表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第7章:一別の夏
77/95

『第4節:白米のお焦げより炊き込みご飯のお焦げが好き』


やはり命運か。友好関係にあれど、安心院と一条の党首同士は本気で争う。

若気のいたり、価値観の違い、些細なすれ違い。理由は様々じゃが、必ず共通するのは

辺りが更地となる。広大な森は、儂らの攻撃の余波で跡形もなくなった。

いやはや、強者と闘うと手加減を忘れていかんのう。

儂らは一時も手を止めることなく争った。一手誤れば命が危ういほどの接戦じゃった。

じゃが、結果は歴然。蓄積した魔力、自然魔力を利用する儂は長期戦に強い。


「ハァ、ハァ」


儂の容姿を貶した報復を与えようと思ったが、強者との闘いには高揚が芽生えていかん。

酔いが覚めてきたのか、奏の力が落ちてきとる。同時に催眠も覚めたようじゃな。道草はここまでにしておかぬと、シャロ達が危険じゃ。奏が破壊した結界は既に修復されとるから、増援は期待できぬ。


「む?」


「何だこの気配は」


儂らは遠方から発せられる強い魔力を感じ取る。奏の場合、正確には武力の気配か。

今日は生前の出来事によく出くわす。神話上の獣、鬼気迫る一条の正当な長男。そして・・・儂はもう下がった方が良さそうじゃな。








「・・・楓。って、あれ?」


「香織、戻ったのか」


「ああ、うん。気づいたらなんか」


「よし、なら先輩達を」


「寝てろ。何があったか知らんが、その状態じゃ無理だ」


「お前1人の方が無理だろ。俺はまだ」


「こいつが僕に肉体を返してった事は、たぶんそういう事だ」


「・・・聞いておきたい事はあるか」


「ここにいるのは?」


「シャロ先輩、ダニー、百合さん、楓。おそらく黒幕と思われる頭」


「うっし」


背中に奏の視線を感じながら僕は走り出した。向かうべき場所は、禍々しい魔力を帯びた結界。それを攻撃し続ける豪傑な魔力、楓の奴どうやってこれだけの魔力を。んで、ずっと気になってる弱まった気配。間違っていなければ百合さんだ。あの人ほどの剣士がどうして。

