『第3節:鰻は蒲焼きより白焼き派』
あームカツク。政府がまさか頭のデータをでっち上げてたなんて。
やけに監獄の警備が厳しかったのはそのせいか。精神操作が武力、知力に効くのか知りたかったのにとんだどんでん返しだよ。
今回の成果は神獣と、一条先輩の隠された能力、楓君が見せた魔力と武力の複合技。
不満とまでは言わないけど、満足とも言いがたいモヤッとする感じだ。
だーかーら。どっかの誰かが頭を利用したみたいに、ボクもあの人を利用しちゃいますか。
*
「ダメだ!頭が現れたならむしろこの場を離れるべきだ。全員速く避難しろ」
大多数の生徒が、会場の結界を破壊しようと試みるのを、帝王の先生方が辞めるよう
説得する。僅かな間に起きた、幾つもの不可解な出来事。
萌香さんの魔法で異空間に避難し、再び外に出ると場所は旧校舎の入り口だった。
そこにいたのは大勢の生徒と疲弊した先生方、そして横たわる巨大なケルベロス。
萌香さんに話を聞くと、ダニーさんに結界の外へと放り込まれて、観客席の結界を
通過すると赫夜ちゃんが受け止めたみたい。すると突然、旧校舎と観客席を囲う結界が
解除され、校舎の外には先生達がいた。辻先生に話を聞くと、校舎の周りを警備していたら、
突如結界が張られ校舎に入れなくなった。直ぐに結界を破壊しようとしたら、何もない
空間から巨大なケルベロスの登場。武力Aの先生が複数人で挑んで、疲弊させるのが
やっとだった。
ここまでは、会場にいた私達とそう変わらない。おかしな点は2つ。
突然結界が解除されて点と、観客席にいたみんなが外で眠っていた点。赫夜ちゃんの話では、
睡眠効果を持つ魔力植物が観客席に降り注いで、回避できたのは楓君、一条君、赫夜ちゃん
の3人。他のみんなは意識を失って目が覚めると外だった。観客席で眠らせたのに、
どうして外で寝てたの。訳が分からないことだれけだけど、何より重大なのは、頭と
思われる人物が会場に現れた事。萌香さんは避難という形で外に放り出されたけど、
会場の結界は消えてない。つまりまだ中で戦っている筈。急いで加勢に行きたいけど・・・。
「同士を助けたい心意気や良し。しかし、皆が駆けつけたところで、足手まといなのも事実。
ここは私達教師に任せて避難しなさい」
治療を終えた辻先生がみんなを諭そうとする。けれど自信と才能に溢れ、たステータス
上位の人達は聞く耳を持たない。自分が解決しようとする人や、会場にいる尊敬する人を
助けたいと想う人。私も自分にできる事があるなら実行したい。見たところ先生達も
ケルベロスとの闘いで疲弊しているし、私達の方が・・・と、過信を恥じる事となる。
「どうしても行くと言うのならば、私を倒してからにしなさい」
いつも温厚な表情をしている辻先生が、気迫で私達を圧倒する。誰も動けないでいた。
眼球だけでも動かせばただでは済まない。これが、武力A。
「私の気迫で押されるようでは、中に入った途端何も出来ないまま殺されるのがオチ。」
魔力A+の殺人鬼はこれほどではない。先生はそれを理解させたかった。
分かってはいるつもり。けれど、何も出来ないのが嫌だ。本当に私達にできる事は
避難だけなの。
「おや」
「夏目君どうしたの?」
「ケルベロスが立ち上がりましたよ」
猛獣のうめき声の方向に視線をやると、漆黒の毛を有したケルベロスが立ち上がる。
眼光は鋭く今にもこちらに向かってきそう。戦闘に自身のある人は臨戦態勢に入る。
「下がらぬか!」
辻先生が言い終えると同時に、ケルベロスの巨体は数十メートル離れていた私達の目の前まで迫っていた。そして鋭い爪が襲いかかる。最も速く反応できた辻先生が蹴りで受ける。
