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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第3章:梅雨時に始まる行事
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『第8節:コンビニで300円のお菓子を躊躇なく買える財力が欲しい』

いよいよ親睦会発表日を来週に控え、学園中が賑わい始める。


外出権を手に入れたい者、己の成果を披露したい者。

・・・異性と接触の機会が増え桃色に染まる者。


最後者のグループだけ爆発しないかな。

さて、優勝候補筆頭のグループの様子は如何かな。


「音は本番こんな感じ」


「最高です。より緊迫感が増してます」


「もう来週か、あっという間だな」


順調のご様子。これまで練習風景を何回も見たけど、

もはやお金を取れるレベルまでの質になっている。

今日最後の合わせをしたら完璧らしい。


「香織君、ばっちり撮ってね」


「了解―っす」


黒い緞帳だけが用意された舞台。

誰もいない舞台に突如音楽が流れる。


世界の幕開けを感じさせるような神々しい音楽。

徐々に陽射しの様な照明が差し掛かり、朝を感じさせる。

視界に桜の木が映る。


そこに鬼の面をした1人の少年が現れ、散る桜に合わせて舞う。

面では表情を変えられないため本来は心情が読みづらい。

だが、鬼の少年が全身で桜と共に舞うその様子から、

少年は幸福の感情に満ちていると伝わってくる。


しばらくして、人間の子どもたちが3人ほど現れては

鬼の少年に石を投げつける。

頭を抱え、身体を縮めて急所に当たるのを防ぐ鬼。


石を投げる事に飽きたのか、子どもたちは桜の木に登り

枝を蹴って桜をわざと散らし始める。

鬼は先ほどまで一切の抵抗をしなかったが、桜の木を

傷つけられた事に怒ったのか子どもたちに拳を振るう。


子どもたちは涙を流しながら逃げ帰り、鬼は桜の木に寄り添う。

1枚の桜が感謝を伝えるかの様に鬼の頭に乗る。


鬼は空を見上げ、ただ静かに時が過ぎるのを感じる。


空が赤く染まり始め、夕暮れ時に鬼の前に3人の大人と

先刻石を投げた子供たちが現れる。

大人たちは木の棒で鬼を袋叩き、それでも鬼はやり返さない。


その拳は自分のためではなく守るべきモノを

守るためにあると言わんばかりに。


突如突風が吹き、人間たちを石つぶてが襲う。

慌てて逃げ出すと大木が倒れ人間たちが

下敷きになりそうになる。


だが、鬼の子は大木を支え人間を助けた。

礼も言わずに逃げ去る人間。


鬼の少年は優しすぎる。

どれだけ自分が傷つけられてもやり返さず。


しかしながら自然を傷つける者には拳を振り。


然りとて命が失われるのを拒む。


桜が散り終わると同時に照明が落ち、

蝉の鳴き声が響き渡ると照明が付く。

夏の始まり。


鬼の少年は川のせせらぎに耳を傾けている。

陽射しが強いせいか、時折川の水を飲み喉を潤す。


大きな積乱雲が日陰を生み、鬼は横になり

ぬくぬくと眠り出す。


そこにあの子どもたちが現れては寝てる鬼に近づく。

鬼を囲み、顔をのぞき込むと鬼は上体を起こす。


子どもたちは懐から握り飯を取り出し鬼に渡す。

どうやら謝りたかった様だ。


鬼は握り飯を平らげ子供たちの頭を撫でて一緒に遊び出す。


野原を走り回り、川に飛び込み、魚を釣って食べる。

夏を満喫する無垢な子どもたちの絵が和む。


照明が落ちると哀愁を感じさせる音楽が流れ、

鮮やかな緑の葉から派手な鬱金色へと換わり、

季節が秋になったのを強調する。


仲良くなった鬼と子どもたちは紅葉の中を歩き、

落ち葉を集めては焚き火を始めた。


