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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第5章:蒸し暑い日に迫る冷血な手
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『第8節:自分には関係無いけどよく聞く四字熟語は確定申告』


「この中に魔力クラスの者が何人かおる。

 そもそも、魔力とは、どこから生まれるか知っておる者はどれくらいおるかのう」


魔力クラスのみならず、会場にいる若人全員が思考を始める。

“魔力とは”三大ステータスの一角。未知なるエネルギー。

一般的にはそう認識されているが、どこから生まれるか・・・か。


誰よりも速く回答を出したのは、日本有数の魔力の家系、

その次期党首である弟の安心院 楓だった。


「不明です。魔力の根源は未だ解明できないということが分かっています」


「ほっほ。速いのう。お主、名は何と申す」


「英証雌雄学園1年。安心院 楓と申します」


「おお。今年は正当な安心院を見られそうじゃ」


「正当な?」


「赫夜さん」


他意を感じさせる発言に赫夜が反応する。そう言えば、昨年も

僕は軽く煽られた気がしたような。


「そう。魔力とは、誰もが内に秘めているが、扱える者は限られておる。

 武力が駆使する肉体、知力が駆使する頭脳とは似て非なるモノ。

 未知なる部分が多い故、日々の生活で学ぶ常識を遙かに凌駕する現象を可能とする」


確かに、昔は父に言われるがままに魔力を操作して四季忍術を使えた。

才能を失ってからろくに魔法が使えなくなったのは、あの薬のせいだと

結論づけたけど・・・そもそも何気なく使っていた魔力とは何か。

いや、それ以前に、和さんは何故魔力の話をし出したんだ。


「心して聞いて欲しい。連続誘拐魔の(ほとり) 卵値(らんち)が脱走した」


「え!?あの頭 卵値!!」


会場にいる全員が声を上げる。今回ばかりはデカい声を聞いても文句は言えない。

何せ、魔力A+の犯罪者 頭 卵値の脱走・・・いや、生きていたなんて。


50年以上も前の話。ある1人の魔力使いが起こした連続誘拐事件。

発動の条件は不明だが、意識を操り対象を意のままに行動させる。

誘拐の対象は老若男女。発見時には・・・皆、自らの意志で自殺していた。

否、自殺するよう意識を操作されていた。

必死の想いで警察、遺族、民間団体が捜索し遂に逮捕に到った。

犠牲者が優に100を超えていることから判決は即座に死刑。

・・・意識が操作される恐れがあるため、取り調べは最低限、死刑執行も

秘匿ではあるが異例の方法が執られたとかそうでないとか。


最悪の殺人事件として50年経っても語れる犯人。

頭 卵値の存在はこの世から完全に消えたはず。

では、和さんの言葉の真意とは。


「諸君らが先ず脳裏に過ぎるのは、何故処刑された筈の頭が

 脱走したのか。ではないかのう」


そう。皆が首を縦に振ると、和さんは話を続ける。


「実は・・・先に述べたように、魔力は常識を遙かに凌駕する現象を可能とする。

 奴を処刑したその後、魔力や術式がどのような現象が起こるか皆目見当もつかない。

 よって、世間では処刑したと公言し、特別監獄で寿命が尽きるのを待つことにしたのじゃ」


なるほど。そりゃ納得。魔力に関わらず、優秀な人間の死体は、闇市場で取引

されてるとか噂で聞いた事ある。自身の死体が他人に渡るくらいなら、木っ端微塵に

骨すら残さないようにする者もいると聞いた。魔力封印装置を使っても、A+とも

なれば非常事態が起きる可能性を否定できない。直接手を下して被害を出すくらいなら、

寿命が尽きるのを待つ。まあ、寿命で死んだからと言って安全とは言えないが、誰かが

手を下すよりかはマシな判断かな。


「監獄はここの近くでのう。奴がここを狙ってくる可能性は十分ありえる。

 まだ・・・いや、政府はこの件を秘匿にするかもしれん」


面子ってやつか。もしかしたらうちにも捜索の依頼来てるかも。


「この話を諸君ら、団体戦参加者に話した理由は1つ。

 もし頭を発見もしくは手がかりを得たら報告して欲しい。

 奴は他人の意識を操る。明日、3校の全生徒に話せば疑心暗鬼による

 暴動が起こりかねん」


和さんが僕らに話す理由は、それだけ生徒を信用してるからと言えよう。

しかし、いかに精鋭集団と言えど、魔力A+の攻撃に対応できるだろうか。

捕まえてやると意気込む表情を浮かべる者がちらほらといる。いかに多くの優秀な

人材を育成し、世に排出してきた帝王・窈窕・英証の生徒であっても・・・。

やはり、大犯罪者が近くにいるかもしれないという、恐怖と不安の表情を浮かべる

者も少なくない。


「さて、更に諸君らに報告せねばならぬ事がある」


いっこうに明るくならない和さんの表情。

その報告じゃ、交流会史上最大に悲報であった。


「今年の交流会は総合団体戦のみ行う。

 1週間かけて行う交流会は、明日の開会式と総合戦。

 明後日の閉会式のみじゃ」


「え、ええええええええ!!!!」


わー、まあ、そうなっちゃうか。サッとやってサッと帰る。

ここのセキュリティも堅いが、やはり各々の学園の方が統率も取りやすいし安全かな。

にしても今年はクラス団体、個人戦無しか。3年生は気の毒だね。


「わ、わわ、私、今年最後なのに」


おーっと。我らがシャーロット=レーン先輩が顔を真っ青の染めている。


「香織君!!」


ポツンと1人で(手島とやらが隣にいるが)いる僕に先輩が泣きついてくる。


「えー僕っすか。愚痴るなら奏にしてください」


「聞こえてるぞー」


「だって、せっかく2人で特訓したのにーー!!」


待て待て待て。容易に2人でとか言うな。見られてる、めーっちゃ見られてる。

かのレーン財閥ご令嬢と何があったんだという目で見られてる。

先輩の泣き声が宴会場に響き渡り、顔合わせはお開きとなった。

・・・意識を操る誘拐魔。自分の意識すら信用できない。

もしかすると、既に誰かの意識も操作されているかもしれない。

そんな懸念の中で行われる交流会。

 

“お前ごときが心配したとてどうにもできん。もしもの時は、儂がなんとかしてやる。”


急に頭にあいつの声が響く。本当にどのタイミングで話しかけてくるか分からんな。

まあ、魔力A+の殺人鬼が相手ともなれば、こいつの能力は確かに必要かも知れない。


同じ学び舎の人間にすら疑いの目を向ける者がいる中で、皆が会場を後にした。


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