『第4節:白米のお焦げより炊き込みご飯のお焦げが好き』
やはり命運か。友好関係にあれど、安心院と一条の党首同士は本気で争う。
若気のいたり、価値観の違い、些細なすれ違い。理由は様々じゃが、必ず共通するのは
辺りが更地となる。広大な森は、儂らの攻撃の余波で跡形もなくなった。
いやはや、強者と闘うと手加減を忘れていかんのう。
儂らは一時も手を止めることなく争った。一手誤れば命が危ういほどの接戦じゃった。
じゃが、結果は歴然。蓄積した魔力、自然魔力を利用する儂は長期戦に強い。
「ハァ、ハァ」
儂の容姿を貶した報復を与えようと思ったが、強者との闘いには高揚が芽生えていかん。
酔いが覚めてきたのか、奏の力が落ちてきとる。同時に催眠も覚めたようじゃな。道草はここまでにしておかぬと、シャロ達が危険じゃ。奏が破壊した結界は既に修復されとるから、増援は期待できぬ。
「む?」
「何だこの気配は」
儂らは遠方から発せられる強い魔力を感じ取る。奏の場合、正確には武力の気配か。
今日は生前の出来事によく出くわす。神話上の獣、鬼気迫る一条の正当な長男。そして・・・儂はもう下がった方が良さそうじゃな。
*
「・・・楓。って、あれ?」
「香織、戻ったのか」
「ああ、うん。気づいたらなんか」
「よし、なら先輩達を」
「寝てろ。何があったか知らんが、その状態じゃ無理だ」
「お前1人の方が無理だろ。俺はまだ」
「こいつが僕に肉体を返してった事は、たぶんそういう事だ」
「・・・聞いておきたい事はあるか」
「ここにいるのは?」
「シャロ先輩、ダニー、百合さん、楓。おそらく黒幕と思われる頭」
「うっし」
背中に奏の視線を感じながら僕は走り出した。向かうべき場所は、禍々しい魔力を帯びた結界。それを攻撃し続ける豪傑な魔力、楓の奴どうやってこれだけの魔力を。んで、ずっと気になってる弱まった気配。間違っていなければ百合さんだ。あの人ほどの剣士がどうして。
森を突き進み、黒いキューブの様な物が視界に映ると足を止める。
「おいおい」
炎天下散弾。炎天下において太陽の光を魔力に変え両腕に纏い、本能のまま打ち続ける舞。
一発一発は打ち上げ花火に劣るけど、攻撃数は桁違い。
楓は結界の上から絶えず舞で破壊を試みている。
「でもどうして楓が。武力はまだA-の筈。いや、あの顔・・・」
うん、ラリってる。というかどうして動けてるんだ。目は完全に白めだし腕折れてるだろ。
これ僕が話しかけても無意味かな。
「か・・お、り」
轟音の中で微かに聞こえる呼び声。右斜め奥に横たわる百合さんがいる。
「百合さん!」
急いで駆けつけると僕は再び固まった。両腕が無い、そして辺りを染める血しぶき。
このままじゃ命が危ない。今一番にしなければならないのは輸血。
「オレの鞘の、先端を、探ってくれ。短い、方、だ」
言われた通りに腰に差した短刀の鞘の先端を探ると、小さな袋が出てきた。
中には赤い薬の様な粒が入ってる。
「飲ませ、て。1つで、いい」
急いで口に入れると、百合さんはゴクリと飲み込んだ。血の気が戻り、弱まった呼吸が安定する。
「ありがとう。一成がくれた血液増幅剤なんだ」
「良いっすね。僕も欲しい」
「悪い。オレはもう役に立てない」
「休んでてください。弟が頑張ってますので、兄もいっちょ本気出します」
「安心院の凄さ、見せてくれ」
コクりと首を縦に振り、孤影を取り出す。斬るという概念の無いこの刀で試してやる。
乏しい魔力を込め、いざ参らんとしたその時、眼前の結界と会場を囲う結界が消えた。
・・・え~せっかくなんか主人公っぽい事しようとしたのに。
*
