『第5節:美女は・・・と言うか人間関係は距離感が大事』
アナウンスがあり勝者は指定の場所まで来るようにと言われ、
勝利の余韻に浸りながら僕は向かう。
学園で一番大きい桜の木の下で待つ彼女を綺麗だという表現しかできない
自分の語彙力の無さが憎い。
漫画を持った僕を見ると、大きく手を振り呼びかけてくれた。
「おめでとう!まさか追いかけっこで負けるとは思わなかった」
「逃げるだけなら自信あるので」
「何かスキルが関係してるの?」
「はい、あまり詳細は話せませんが」
スキルは教えても構わないものと教えることで不利になるものがある。
【逃げ足】B+は手足さえ付いていればどれだけ怪我をしても対象から逃げ切れる。
逆に五体不満足なら機能しない。これは秘匿にするべきだろう。
「うんうん、秘密にしておきたい能力はあるから深くは聞かないよ。
でも逃げることに特化したスキルか、これなら逃げれないだろ!」
・・・ハグされた。母と赫夜以外の女性にハグされた。
嘘だろ、なんでこんなフレンドリーなの?アメリカ人半端ねーな。
「ちょちょ、恥ずかしいので」
「ウブだな~、私はシャーロット=レーン。知力クラス2年よ、貴方は新入生よね?」
「何でわかるんですか?」
「だって学園中の人の顔と名前覚えてるもん。
1年生はこれからだけど」
「す、すごいですね」
3学年含めて生徒数500名以上。
その生徒全員を覚えようなんてどんな記憶力だ。
いや、知力A+ともなれば余裕か。
「貴方の名前を教えて」
「安心院 香織。武力クラス1年、忍専攻です」
「あー、なるほど!だから奏くんと親友なんだ」
「そんなこと言ってたんですか」
「安心院って人材派遣会社の大手で、一条とも深い繋がりがあるんでしょ」
「はい、僕と奏は家の付き合いで昔からの仲です」
「あの一条と安心院のコンビと勝負できたなんて光栄だな。ありがとう!」
なんて真っ直ぐな言葉で綺麗な笑顔をしてるのだろう。
世界中の人がこの人ぐらい誠実なら世界から戦争はなくなるのではないか。
もしこれが演技ならアカデミー賞もんだね。
「そうだ、賞品は何がいい?」
「この漫画ください」
「え、それでいいの?」
「はい、元々これを傷つけないようにするのが目的だったので」
疑問だという表情を浮かべる先輩に一通り説明をすると
深々と頭を下げてきた。
「ほんとう~~~~~に、ごめんなさい!!」
「頭上げてください。無事だったので僕は満足ですし」
「本当?」
う、うわー。美女の上目遣いだ。かわえー。
「はい、無事だったんで本当に気にしないでください」
「香織君も漫画好きなんだ」
「そうですね、漫画全般好きです。あとアニメも」
「私も好きだから今度語ろうね」
「喜んで」
こんな趣味が合う美女と知り合えるなんて。
入学早々良いことがあったと勘違いしたことを後々後悔する。
この後、僕と先輩の関係は最悪なものとなる。
「奏君とまた勝負する約束したから、香織君とも一対一で勝負したい」
「いや、先輩と張り合えるほどの実力はないので」
「気軽にシャロって呼んで、安心院家の党首って代々戦闘でも実力があるんだよね。
強くなるためにやろうよ」
「家を継ぐのは僕じゃなくて弟なんで」
「弟いるんだ、弟くんの方が実力あるの?」
「はい、自慢の弟です」
「香織君も努力すれば可能性あるでしょ」
「無理なんです、僕は才能を失ったので」
「どういうこと?」
「言葉の通りです」
「ちゃんと説明して」
「え、嫌です」
笑顔が消え、目を細めて明らかに怒りの表情を浮かべる。
こ・・・れは、地雷踏んだか?
「・・・どんな理由があるのか知らないけど努力しない理由があるとは思えない」
「党首になるための努力。でも党首には絶対になれない、なら努力する理由はない。
これでどうですか?」
「だからなれない理由って何、才能が無いとか何でわかるの!」
・・・先輩が言いたいことは分かる。
やらない理由ばかり並べる人間がどれだけ愚かで
そんな人間が自分だということも自覚してる。
しかし才能が無いのではなく失ったのだ。
「じゃあ、理由は強くなりたくない。これなら十分ですよね」
「言わせてもらうけど、そんな向上心の無い人がこの学園にいる資格は無いよ」
あー、夏目漱石の作品に似たような言葉があったなー。
にしても何で実力のある人は資格とか謎の格付けをしたがんだ。
「なら証明してくださいよ。才能の無い人でも強くなれるって」
あまりにグイグイ来るためついくだらない反論をしてしまった。
そして、この発言がきっかけで僕の日常が大きく狂い始める。
「・・・いいね!!香織くんを強くすればいいんでしょ」
「証明できたら教えてください、そのときは・・・。
え、僕を強くする?」
「そう!香織君を強くできたら才能が無いからって諦めてる人たちに
努力する理由を証明できると思うの」
良いこと思いついたと言わんばかりの明るい表情をしているが
ぜっっっっっったい、やだ。
「いや、強くなるなら先輩が武器作ってくれれば早いんじゃ」
「それじゃあ他人に頼ることしか覚えないでしょ」
「・・・ですね」
「善は急げ。先ずは香織くんの身体能力を隅から隅まで
把握してトレーニングメニューを考えないと」
「隅から隅まで」
・・・いやいや、変な妄想してる場合じゃない。
確かに先輩は知力クラス。研究テーマを決めたならひたすら研究するのは当然。
だが付き合わされるなんてたまったもんじゃない。
「早速私の部屋に行こっか」
女性の部屋・・・行きたい、凄く行きたい。
しかしここで行けば人体実験をされるのは明白。
逃げなければ。
「あ、あの雲キリトくんに似てる」
「どこ!どこどこ!?」
やっぱキリトくんは人気者だな!
こんないろいろ無理のある嘘で先輩の隙を突いて逃げ出す。
「って、こらー!」
その日は無事に逃げ切れた。しかし次の日から毎日毎日僕を強くするため
絡んでは来るがこれがなかなかどうして執念深い。
奏が時折助けてくれるがやつも女子生徒から追われる身(リア充ファック!)なため
自分の力で逃げ切るしかない。
そんなこんなで1年が経過しやっと勝負に挑んでは
絞め技食らって泡吹く目に合ってる。