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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第6章:炎天下の弱肉強食戦
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『第7節:いつか言ってみたい台詞“首尾はどう?”』


クッソ。こんな事なら香織に怪物を倒す英雄アニメの話とか聞いておけば良かった。

多対一の戦闘訓練も実戦も積んできたが、あくまで人間が相手の場合。

巨体で頭が8つもある怪物じゃ話は別だな。広範囲の剣術でやっと頭1つ狙える程度。

残り7つの頭が隙を突いてきやがる。時間を稼げば良いんじゃない。敵の目的が不明な

上にいなくなった生徒達の救出もしないといけない。

自分より怪力な相手を想定した受け身と回避の歩行で致命傷は避けているが防戦一方。 

どうしたらこいつを斬れる。


・・・はは、終局しか思い浮かばねえ。けど無理だな、A+じゃないし。

一条の人間は終局を使った事が無い。いやそれ以前に、ここで命を堕としてはダメだ。

明日身体がどうなってもいい。けど・・・今日は全身全霊で闘い抜く!


「夏風物詩 花火 憑依」


眼前の八岐大蛇は声を上げた。怒りの様な、焦燥が伝わってくる。

直後、夏の風物詩とも言える轟音が耳を劈く。


「安心院体術 地の術 殺凸」


今のは忍術と体術の複合技。


「楓!そんな大技使ったらバテるぞ。結界を破壊すれば終わりじゃないんだ。

 先を考えて魔力も体力も温存しろ」


「この結界は魔力A+でできています。全力でないと破壊できません。

 それに、ぼくが倒れても奏さんがいます!」


兄弟揃って煽りがうめえな。俺がこの怪物を倒すの前提で言いやがって。

それだけ信じられてるんだな。八岐大蛇も焦ってる。楓が結界を破壊できると思ってるのか。

なら、こいつを倒せば会場のみんなを助けにいける。先だの何だの考えてる場合じゃない。

楓みたいに、目の前の事に全力にならないで・・・。


「人を護る一条の名を名乗れるかよ!」


途端に懐が光り出した。探ると、今まで知らなかったポケットがあり、中には人差し

指の第一関節程の小さな巻物があった。何だこれは。どうしてこんな物が。

疑問で頭が埋め尽くされるが八岐大蛇は首を振り攻撃してくる。

交わしながら巻物を開くと、出てきたのは日本刀。初めて見るやつだ。

木製の白い鞘に収められた日本刀を握ると、頭の中に親父の声が響く。


“こいつを遂に手にしたか我が息子よ・・・やるやん!”


真面目に話し出したかと思えば軽い口調に変わる。まるで香織みたいだ。

必死で八岐大蛇の攻撃を躱し続ける中、親父の言葉は続く。


“どうやって渡そうかと思ってさ、彩華のやつに相談したらこの方法を提案してくれたんだ。

 お前が一条の、人を護るって宿命を真に自覚した時に巻物が光るんだよ。”


真にって・・・俺は今まで自覚が足りなかったのか。けど、どうしてこの袴なんだ。

他にも俺は戦闘用の袴を幾つか持っている。偶然とは思えない。


“一応どの袴着ててもいいように全部に仕込んだ。もう他のはただの巻物だから

 適当に処分しといて。”


周到なのか適当なのか、とにかく俺が一条の人間であると認められたんだ。

とは言っても自覚だけで握って良い刀なのか。木刀で剣術を修めて初めて

特定の刀を握る従来の一条のやり方と全く異なる。いきなり渡されても使いこなせるのか。


“名を「天宴会」一条の中でも随一の刀鍛冶が酒を飲みながら打ち、

 打ち終わると同時に息絶えた名刀だ。書記では死に顔は満面の笑みだって。”


んな情報いらねーよ。この刀はどんな型を使うのかとかそういうの教えてくれ。

すると黒い小さな粒が1粒現れる。これは・・・チョコ?


