『第3節:出会いは唐突オタクは強烈』
「ちゅーもーく!」
なんだなんだと声の方向に目を向けると、屋上に身体のラインが分かるほどタイトな黒いワンピース型の軍服を纏い、ブロンドヘアーを風に靡かせる少女が立っている。
「今からみんなに勝負を仕掛けます」
勝負というワードに反応し多くの生徒達が構えだす。
中には今日の勝負内容は何かと期待に胸を膨らませる者。
中には彼女のローアングル写真を撮るのに必死の者。
一先ず言えることは、彼女はこの学園の有名人のようだ。
「おほほ、シャロたん今日もカワワ」
「シャロたん?」
「なんだお前、彼女を知らないのか!!」
ぱっつんぱっつんのジーンズ、目がチカチカするチェックシャツを着てどっぷりした腹のせいでボタンが弾けそうだ。ダサい丸眼鏡に指無しグローブを着けたTHEオタクみたいなやつが怒鳴ってくる。こんな絵に描いたようなオタクいたんだ、写真撮りたい。
「彼女はかのレーン財閥ご令嬢シャーロット=レーン様だ。
アメリカからの留学生で知力クラス2年。
物心つく前からから発明の才能に恵まれ、学生にしていくつもの特許を取得し、
一生分の財を手にした天才美少女だ」
「あー、レーン財閥なら知ってる。家電製品と言えばレーン商品だし。
確か政府に武器製造もやってんだよね」
「その通り。シャロたんは主に武器作りが得意で、
戦闘では武力、魔力クラスの生徒にも引けを取らない」
「すっげ。ところであの人はなんで勝負を仕掛けるんだ」
「主な理由は武器の性能調査というところだろ。
勝者には毎回豪華な賞品が出る」
「賞品って、オリジナルの武器とか?」
「ところがどっこい、新型の電化製品を頼むんだな。
テレビ、モバイルバッテリー、冷蔵庫etc.」
「い、いいなー。というか学生でそんなの作れるのって知力Aかよ」
「彼女は知力A+だぞ」
「A+・・・」
三大ステータス武力、知力、魔力。
この1つでもAならばかなりのエリート。
しかもA+とならば国宝と言ってもいいほどの存在となる。
本来なら政府の管理下の元、特殊な教育を受ける。
しかしここ英証雌雄学園は、若人の尊厳を守るため様々な支援を通して私有地と施設を用意し、生徒達がのびのびと学べる環境が整っている。
彼女はそれが理由でアメリカから留学して来たのだろう。
「さらに彼女はオタサー姫なのだ」
「オタサー姫?」
「学校行事になるといつもコスプレをして写真撮影会を開いてくれる」
「あー、確かに片手に漫画持ってるし、漫画好きなんだ」
・・・おや?あの人が持ってるの、世界的漫画家の直筆サイン入りでは。
「今からみんなに仕掛ける勝負は追いかけっこ。
私が持ってるこの漫画を奪い最後まで持ってた人が勝利。」
「ふむふむ。今回はシャロたん対その他ではなく、ほぼ乱戦という訳ですな。
仮にシャロタンから奪っても、制限時間まで他の生徒から狙われる訳だし」
隣のオタクが呑気に解説してるが、そんなことよりもっと重大な危機がある。
勝負に巻き込まれた漫画は無事では済まないってこと。
周りの生徒達のやる気満々な面を見る限り、奴らは勝負に勝つためなら漫画を適当に扱うだろう。
そうはさせない。
「それじゃあ、勝負開始!!」
言葉を放つと同時に彼女の服は電気を纏い姿を消した。
推測する限り、あの軍服はスピードを強化する物で、今回の勝負はその性能調査をするために追いかけっこにしたわけか。
真っ先に彼女を追う者。先回りを試みる者。参加せず傍観する者。
真っ当ではないが作戦が思い浮かんだ僕も行動に移すとしよう。
「さて、僕も行くか」
「ほう、よほど自信があるんだな」
「あんたが言ったように、乱戦でかつ物の取り合いならば誰にでもチャンスはある。
やるだけやってみるさ」
「1つ良い情報を与えよう。彼女はあることに対して挑発に弱い」
「挑発、家を馬鹿にされるとか?」
「いや、彼女はBカップなのだがそれをいじると怒る」
「へー・・・え、なんで?」
「学園祭で巨乳キャラのコスプレをして貧乳じゃんといじったやつが半殺しにされた」
「それのどこが良い情報なんだよ」
「乱戦の中、貧乳と叫べばシャロたんは殺戮の限り暴れる。
その隙に奪えということだよ」
「自分で実行しないあたり、巻き込まれる可能性が高いってことか」
「うむ、俺は弱い。だから戦わない」
「あんた何クラス?」
「知力クラスだ。アニメーションは国際的に価値があることを
証明するために、アニメ研究会の所属し研究に没頭している」
大きな鼻息を立ててドヤ顔を向けてくる。じっさいこの学園のアニメ研究会は有名で、学園祭で上映される自作の映画は毎年評判が高い。大手制作会社も見に来るほどでそこからイラストレーター、声優、シナリオ作家などのスカウトが来て夢を叶える人もいる。
この人もいつか世界にアニメの素晴らしさを証明するのかも知れない。
「お前はどこの研究会に所属してるんだ」
「入学したばかりでどこにも入ってない。入る予定も特には」
「むむ、ということは後輩か。どうりでシャロたんを知らないわけだ。
というか俺先輩だぞ、敬語はどうした敬語は!」
「さーて、そろそろ行きますか」
「おいこら、せっかく仲良くなったのにこのままお別れは嫌だぞ」
なんだこの人、めっちゃいい人じゃん。
「武力クラス1年の安心院 香織です」
「ようやく敬語を使ったか、改めて知力クラス2年の原秋葉だ。よろしくな」
ぺこりと頭を下げその場を後にする。
最初はべらべら自分の好きなことを語り出すウザいタイプのオタクかと思ったけ、どやはり他人の良さというのは関わってみないとわからないもんだ。
「ん、安心院?安心院ってあの忍びの・・・」