」と一蹴する。
なのに僕の心は、名作の映画を見たような、捜し物を見つけた時のような、風呂上がりに
フルーツ牛乳を飲んだ時のような、爽快で暖かく清々しい気持ちで満たされる。
何故だろう、台無し感が芽生えてる。
次の瞬間、2人は顔を近づける。こ、れ、は・・・恋人がするあの!
「香織くんにはまだ早い!」
百合さんに目を塞がれ、リアルリア充シーンを見逃してしまう。いや、1つしか年が
変わらないのに早いとか言われても。ほんの数秒視界を奪われ、次に目に映ったのは手を
繋ぐ先輩とダニーだった。大人気ロボットアニメの様に拍手をしながら「おめでとう」と
百合さんと一緒に祝う。
「そろそろ帰ろうか」
長話をし過ぎたため、日が暮れ始めている。みんなも心配しているだろうと、先輩は出口に向かうがダニーが手を引き、軽く忘れかけていた重要な事を切り出す。
「頭の遺体は・・・どうする」
セオリーで言えば、日本政府に引き渡す。しかし、政府にとって都合の悪い証拠を引き渡せば、必ず隠蔽される。つまり僕達で上手く処理しなければ、まさか、イタズラが役に立つ日が来るとはね。
「一先ず、僕が回収します。タッタララ~」
懐から巻物を取り出し開く。奏が刀の収容に使う物と同じで、人1人を簡単に巻物に封じ込める。
「実家に持ち帰るの?遺体でも持ち出せば窃盗よ」
先輩の指摘はごもっともだが、頭は魔力系。未知なる能力で言い訳するしかない。
「口を揃えましょう。“頭 卵値の遺体は本人の死後魔法により異空間に封印された”」
「分かった。にしてもカッコいいな、その巻物。いろんな武器をしまってるの?」
ふっふっふ。どうやらダニーの男心を刺激してしまったようだ。
「勿論。様々な忍具を瞬時に取り出し、使い分けます」
「スゲー!回収もできるなんて、使い勝手良すぎだろ」
「遊んでて割れた花瓶、誰にも食べられたくないお菓子、隠したいエロ本。
その他イタズラにも使える素晴らしい一品となっております」
「欲しい!」
「残念ながら、安心院と一条専用の品です」
「ケチ~Boo!Boo!」
ダニーからブーイングを送ってくるが、女性陣2人に聞こえないように肩を組んで、
耳元で囁く。
「ありがとな。日本でシャロを護ってくれて」
・・・ふぅ~。だいぶ買いかぶられてるな。別に僕は何もしてない。偶々同じ学校に通う
先輩後輩の立場なだけ。先輩を護れるのは、幸せにできるのはダニーだ。
「バトンタッチです。違うか、とにかく、これからもお幸せに」
「最高だよお前は」
頭をワシャワシャと撫でられる。何故か先輩と百合さんも加わり、唯一年下のため反抗できないまま、みんなの元へと歩き出す。