“たぶんチョコが出てきたと思うから、必要に応じて食べて。じゃ、頑張れ~。”


「ったく。色々適当だな。チョコが必要な時ってどんな時だよ」


でも、親父は全く意味の無い事をする人間ではない。渡してきたからには

このチョコには重大な役割がある。このまま八岐大蛇と闘っててもジリ貧だ。


「信じるからな、親父!」


チョコを口にすると、身体が軽くなった。薬でも入ってるのか?

まぶたが重くなり徐々に視界が暗くなる。それに、意識が・・・。










あと・・・1発。複合技を放てる。それでも結界を破壊できないけど、確実に脆くする

事はできる。中がどうなっているかは分からない。でも、兄上ならぼくの魔力を感知して

内側からここを破壊してくれる筈。


術を出し切ったらぼくはもう戦えない。けど、奏さんに兄上にシャロ先輩。

窈窕の升園さんや帝王のダニーもいる。ぼくがいなくなっても強い人はたくさんいる。

だから、今自分にできる事を!


「ジャガァァァァァァァ!!!」


再び八岐大蛇が声を上げた。さっきの警戒とは違う、まるで断末魔の様な。

奏さんが倒しのか?視線を奏さんと大蛇の方に向けると大蛇の頭は全て斬り

落とされていた。凄い。奏さんはやっぱり凄い。


「奏さん!」


巨大な大蛇の死体の上に立つ1人の存在。重心が左右に揺れておぼつかない様子。

奏さんだ、相当疲弊している。そう思っていたが違った。あれは・・・。


「そんな、どうして」


「ヒック・・・おー楓。た~お~し~た~ぞ~!」


「よ、酔ってる」


どうして。前回は兄上と奏さんの小学校卒業祝いの時、兄上のイタズラで激辛料理を食べた

奏さんが水と間違えて日本酒を飲んだのが始まり。安心院、一条に多大な被害を出した。

しかし、奏さんの剣の才能を開花させたきっかけとなった事件。

酔った勢いで暴れ出す奏さんを父である琴刃さんが竹刀で止めようとした。

しかし、琴刃さんの剣を教わっていない剣術で対抗した。


誰もが驚いた。一条の剣術の中でも更に高度な妖怪剣術を取得するには武力Aと知力Aが条件。知力のAを満たしていない奏さんは、使えるはずがない一族相伝の剣術で父に対抗してみせた。


一条には数十年に1人。一族の遺伝子に刻まれた記憶を呼び起こし、数多ある剣術を

短期間で習得できる才能の持ち主がいる。それが奏さんだった。酔う事が引き金のため、

未成年の奏さんは以後記憶を呼び起こすことはなかった。その筈だが目の前の現状。


「さ~~。まだ終わりじゃない。行くぞ!」


・・・理性がある?前回は視界に入るモノ全てを破壊して回ったのに、目的を認識してる。

賭けだけど、行くしかない。


「はい!ぼくがもう1度複合術を使うので奏さんは続けて攻撃してください」


「必要ない。俺がやってやる」


「え?」


おぼつかない足取りの奏さんは、ゆっくりと大蛇の亡骸から降りてくる。

そして、地面に降り立った瞬間、視界から消えた。奏さんが消えると同時に衝撃音が

後方から響く。慌てて振り返ると、大蛇なんかよりよほど恐ろしい存在を目にする。


「酒呑童子 戯れ」


今までの奏さんは見とれる様に整った姿勢で剣を振るう。けど、今目の前では・・・。


「鬼が、暴れてる」


姿勢も剣の持ち方も振り方もでたらめ。なのにその威力はこれまで見た事ないほど強力。

もしかしたら、本当にこのまま、結界を破壊できるかもしれない・・・その時は。


「奏さんの武力はA+になる」


見たい、A+になった奏さんを。しかし、今はその考えを捨てろ、数々の非常事態。

最悪犠牲者が出るかもしれないんだ。ぼくは安心院、安心院楓。人の役に立つ一族の人間だ。


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