森を突き進み、黒いキューブの様な物が視界に映ると足を止める。


「おいおい」


炎天下散弾。炎天下において太陽の光を魔力に変え両腕に纏い、本能のまま打ち続ける舞。

一発一発は打ち上げ花火に劣るけど、攻撃数は桁違い。

楓は結界の上から絶えず舞で破壊を試みている。


「でもどうして楓が。武力はまだA-の筈。いや、あの顔・・・」


うん、ラリってる。というかどうして動けてるんだ。目は完全に白めだし腕折れてるだろ。

これ僕が話しかけても無意味かな。


「か・・お、り」


轟音の中で微かに聞こえる呼び声。右斜め奥に横たわる百合さんがいる。


「百合さん!」


急いで駆けつけると僕は再び固まった。両腕が無い、そして辺りを染める血しぶき。

このままじゃ命が危ない。今一番にしなければならないのは輸血。


「オレの鞘の、先端を、探ってくれ。短い、方、だ」


言われた通りに腰に差した短刀の鞘の先端を探ると、小さな袋が出てきた。

中には赤い薬の様な粒が入ってる。


「飲ませ、て。1つで、いい」


急いで口に入れると、百合さんはゴクリと飲み込んだ。血の気が戻り、弱まった呼吸が安定する。


「ありがとう。一成がくれた血液増幅剤なんだ」


「良いっすね。僕も欲しい」


「悪い。オレはもう役に立てない」


「休んでてください。弟が頑張ってますので、兄もいっちょ本気出します」


「安心院の凄さ、見せてくれ」


コクりと首を縦に振り、孤影を取り出す。斬るという概念の無いこの刀で試してやる。

乏しい魔力を込め、いざ参らんとしたその時、眼前の結界と会場を囲う結界が消えた。


・・・え~せっかくなんか主人公っぽい事しようとしたのに。







私は待った。頭が隙を見せるその時を。目をつぶって、外で香織君と奏君の戦いを感知しながら「へえ。ほお。」と呟き楽しんでいる。隙ができるまでの間に、脳内でシュミレーションを行う。バラバラにされた兵器は、手を伸ばせば直ぐに届く。簡易版の組み立ては0.5秒あればできる。生身で早打ちは得意じゃないけど、林道さんの指導のおかげで0.8秒、甘く見積もって1.5秒あれば作戦を実行できる。香織君に、昨年スーツのアイデアを貰って良かった。私の兵器は剣をメインにしてるけど、組み立てで銃にできる仕様だ。確実に頭の・・・。

どこを打てば良いの、頭?でも死んじゃう。殺す。命を奪う。

いくら相手が殺人鬼でも、私が殺していい理由にはならない。

そもそも、殺せば全てが解決する訳じゃない。仮に気絶程度に追い込ませても、回復系の魔法を使えたら意味が無い。即死させるつもりで撃たないと。自分にしかできない、自分がやらなければならい。事実を認識しながらも受け入れきれないでいるろ、その時は来た。


「?・・・何故だ」


頭は突然視線を上に向ける。すると、激しい衝撃音が何度も何度も響く。破壊される気配はないけれど、先の奏君と似た鬼気迫る感じがする。


「安心院 楓。どうしてこれほどの魔力を」


楓君。彼が必死でこの結界を攻撃してる。頭はそんな事は不可能だと嘲笑う様子が、僅かに表情に出てる。まだ隙は見せてない。けれど第2波が動揺を誘う。


「・・・暑い」


攻撃がしばらく続くと、結界内部の温度が徐々に高まる。おそらく楓君は火の魔法基、忍術で攻撃してる。破壊こそできないものの、熱は伝わってくる。


「チッ。殺しておけば良かったな」


天井に手をかざし、暑さを防ぐためか魔法を発動させようとした刹那、私は動いた。

手に馴染んだパーツを即座に組み立て構える。かかった時間は0.3秒。順調。

後は急所をねら・・・ねら。僅かに硬直したと認識した瞬間、もう作戦は失敗していた。


「凄いな。寄せ集めでも兵器を造れるのか」


手に持っている銃を頭は破壊する。そして私は結界で囲われた。もう、打つ手が無い。

しくじった。私が人を殺める業を背負えば済む話だったのに。


「私が、弱いから。・・・グス」


「ありがとう。一瞬だけど自分の命が奪われるかもしれないという危機感は、矛盾するようだけど楽しむことができた。だから教えてあげるよ。失敗の原因は弱さだ。蟻を踏み潰すのと人を殺すのに差別を図るから、こうなる」


頭の言葉は耳に入っても頭に入らなかった。膝を着いて、俯いて、涙を流し、自分の弱さを

呪いながら私は生涯を終える。せめて、ダニーの言葉を頭の中で何度も再生しよう。


“愛してる”


“愛してる”


“愛してる”


“愛してる”


もう1度聞きたい、同じ台詞でなくとも、ダニーの声を聞きたい。

神に願った。もし死神に届いたなら、あの世で再会させて欲しい。

けど、私の声は、イタズラ好きの神様に届いたみたい。


「人を殺せない弱さは、人を殺さない強さだ」


愛する声に反応して面を上げると、静かな銃声が頭の頭から再び血の華を咲かせる。

頭が地面に背を着けると同時に、結界が解除される。


「あばよ、必要悪」


私とは対照的にダニーは仰向けで清々しい表情をしている。

訳が分からないけど、夢ではない事をほっぺをつねって確認する。


「お、なんだシャロ。変顔か?俺の方が得意だぞ。ウェヤー!」


私の愛した人は呑気におかしな顔をしている。うんうん。呑気な彼を、私は愛したんだ。


「シャロ、綺麗だぞ」


「何よ急に、ありがとう」


「空が綺麗だ」


紛らわしい発言をするなと怒ろうとしたら、空から楓君を抱えた香織君が落ちてきた。

本日は、晴れ時々安心院兄弟。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