私は待った。頭が隙を見せるその時を。目をつぶって、外で香織君と奏君の戦いを感知しながら「へえ。ほお。」と呟き楽しんでいる。隙ができるまでの間に、脳内でシュミレーションを行う。バラバラにされた兵器は、手を伸ばせば直ぐに届く。簡易版の組み立ては0.5秒あればできる。生身で早打ちは得意じゃないけど、林道さんの指導のおかげで0.8秒、甘く見積もって1.5秒あれば作戦を実行できる。香織君に、昨年スーツのアイデアを貰って良かった。私の兵器は剣をメインにしてるけど、組み立てで銃にできる仕様だ。確実に頭の・・・。
どこを打てば良いの、頭?でも死んじゃう。殺す。命を奪う。
いくら相手が殺人鬼でも、私が殺していい理由にはならない。
そもそも、殺せば全てが解決する訳じゃない。仮に気絶程度に追い込ませても、回復系の魔法を使えたら意味が無い。即死させるつもりで撃たないと。自分にしかできない、自分がやらなければならい。事実を認識しながらも受け入れきれないでいるろ、その時は来た。
「?・・・何故だ」
頭は突然視線を上に向ける。すると、激しい衝撃音が何度も何度も響く。破壊される気配はないけれど、先の奏君と似た鬼気迫る感じがする。
「安心院 楓。どうしてこれほどの魔力を」
楓君。彼が必死でこの結界を攻撃してる。頭はそんな事は不可能だと嘲笑う様子が、僅かに表情に出てる。まだ隙は見せてない。けれど第2波が動揺を誘う。
「・・・暑い」
攻撃がしばらく続くと、結界内部の温度が徐々に高まる。おそらく楓君は火の魔法基、忍術で攻撃してる。破壊こそできないものの、熱は伝わってくる。
「チッ。殺しておけば良かったな」
天井に手をかざし、暑さを防ぐためか魔法を発動させようとした刹那、私は動いた。
手に馴染んだパーツを即座に組み立て構える。かかった時間は0.3秒。順調。
後は急所をねら・・・ねら。僅かに硬直したと認識した瞬間、もう作戦は失敗していた。
「凄いな。寄せ集めでも兵器を造れるのか」
手に持っている銃を頭は破壊する。そして私は結界で囲われた。もう、打つ手が無い。
しくじった。私が人を殺める業を背負えば済む話だったのに。
「私が、弱いから。・・・グス」
「ありがとう。一瞬だけど自分の命が奪われるかもしれないという危機感は、矛盾するようだけど楽しむことができた。だから教えてあげるよ。失敗の原因は弱さだ。蟻を踏み潰すのと人を殺すのに差別を図るから、こうなる」
頭の言葉は耳に入っても頭に入らなかった。膝を着いて、俯いて、涙を流し、自分の弱さを
呪いながら私は生涯を終える。せめて、ダニーの言葉を頭の中で何度も再生しよう。
“愛してる”
“愛してる”
“愛してる”
“愛してる”
もう1度聞きたい、同じ台詞でなくとも、ダニーの声を聞きたい。
神に願った。もし死神に届いたなら、あの世で再会させて欲しい。
けど、私の声は、イタズラ好きの神様に届いたみたい。
「人を殺せない弱さは、人を殺さない強さだ」
愛する声に反応して面を上げると、静かな銃声が頭の頭から再び血の華を咲かせる。
頭が地面に背を着けると同時に、結界が解除される。
「あばよ、必要悪」
私とは対照的にダニーは仰向けで清々しい表情をしている。
訳が分からないけど、夢ではない事をほっぺをつねって確認する。
「お、なんだシャロ。変顔か?俺の方が得意だぞ。ウェヤー!」
私の愛した人は呑気におかしな顔をしている。うんうん。呑気な彼を、私は愛したんだ。
「シャロ、綺麗だぞ」
「何よ急に、ありがとう」
「空が綺麗だ」
紛らわしい発言をするなと怒ろうとしたら、空から楓君を抱えた香織君が落ちてきた。
本日は、晴れ時々安心院兄弟。