おかげで直撃は回避できたけど、衝撃で先生の後ろにいた私達は吹き飛ばされる。
私の他に何人もの人が空中に吹き飛ばされ、不幸中の幸いと言うべきか、知力クラスの人は既に避難用のバスに移っていたため、武力クラスと魔力クラスの人は各々着地や空中移動で危機を回避している。でも私は動物がいないと何にもできないから・・・。
「たーすーけーてー!!!」
このまま地面に叩きつけられると思ったその時、たくましい両腕に抱きかかえられる。
「もう大丈夫ですよ」
「赫夜ちゃん、ありがとう」
お姫様抱っこなんて、されるとも思っていなかったから、女の子の赫夜ちゃんにドキドキしちゃう。
「降ろします。急がなければ先生が」
先生とケルベロスの闘いに生じる衝撃に誰も近づけずにいる。他の先生も加勢しようにも傷が痛むのか、膠着状態にいる。
「赫夜先輩1人で大丈夫ですか?」
夏目君が心配するのも分かる。赫夜ちゃんは魔力はA-。
いくら安心院の人間でも、ただ加わっては足手まといになりかけない。
「たとえこの身がどうなっても、せめてみんなが逃げる時間を稼げれば」
人の役に立つため職務を全うする安心院の人らしい立派な考え。
「それより、美津希先輩の魔法があるじゃないですか」
夏目君は私の魔法を過信している。その提案が通じるならとっくに実行してる。
「獰猛過ぎる生き物には通じないの。それに、あんな幻想の生き物なんて、そもそも効くのかどうかすら分からないし」
「でもこのままだと、先生死にますよ」
戦闘に関してほとんど無知の私でも、先生が押されているのが分かる。
確かにこのままじゃ・・・。
「危険生物と共存できる事を証明したい。そう言ってましたよね」
夏目君の言葉を聞くと、私の中で時が遅く流れた気がする。
家族に疎まれ、動物だけが友達の日々。その動物も人間に害があると認定されれば
駆除される。だから私は、危険生物と言われる動物とも共存できる未来を創りたい。
そもそも、どうして私は先生を助けようと考えているの。
先生も、友達も、後輩も、幻想の生き物も。
「護りたい。みんなを、護りたい!!」
気づけば、杖を握り絞め走り出していた。運動はできない筈なのに、驚くほどの速さで先生の真後ろまで近づけた。更に驚く事に、地面を強く蹴るといつも目にする、武力系の人達と同じくらい跳躍できた。私の魔法は杖と動物の脳が近ければ近いほど効果を増す。
“私は貴方の敵ではない(Let's make friends)”
私が最初に授かった魔法。これでずっと動物と友達に・・・。
違う。利用してただけだ。独りが嫌で、寂しくて、苦しくて。
魔法で私の思い道理にしようとしていた。
もう違う。
「大地、空、海。この世に生きるモノに告げる。
争うならすればいい。共存するならすればいい」
詠唱と共に白銀の光が私とケルベロスを包み込む。
「同じ種、異なる種であっても所詮この世は弱肉強食。
しかし忘れるなかれ、それは敵を意味するのではない」
ケルベロスは真っ直ぐ私を見つめている。私は目をそらさず残りの詠唱を唱える。
「即ちそれは、平等に与えられた権利」
「姿形は違えど、全ての生物は対等であり、平等に挑む権利を有している」
たぶん、この魔法を習得できた事は、私にとって朗報ではなく贖罪なんだ。
意思の疎通を放棄して、魔法で良いように利用してきた動物への。
だから今、対等な関係になる。
“・・・俺が勝ったなら、お前の命を貰うぞ”
「良いわよ。私が勝ったら、みんなを助けるのに力を貸して」
“良いだろう。”
「懸けるのは互いの命」




