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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第6章:炎天下の弱肉強食戦
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『最終節:家の庭から石油が湧いたら良いのに』


かつて無いほど集中している。この人の魔力はA+を優に超えてる。時君以上の悪意で

満ちている。けれど、こっちも負けてない・・・なんて、どうして錯覚したのだろう。


「ウラァ!!」


百合さんが斬りかかろうと腕を振る。しかし、刃は相手に届かない。

刀が何故か宙に落ちている。百合さんの腕と思われるものと一緒に。


「これは驚きを隠せない。固定した腕が千切れるほどの腕力とは。」


相手は結界で百合さんの腕を固定し動きを封じた。その状態で腕を振った百合さんは

勢いのあまり腕が千切れて倒れ込む。


「ガ・・・ク。」


出血が酷い。直ぐに止血しないと。


「オレの心配はいらねぇ!」


驚くことに百合さんは筋肉で出血を止めた。けれどもう戦えない。


「シャロ、遠距離兵器で叩くぞ。」


「分かった!」


即座に構える私達。しかし、視界が青く染まり結界に閉じ込められたと気づいたときは

手遅れだった。全身に纏った兵器をいとも簡単に破壊される。そして結界が解除されると

辺りは紫色に染まっている。また結界だ。私と、ダニーと、謎の男しかいない。

という事は・・・。


「狙いは俺かシャロ、もしくは両方って事か。」


「そこの女だよ。なんでも、俺の依頼主はそこのシャロって人間が嫌いらしい。」


「ならどうして俺も閉じ込めた。シャロと自分だけ閉じ込めればいいだろ。」


「この結界は範囲が決まっているんだよ。それに、俺は君の方に興味がある。」


男は人差し指で真っ直ぐダニーを指す。


「俺に?」


「その前に、貴方は誰なの。脱走した頭?」


「おやおや、異国の人間が正義の執行者こと、頭 卵値を知っているとは。」


感情を込めないまま得意げに自分の名を語る。でも、この人、どう見ても・・・。


「お前の悪行は国を超えてんだよ。」


「悪行だなんて怒りを覚えるよ。大義の下の殺人は正義だ。」


「何の罪も無い人を殺してどこに正義があるのよ!」


「何の罪も無い・・・か。政府の裏切り者、政府の脅威となる人間を

 掃除しただけなのに。」


「まさかお前。」


ダニーは頭の言葉の真意に気づいたみたい。


「俺は日本政府直属の殺し屋なのだよ。身寄りどころか戸籍の無く

魔力がA+のため、政府に引き取られ殺しを命じられた。」


「日本で戸籍不明者がいるなんて。」


「どこの国にも、無責任な男と女が快楽目的で新たな命を産んでは捨てるという事なのさ。」


「解せない点が2つある。1つはお前の肉体が若すぎる。50年も牢屋にいたのに。

もう1つは精神操作なんて便利な魔法を使えるのに新たに結界魔法を習得したことだ。」


そう。目の前の男の人はぱっと見20代前半。そして頭 卵値の悪行は精神操作による

大量殺人。でも今回の事件の主は結界魔法の使い手。この人は本当に頭 卵値なの?