皆片手に芋を所持しており、どうやら焼き芋を

食べるご様子。


秋冷の風、高い青空。美しくも寂しさがある秋。

しかし、美味しそうに焼き芋を食べる子どもたちは

そんな事を一切感じず幸せな笑みを浮かべている。


だが、鬼の少年と子どもたちが突如として仲良くなった様に、

幸せな時間が一変するのにも前兆はない。


照明が落ち、棘の様に肌を刺す冷気が吹きだす。

そしてズドンと大きな音が響き、僅かに火薬の臭いがする。


音の正体は花火などと縁起の良い物ではない。

照明がつくと、そこは一面の雪景色・・・。


だが、全てが純白とい訳ではない。

舞台の中央だけ真っ赤に染まっている。

鬼の少年が血を流し倒れているからだ。

2人の大人が鬼の前に猟銃を構えている。


危険な鬼を退治しに来たのか、その珍しさから金に換えようとしたのか。

大きな袋を取り出し鬼を入れて連れ去ろうとすると子どもたちが駆け寄る。


しかし大人たちは容赦が無い。平然と子どもの顔を殴り、腹を蹴り、

あまつさえ銃を向けた。このままでは殺されてしまう。


まだ微かに息があった鬼は最後の力を振り絞り大人たちに

拳を振るった。その威力は一撃で絶命できるほど。


子どもたちは直ぐに鬼を医者の元に連れて行こうとしたが鬼は拒む。

いくら友を守るためとはいえ、命を奪った事に罪悪感を覚えたのか

自分に生きる価値は無いと思っているらしい。


だからこそ最後には友に見送って欲しいのか、

側にいて貰うよう頼む。

そして鬼の意を汲み取り、子どもたいはそっと寄り添う。


僅か1年ばかりの仲だった。

けれどもこの1年は、掛け替えのない時間と言える。

鬼の少年は命を奪った罪悪感に駆られながらも、

大切な友ができた事に満足したかの様に息を引き取った。


照明が落ち、チクタクと時計の針の音が暗闇の中で

時間の経過を感じさせる。


照明がつくと、2人の親子が歩いている。

桜が満開の木の下を。子どもは無邪気に走り回り、

父親はその後ろを嬉しそうに眺めながら歩く。


子どもが石を拾い、兎に投げつける。

脱兎の如く走り去る様子を見て子どもは笑うが、

父親は我が子の頭を叩く。


全ての生き物には平等に生きる権利があり、それを

悪戯に奪っていいモノではない。


父親はかつて優しき心を持った鬼の事を思い出す。

どれだけ自分が傷つけられても力を示さず。

さりとて、自然や友を傷つけるモノにはその拳を振るう。


力とは何かを守る為に使い、命とは繋ぎ止めるモノ。


時として親は子に力を持って教えなければならない。

残念ながら言葉は万能ではない。

力を持ってその意味を教えないと伝わらない事もある。


その時、我が子を傷つける事に心が痛むだろう。

だが必要な事なのだ。


心を鬼にしてでも。


「・・・はーい、終幕。みんなお疲れ様」


「バッチリ撮れました。完璧でしたよ」


「お疲れさま!楓座ってろ、飲み物持ってくるから」


「すいません、ありがとうございます」


桜・川・積乱雲・紅葉・雪。

全ての風物詩を担当し、分身で鬼以外の全ての役を演じる。

最初は傀儡を使う予定だった。けれど本物人間の方が良いと

楓が分身を使う事を提案したらしい。


何度も練習していた。寝る間も惜しんで。

術の連発を何日も、つまり休息を取らずに戦闘を続けるのと同等。


戦国の世ならいざ知らず、争いの無い現代でそこまで

するかと言いたいけど、楓は安心院一族次期党首。

魔力操作は長けているに超した事はないと本人談。


感情を高ぶらせる音響と機材を生みだした先輩。


優しい心を持った鬼を体現する奏。


繊細な風物詩で四季を具現化する楓。


練習からずっと間近で見れた僕は幸せだと言えよう。


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