『第8節:見た目からでも中身からでも好きに悪はない』
さぁ・・・何故こうなったのか。
僕と柊が一騎打ちするという話は、昨晩宴会場にいた者のみが知り得る筈。
なのに会場には多くの生徒が観戦しに来ている。
たかだが一戦のために屋台が開かれ、応援団にチア集団。
どちらが勝つか賭けも行われている。
この学園はイベントに対する意欲は相当のもの。
さすがに500人以上もいれば僕みたく、自発的に参加しないやつは
ちらほらいるけど。大多数は積極的に盛り上げていく。
そのため、[企画運営会]と[建築物研究会]の行動力は恐ろしく速い。
決闘場の近くに僕と柊用のベンチが設置され、カメラやモニターなど
試合観戦に必要な物をたったの一晩で用意した[建築物研究会]。
飲み物やタオル、次々と高級そうなケーキや和菓子が並べられる。
僕が甘党だからか[料理研究会]からパティシエを呼んで、
試合前にコンディションを整えようとしてくれた[企画運営会]。
昨日までいつもと変わらない決闘場が天下一武道会の様なお祭り騒ぎとなっている。
「・・・で、何のためにわざわざ一般生徒にまで教えたんだよ」
即席ベンチでもぐもぐとお菓子を食べながら奏に質問すると、
腕を組み頭に?マークを浮かべながら答える。
「いや、分からない。本当だ。そもそも香織と直木の決闘が
決まったのは昨晩なんだぞ」
奏はくだらない嘘はつかない。となると、柊もしくは宴会場に
いたやつがベラベラと話したんだな。
「お祭り騒ぎになっちゃったね」
浮かない足取りで先輩がやって来た。
この人もイベント大好き人間の1人。なんなら今もノリノリで
パフォーマンスしてるチア集団にまぎれてもおかしくなさそうだが。
あまり気乗りしていないのか。
「いったい誰が」
「直木君みたい。[企画運営会]に依頼したんだって」
「・・・なるほど」
「まあ、あいつならやりそうですな」
多くの生徒が見てる前で公開処刑が目的だろう。
別に僕が弱いのは周知の事実だが、武力団体戦メンバーに
勝ったともなればメンバー交代の声が上がるかも知れない。
「香織、勝てよ」
「やれるだけやるけどさ、やらかしちまった」
「どこか体調悪いの?」
「試合後のご褒美のドーナツとコーヒー・・・食べちゃった」
「「・・・おい!!!」」
声を揃えて突っ込む2人。
いや~コンディションを整えるために用意されたのが、
逆にモチベーションを下げるとはね。
「ち、ちゃんと本気出してよ。香織君が勝つって信じてるから」
「おーっす。頑張りまーす」
「絶対だぞ。香織、絶対勝てよ」
「保証はできんな」
やけに慌ててるけど、赫夜のためでもあるし、安心院の名を背負ってるし
手を抜くなんて馬鹿な真似はしないさ。
「安心院香織さん、舞台に上がってください」
運営会の人に指示され、軽く準備運動をして舞台に向かう。
階段の手前で、可愛らしい高い声が聞こえてくる。
「兄上―!」
声の方に視線をやると、手のほらサイズの小さな包みを持った楓が
全速力で駆け寄ってくる。
「おお、楓。どこ行ってたんだ」
「昨晩決闘の話を父上に報告したら、今朝父上から兄上にと包みが届きました」
「それは・・・」
包みを開くと、小さな球が入っていた。
ピンポン球程度の大きさで橙色をしている。
見てるだけで暖かく安心する気持ちになれる。
「え、何これ」
「忍具・・・でしょうか」
「新しいの開発したのかな」
包みを広げると1枚の紙が落ちる。
文字が書かれており、父の字でこう記されていた。
“我が安心院史上最高の忍具製作者が、当時の党首が人生最後に
言い残した「四季は円を成している。」を基に開発した唯一無二の忍具だ。
これは太陽の輝きを秘め、新たな道標を示す代物。
香織なら上手く使うだろう。”
「いやいやいやいや。こんな大事な物使えんわ」
唯一無二で制作者がもういないって、正真正銘ラス1じゃん。
「父上は無謀な事はしません。この忍具が兄上を勝利へと 導く筈です!」
「いやいやいや」
「いやいやいや」
「「いやいやいやいやいやいや」」
声を揃え徐々に腕を横に振りながら高く上げていく。
「はいはい、いいから香織君は速く行く!」
先輩に背中を押され舞台に上がる。
とりあえず忍具を受け取るが、そもそも使い方がわからん。
太陽の輝きを秘めてるとか火遁系か?
それとも罠とか不意打ちとか奇策用か?
託された物の詳細を調べる間もなく舞台に立つ。
正面には胴着を纏い、仁王立ちで不敵な笑みをこちらに
向けてくる柊がいる。
「こんな大勢の前で負けたら、安心院の名も地に墜ちるな」
安い挑発にどう反応していいのかわからず、とりあえず
謎の忍具の使い道を考える。
「むかつくんだよ。実力も無いくせに家の名前だけで
チヤホヤされる奴が」
詳細はわからない、けれど父は僕なら使いこなせると思ってる。
忍具の扱いで父に最も誉められたのは忍具を使うタイミング。
この謎の球体もタイミングが重要なのか?
だとすると、接近戦で猛攻撃を仕掛けてくる戦法をとる
柊なら、使い所は多そうだ。
「安心院さん?・・・安心院さん!」
「へ・・・あ、はい」
マイクを持った司会らしき男に怒鳴られた。
周りの声が聞こえなくなるぐらい考え込んでたのか。
「ルールを説明します。舞台は結界で囲まれ場外負けはありません。
ダウンした後、10カウントを取られると負けになります。
あらゆる武器の使用は認められますが、死に至らしめてはなりません」
いつ決まったルールなのか気になるが、特に不満もないので承諾する。
「好きな忍具で来いよ。それより負けた時の言い訳でも考えた方がいいんじゃないか」
「勝った時のご褒美考えてた」
「夢見んな雑魚が、試合が終わったらお前はベットの上だよ」
「あのさ・・・」
「あ?」
「さっきから言ってる事が噛ませ過ぎるんだけど」
「殺す!!!」
司会が舞台の外に出ると同時に柊が仕掛けてくる。
なんか前も余計な一言で相手を怒られた記憶が。
・・・そういえば、謎の軍人の正体はわかったのだろうか。
この試合が終わったら先輩に聞いてみよ。




