『第4節:健康には気を遣っとけ』
知力クラスの交流会は武力・魔力の様に対抗するものではなく、
各々の研究内容を発表、もしくは自分と同じ研究をしてる人と交流を図る。
なので知力クラスが話し合う事は特に無く、当日まで自分の予定で研究に没頭する。
責任者の先輩が問題を起こした武力クラスの様子を見に来た。
「どう?順調かな」
「はい。全員で46点、50点を下回ってるので特典を使って
勝ちを取りに行きます」
「良い感じだね。ところで香織君は何を書いてるの」
「遺書です」
「遺書!?」
「香織が大げさなだけです。実は・・・」
僕が王様で【逃げ足】強化のため、当日までは先輩と鬼ごっこの特訓をした際に、
誤って死んだときのための遺書を書いてるの説明すると、割とガチで怒られた。
「お袋にも怒鳴られた事ないのに」
「本当に香織君は私を何だと思ってるの」
「先輩」
「そーじゃなくて!」
別に間違った事は言ってない筈なのに、また怒鳴られた。
身長近いから、顔も近くてちょっとドキドキする。
「まあまあ。とにかく、シャロ先輩にも特訓に付き合って貰いたいのですが」
「勿論協力するよ。今年はちょっとハンデがあるからね」
「先輩の準備は大丈夫なんですか」
「香織君の特訓に付き合う程度の時間はあるよ」
指をポキポキと鳴らし、やる気を見せる先輩。
僕あれできないんだけど、どうやってんだろ。
「奏君もやるんでしょ?」
「そのつもりでしたが、シャロ先輩の速さについていけないので、
裕真と重虎の相手します」
「わかった!香織君は私がしっかり鍛えるから安心して」
「お願いします」
奏は一礼すると、高山と清水の方に向かう。
僕も準備運動を済ませ、特訓に入る。
「香織君の逃げ足の速さはスキルが関係してるんだよね」
「はい、なので交流会までに少しでもステータスを上げたいです」
「ん~。でも、1年間私に追いかけられても上がらなかったし」
「何か工夫が必要ですね」
「良ければ、スキルの詳細教えてもらえる?」
スキルは、詳細を明かしても良いモノ、明かすと不利になるモノ、様々だ。
僕の【逃げ足】は四肢さえ繋がっていれば、どんな状況からでも逃げ切る。
ぶっちゃけ楓のおかげで、足斬られようが、腕斬られようが回復するし
詳細が漏れるのは大した事じゃないと思った。
けれども、あの回復能力についてや、回復中は強い光を出す点は
あまり知られない方が良いと判断して不用意に他言するのを避けた。
ただ先輩は僕の過去を知る人だし、何より信用できる。
詳細を話してステータスアップの方法を一緒に考えて貰おう。
「なるほど・・・五体満足なら逃げ切れる」
「仮にどっかしら失っても回復して、裏をかくなんて手も考えてます」
「それだけの傷を負わせるには、香織君がスキルを使う前に攻撃する必要があるよね」
「はい。でも、昔から不意打ちの訓練はそれなりに
こなしてるので大抵の攻撃は避けます」
「香織君って・・・直接攻撃が不得意なだけで結構強いんじゃ」
「この世界は三大ステータスが全てですからね。
魔力も武力もB未満は門前払いもいい所です」
「そんな事ないよ。武力ならB+まで成長できるし」
「四季忍術が売りの安心院で魔力BどころかD-なんて、
誰から見ても劣等生ですよ」
「でも!世の中、個人スキルが認められた人はたくさんいるし」
「僕が安心院の人間でなければ・・・そうかもしれませんね」
「・・・」
口を閉ざすという事は、先輩も多少経験があるだろう。
名家に生まれた者は、その瞬間から期待される。
僕の父も母も、安心院の名を失わせないため、
時に厳しく教育する事はあった。
だが、いつも両親は僕と楓を、1人の息子として大切に育ててくれた。
それこそ忍の才能を失った時でも、僕の命が無事であったのを
心から心配してくれた。
ただ、安心院家の長男は落ちこぼれ。弟こそ有望。関わるなら弟だ。
・・・と、周りに存外に扱われた。
先輩はどうなのだろう。生まれた時から知力A+。
数々の発明を行い、若くして社会に貢献した天才。
これまでの人生は、レーンの名に恥じない人生だったのであろう。
・・・しかし、時にその名が重荷になった事はあるか否か。
聞きたいけれど、踏み込んではいけない領域。
「さて、話を戻しまして、どうやってステータスアップしますかね」
「1つ思い付いたんだけど、香織君の四肢をギリギリまで
傷を負わせた状態で、私と追いかけっこするのはどうかな?」
・・・ん?ギリギリまで?
「え~っと。それは、一体、どういう」
「今まで香織君は五体満足でスキルを使ってたんだよね」
「はい」
「なら、ギリギリまで傷を負った状態でスキルを酷使すれば、
ステータスが上がると思うの」
「名案と言いたいですけど、僕の場合傷が回復しますし」
「あ、そっか」
「常時傷を与え続けるギブスとかあれば可能ですけど」
「・・・それだ!」
「え?」
「待ってて、今すぐ傷を与え続けるギブス造るから!」
そう言って先輩は自前のスーツを起動させ、疾風迅雷の如く姿を消した。
「え~っと、傷を与え続けるギブスって?」
ただ独り、誰が聞いてる訳でもないのに質問の言葉を発する。
これからはよく考えて発言しよう。
自らの軽率な発言により、交流会までの1ヶ月。
僕は地獄の日々を送る羽目になる。




