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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第7章:一別の夏
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『第5節:0巻っていいよね』


眼前、周囲でガラスが割れるような音が耳に響く。そして明らかに見て分かる囚人服を着た男、ダニー、先輩が倒れ込んでいる。2人が心配だけど、空中で意識を失っている楓を1先ず救出せねばと飛躍し抱きかかえる。魔力と肉体を酷使し過ぎたのか、今まで見たことないほど負傷している。


「よっと」


「香織君」


着地するなり弱々しい声で先輩は僕の名前を口にする。外傷は無さそうだけど、精神がだいぶ参ったご様子だ。肉体の損傷はダニーの方が遙かに酷い。


「急いでダニーを運ばないと、先輩のスーツでって、うーわ壊されてるじゃないですか」


「ごめんなさい。今の私にできる事は無いの」


「側にいてくれれば俺は嬉しいぞ」


「死にかけてるの!分かってる!?」


先輩は怒ってはいるが顔を赤く染めている。痴話喧嘩が始まりだしたので放置しようかと思ったら、突如何も無い空間から三つ首を有した漆黒の猛獣が現れる。


「ガルゥゥゥゥ」


「ケルベロス!」


「ふーむ、職務放棄か。大人しく冥府の番をしてればいいのに」


はたして冥府が実在するのかはさておいて、現状戦えるのは僕1人。

やるしかないなと構えるが、なんとも無気力な声が、ケルベロスが出てきた空間から聞こえてくる。にゅるりと現れた白衣を着た顔色の悪い女性は、けだるけな様子で問う。


「で、患者はどこ」


「薬師丸先生!」


先生に続いてもう1人、慌てた声が聞こえてくる。遅刻少女の様に魔法少女が現れる。


「みんな無事?」


「沖田先輩まで」


まさか沖田先輩がケルベロスを操作したのか。神獣まで操作できるとはやりおる。

そしてファインプレーだ。学園からろくに外出しない薬師丸先生を連れてくるなんて。


「ふむ。一番の重傷者は君か」


先生はダニーの頭に手をかざすと魔法を発動し、たちまち傷が癒えていく。


「治った。治ったー!」


「ダニー!」


喜ぶダニーにすかさず抱きつく先輩。人命を救助したのに、淡々と先生は次の患者の治療に向かう。


「安心院 楓は両腕粉砕骨折か。それとこれは、副作用かな。

薬を服用し魔力を酷使した症状だ」


「恐らく囮薬ですね。うちの忍薬で自分の限界以上の力を引き出す代物です」


「腕は治せるけど魔力の方はどうにもできない。最悪、忍者を諦める事になるかも

 しれないな」


「・・・楓の自己責任ですね」


「え、安心院君。そんな言い方は」


「沖田先輩の気持ちは分かりますが、薬の危険性を把握したうえで楓は使用したんです。

 それで身体が壊れて叫くのはお門違いですよ」


「保護者代理の発言として受け取るよ。後で私を訴えるなんてしないでくれ」


「勿論です」


そもそも、どうしてお前が囮薬を持ってるんだよ。あれは党首になり、跡継ぎを授かった時に使用を許される物なんだぞ。また勝手に倉庫を漁ったな。息子でも出入り禁止にするよう父に進言しておくべきか。


「次は窈窕のあの娘かな。両腕損失、正確には裂断か」


百合さんの近くには本人のものと思われる腕が転がっている。腕を接着させる技術はあるが、大抵は日常生活に支障が出ない程度で、武力のステータスは大幅にさがる。

けど、うちの先生の能力は、並みの治療魔法を遙かに凌駕する。


「これで良し。運が良いな。たとえくっつけても、血液不足で死亡するケースが多いのに」


「・・・準備は大事だから」


百合さんの発言にどこか無関心な様子で先生は次の患者の居場所を尋ねる。

奏の下へと案内するが、比較的損傷は無く、疲労が酷いため寝かせた。


「ん、飲酒反応。これは後で会議にかける必要があるな。

 ・・・報告書書くの面倒くさい。安心院 香織、君は何も聞かなかった」


「む~、はい?あ、何か言いました?」


「よろしい」


外を警備していた先生方の治療に向かった薬師丸先生を見送り、沖田先輩はケルベロスの能力で奏と楓を医務室に運んでくれた。頭の遺体は完全に死んだことを確認し、沖田さんに運んでもらおうとしたが、先輩とダニーに止められる。僕は先輩に事の全容を聞くことにした。驚く事に頭 卵値の正体は政府直属の殺し屋。しかも魔法は精神操作ではなく、結界魔法とは恐れ入った。何者かが頭に先輩暗殺を依頼し、それだけでなく会場にはキメラ・八岐大蛇・ケルベロスなどの神獣が現れた。僕のもう1つの魂と奏は幻獣撃破を成し遂げたが、敵の催眠攻撃により激突。奏が疲弊してたのは僕のせいでもあったのか、なのにあいつ文句1つたれずの送り出すとはね。

一方、頭と対峙したA+3名と楓は圧倒的な結界魔法の前に敗れる・・・と、思いきや

ダニーが謎の蘇生をはたし見事、頭を討ち取った。


「オレ達の国のお偉いさんは、そんな非道を働いてたのか」


会場に残ったA+3人の内、唯一頭の正体を知らなかった百合さんは激怒する。

政府直属の防衛組織の家系である升園家ならば、政府の行いは容赦しがたいのだろう。


「でも解せない。政府が命令した殺人が、どうしてマスコミに報道されるに到ったの」


先輩が疑問に思うのも無理はないが、今回の頭の動向から察しは付く。


「余計な殺人をしたからだと思いますよ。先輩の暗殺を依頼されたのに、私情でダニーも

 殺そうとした。つまり、目的のついでに関係無い人の命も奪った事が、日本を恐怖に

 陥れた真相ですね」


「けど、日本政府はそれを容認してたんだよな」


「ダニーの言うとおり、これは早急に上層部一新しなければならない話ね」


「まあ、それは日本人の問題として、お2人は帰国された方が良いですな」


「どうして?」


「また先輩には次々に刺客が送られる訳ですし、日本政府の闇を知った状態で

 日本にいるのは危険です」


「それは香織も百合も同じだろ。お前達はどうするんだよ」


「僕らは心配ありません。日本有数の名家、安心院。日本防衛の要、升園。

 この2つを直接叩くなんて、馬鹿な真似はしないでしょ」


「むしろオレは、逃げ回るだなんてゴメンだ」


理由は特に無いけど、何故か僕達はハイタッチをする。

先輩はようやく、緊張が解けたようで、いつもの口調で言葉を放つ。


「レーンも力になるわ。危険だと思ったら、いつでもアメリカに来て」


「ありがとうございます」


「ありがとう」


良い感じに纏まりつつある中で、ダニーが新しい話題を切り出す。


「うっし、じゃあ香織、話してやるよ!」


「え、何をですか。一番最初に覚えた日本語ですか?」


「何で帝王に留学したか」


あーそうだった。気になってたんだ。一応一件落着したし、聞きますかと思ったら、百合さんが話題を深掘りしだす。


「なあ、その前に、ダニーとシャロが出会った後の事を教えてくれよ」


「それも気になりますね。ってか、どこで出会ったんですか」


「ま、待ってよ。ダニー、本当に話すの?」


困惑する先輩とは対照的に、堂々とダニーは自分達の過去を語り出す。

スラムの生まれという驚きの出生から始まり、2人が林道という人と一緒に修行した話へと続いた。


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