『第2節:SSRは出るまで回せば出るんだよ』
かつて敵対した竜は、終局を用いなければならなかった。しかし、奴のことじゃ。
性質は以前とは異なるはず。無論、儂も対策は考えておる。転生した肉体の魔力を貯蔵し、転生前に僅かの魔力を引き継ぐ。故に転生を繰り返した分だけ、儂の魔力は上がる。
「先ずは小手調べ。」
多くの生物は首を刎ねれば死ぬ。しかし奴の創りだした生物ともなれば、首だけでも獰猛に暴れ出す危険性は高い。ならば、一撃で粉砕する。
「火遁付与 夏の舞 打ち上げ花火」
両足に魔力を溜め、強く地面を蹴る。先の跳地到天より速度は落ちるが、そのまま次手に移る事ができる移動と攻撃を併用させた舞。
爆発音と共に身体は、再び向かい風を受ける。徐々にキメラという生物の顔へと近づく。
急所に敵が近づいても、キメラの反応はやけに鈍い。誘いかもしれんが一発くれてやる。
身体を一回転させ、脚が顔面に接触すると同時に、ドンっと夏を連想させる炸裂音が響く。
キメラの頭部は蹴り砕いたが、問題はその後・・・。
頭に、儂の声が聞こえてくる。香織ではない。儂の声。
“闘え”
分かっておる。じゃからこの怪物を倒して。
“一条とはまだ、決着が着いていない”
・・・そうじゃ。共に竜を討伐した事で、儂らは友好関係となった。じゃが同時に、どちらが上かを決める機会を失ってしまった。闘いたい。儂は一条と闘いたい。
「この気配は」
“現代の一条家次期党首。相手にとって不足無し”
何者かが結界に穴を空けたが、気配で直ぐに分かった。奏じゃな。鬼気とした気配を発しておるが、これは、前に酔った時と同じじゃな。
「儂の方に突っ込んで来おる。酔っておるせいか知らんが、儂が目的か」
“好都合じゃ。次期党首を討てば現党首を相手取れる”
声は儂に闘いを求める。暗躍から戦闘までこなす安心院は、強くなければならぬ。
3度の転生を経験し、やはりこの国で戦闘に関しては、安心院と一条が秀でている。
“決めねばならぬ・・・どちらが上か。安心院こそが、至高の一族!”
「と、面倒くさい柵を嫌い、儂は今の安心院を創ったのじゃったな」
宗家だ分家だ、名前は四季や色にするべきだ、忍は裏で動いてこそ真価を発揮するだとか。
くだらん。実にくだらん。
“闘え!勝たなければ証明できぬ”
勝手に言ってろ。儂は安心院が好きじゃが、古くさい安心院の体裁は嫌いじゃ。
古き伝統を守らねばならぬ類異に関しては、何とも言えんが。
しかし、なして頭にこんな声が響いて来るのか・・・。
「お、奏の奴、儂に殺気を放っておるな」
微かに獣の血の臭い。おそらく奏も、儂同様に怪物を倒した際に、何らかの催眠攻撃を食らっている。ただの催眠ならば、儂も奏も屈強な精神で跳ね返せるであろう。
じゃがこれは・・・闘争本能に訴えかける類いか。戦闘の歴史を持つ安心院や一条なら、
効果は強い。ま、闘いは好きじゃが、面倒事が嫌いな儂みたいな奴には意味無いがのう。
「見つけたぞ・・・ヒック」
あの様子じゃと、奏は術中にはまったか。高みを目指す奏を責めるわけにはいかぬか。
「催眠を解除するには・・・殴るに限る!」
さて、歯を食いしばれ。む、奏が持っとる刀、あれは確か・・・マズい!防がねば。
「また借りるぞ」
孤影を取り出し奏の一撃を受ける。剣術ではなく、腕力のみで儂が押される。踏ん張りが利かぬ、空中であることを差し置いても、儂を押し切るとは。よもやここまで。それより。
「随分と良い刀を持っとるのう」
2度目の転生時に出会った刀鍛冶、音神楽。奴とはよく酒を交わしたのう。
それを受け継いだのは奏か。なんという偶然。今の奏が「天宴会」を手にしてるとは、
鬼に金棒。魔力を纏っただけで受ければただでは済まぬ。
「出てけよ」
「む?」
「香織の中から出てけよ!」
そうか。此奴は儂を香織から追い出したい訳か。ふむふむ。やはり香織は、良い者達に囲まれておるわい。
「さて、今のでお主の等級は特級に届いていると分かった。手加減はせんぞ」
力は百合より上。しかし理性がない分、奴よりマシじゃな。
「夏の舞 風鈴刈斬」
斬るという概念の無い孤影をしまい、右腕に魔力を集中させる。
文字道理、手刀となった右腕を奏に振るう。当然刀で防ぐが、この舞は防がれる事を前提にした舞。腕が刀と接触した瞬間、リーンと穏やかな音が無数に響く。術者本人以外には、頭部が揺らぐ感覚に見舞われ、膠着状態に入る。これで奏は隙だらけ。
「さあ、歯を食いしばれ」
酔わずとも、お主ならば高みの遙か先にある領域にたどり着く。香織は修行相手にならぬが、良い友じゃ。楓も齢は下じゃが、党首同士仲良くせい。赫夜も有望、あの純粋さはお主と相性が良さそうじゃな。何より扇律は刀鍛冶でありながら、お主と剣を交える事ができる。
・・・そうか。香織だけでなく皆が互いを支え合っておる訳じゃな。
頑張れ。
「夏の舞 炎天散弾」
気温が高い日、太陽に近ければ近いほど威力が増す舞。これは効くぞ。
魔力を集中させた両腕は琥珀色を帯び、揺らぐ炎の様に纏わり付く。
儂の攻撃を食らうまいと、奏は体制を整えるが、遅い。一撃、二撃と打ち続ける。
地面に叩きつける頃には、奏は気絶していた・・・などと、事はそう簡単ではなかった。
意識が朦朧としている隙を突いた筈が、まさか奏はそれを全て防ぎおった。
もとい奏は正気ではない。故に意識が明瞭であろうと、曖昧であろうと関係無い。
本能が儂の攻撃を刀で防いだ。前言撤回。百合より恐ろしいのう。
「天吹が宴を持っていたら、それが今の奏であったかもしれんのう」
いや、それは無理か。むしろ天吹は扇律の方が相性が良い。などと、考えたところで意味は無い。さあて、戦況はどうじゃ。気配や魔力の動きから結界の外に出られたの萌香のみか。楓は最後に魔力を振り絞り、力尽きておる。百合は一瞬で気配が弱まり、ダニーとシャロは新たな結界に閉じ込められたか。そして、新たに感じた魔力。恐らく黒幕のもの。普通に闘れば儂が勝つが、今は目の前の奏の方が厄介じゃのう。
「今度は俺の番だ。必ず、香織を取り戻す。だって・・・」
「だって?」
「香織は黒髪の方が似合うんだよ!」
「ほっほー。そうかそうか。儂はこの紫髪を気に入っとるがな!」
決めた。奏はぶっ飛ばす。儂の容姿を否定しおって・・・女心を踏みにじりおって。
許さん!!!