「肉体に関しては俺も驚いている。依頼主については話せないが、知の能力で

 若かりし頃に戻してくれた。魔法に関しては単純だ。おれの真の魔法は結界。

 精神操作だんなんてふざけた能力は政府が勝手に流したデマだ。」


「知力系の人が肉体を若返らせた・・・そんな、世界中の生物学者でもできない所業を。」


「あー、もう1つ疑問がある。キメラやら、大蛇が現れたそうだけど、あれは何だ。」


「実験だそうだ。ただ卵を配置するように指示された。あんな化け物が孵るとは

 予測付かなかったけど、おれの肉体を若返らせる技術があるなら驚くことじゃない。」


「そうだな、香織があっさり倒しちまったし、ドンマイって言っておいてくれ。」


「喜ぶのは早すぎるぞ。むしろ殺傷したことで安心院の元党首は今頃

心身を侵されているだろう。」


「香織君に何したの!?」


「聞いた話ではあの怪物を倒し、脳の臭いを間近で嗅ぐと闘争本能を刺激するらしい。

強者を求めて戦い続ける。一条の末裔もどうやら侵されてるみたいだな。」


そう言えば、八岐大蛇を倒したのは奏君。さっきも、まるで敵がどこにいるのか

分かってるかのように、森の中を突き進んだ。そして香織君がキメラを倒したのなら・・・。


「奏君は今、香織君と戦っている。」


途端。台風の様な衝撃が遠くから響いてくる。結界の中にいる私達には届かない。


「らしいな。どうやら互いに強者と認識し合ってたのか。あの2人にとってお前らは

取るに足らない存在という訳か。」


「随分と杜撰な計画だな。怪物を倒したのは他の人間だし、闘争本能を刺激してもシャロ

 意外と戦っている。それで結局お前が直接手をくだす。」


「何から何まで意味が分からない。別に私を殺すだけなら1人の時を狙えば良いし、

どうしてみんなを巻き込むの!」


「人間とはそういう者だろ。効率的、合理的に考えて行動すれば何も悩まなくて済む。

 なのに感情や世間体、プライド、名誉。様々な御託を並べて自分の行いを正当化する。

 最終的にシャーロット=レーンを殺せれば過程は何でもいい訳だ。」


頭の言っている事を理解する気は無い。今は、この人を殴りたくてしょうがない。


「お~い。落ち着けよシャロ。既に犠牲者は出てる。今はこれ以上被害を拡大させない

 ように動くべきだ。」


そうだ。楓君はもう魔力が枯渇して、百合さんは両腕を失った。奏君はまだ外で戦っている。


「なあ、頭。取引をしよう。詳しくは知らないが、あんたは俺が目当てなんだろ。

 あんたの目的に協力するから、シャロには手を出さないでくれ。」


「良いよ。」


あっさり了承する。・・・けど。


「私なんかのためにダメよそんなの。約束したところで護る訳がない。」


「禊の契りを使う。それなら良いだろ。」


「禊の契り?」


「魔力における最上位の契約。1度結べばいかなる人間でも解除できない。」


本当かどうか信じられない。けど、ここまでの会話で嘘は言ってない気がする。


「契約内容はこうだ。“頭 卵値はシャーロット=レーンに手を出さない。

その代わりダニー=ミラーは自らの手で死ぬ”。」


「何よその内容。貴方、ダニーに恨みでもあるの?」


「世間では俺は自殺強要の殺人者なのだろ。だから次第に、自ら死を選ぶ人間を

間近で見たくなってな。」


「どこまで人を弄べば気が済むの。それにダニーを選ぶ理由にはならないじゃない。」


「計画上、あらゆる人物の情報は調べて貰ったが、唯一の異物がお前だ。

 どうして突然留学なんかをしたんだ。」


私も香織君も気になっていた、ダニーの留学の理由。それが関係しているの。


「調べたくせに言わせるのか。は~、シャロが、新しい彼氏が出来たから・・・。

 ちょっと、いや、思いっきり嫉妬したんだ。」


「・・・え。」


ダニーが嫉妬?私を裏切っておきながら、それに、新しい彼氏って。


「香織と付き合ってるんだろ。一緒にダンスパーティ踊った写真をSNSで見た。」


公募行事の奴だ。でも、別に付き合ってるだなんて文章は書いてない。


「だから、好きな人にカッコいいところ見せたくて、交流会対戦校の帝王に留学した。」


頭の発言以上に信じられないでいた。せっかく私が造った銃を裏切って他の銃に浮気

したダニーが、私のことを好き?


「だからおれはお前をターゲットにした。愛する人を天秤にかければ死を選ぶ人間候補

 第1位のダニー=ミラーを。」


「その目論見は正しい。俺はシャロを護れればそれで良い。契約成立だな。」


 頭は手をかざす。赤い魔方陣が頭とダニーの心臓の位置に現れ刻まれる。

そうしてダニーは懐から銃を取り出した。先の結界で私同様に武器を破壊されたのに

まだ持っていた。それは、私が永遠の愛を込めて造った・・・アカペー。


「お願いやめて!私はそんな事の為に造ったんじゃない!」


「おいおい。そんな事なんて言うなよ。俺は嬉しいぞ。

 やっとこいつを使う事ができるんだからな。」


「嬉しいって何よ。せっかく私が造ったのに、他の銃に浮気して。」


「・・・ずいぶんと重い事情があるみたいだね。ダニー。

今右の手にある殺人に特化した兵器は他のとどういう違いがあるんだい。」


「俺がこの銃を使うのは・・・。」


8年間。私は何をやっていたのだろう。向き合う事から逃げて、私はダニーに何てことを。


「シャロを護る時だ。そんな顔するなよ。なんかさ、大丈夫な気がする。」


ほんと・・・何言ってんだか。銃口を頭に向けて、これから自死するって状況なのに。

ダニーはいつもと変わらず優しい顔をしている。私が大好きな顔。


引き金を引く刹那。私達は、最後の最後に言いたい事を言った。


「シャロ、愛してる。」


「私もダニーを愛してる。」


そうしてダニーは引き金を引いた。静かな銃声と共に、残酷な花火が咲き散る。



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