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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第3章:梅雨時に始まる行事
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『第7節:生リームと餡子の相性の良さはもはや兵器。』


私は描きたい世界が無い。


小さい頃から絵を描くのが好き。

クレヨン、色鉛筆、絵の具。いろんな道具を使って目で見た景色を描き続けた。


小学生の時、初めて漫画を読んで心が震えた。

自分の知らない世界を生きる登場人物、

彼ら彼女らは異なる思想を胸に生きる。


いつかこの想いを伝えようと片思いを続ける少女。


世の平和のため大切な人を守るため強さを求め戦う勇者。


友達と共に今という時間を生き青春を送る学生たち。


私も、こんな風に世界を描いてみたい。

けれど描きたい世界が思いつかない。


描きたいのに、描けない。

私に必要なのは想像力。


だから、中学ではろくに学校に行かず世界中を歩き回った。


自分の知らない日常、建物、人種、食べ物。

眼に映る全てを絵にしながら歩き続けた。


世界を見た、触れた、知った・・・のに。


私の中で物語は生まれなかった。


親にせめて1度は学校行事に参加して欲しいと言われ、

中学3年に入学式以降2回目の学校に行った。


担任も、同級生も、他の学年の人も知らない人ばかり。

聞けば去年の卒業生にはあの一条警護会社の次期党首がいて、

私の同級生には安心院派遣会社の次期党首がいるらしい。


学校はほぼ毎日その2人の話題で持ちきりらしく、

全く来ていない私の事を気にする人はいなかった。


・・・別に良い。私は自分の世界を形にするのが大事であって

私自身の世界はどうでも良い。


漫画と違って現実の文化祭は退屈。

特に中学は模擬店が禁止されているから生徒が作った作品の展示か、

合唱か演劇を体育館で披露する程度しかない。


「何を見よう」


パンフレットを開いてもどのクラスも似たようなものばかりで興味が湧かない。


「・・・漫画部」


入学時入るか迷ったけど、どうせ中学生が作るのなんて有名作品の真似事しかない。

そもそも絵をまともに描けるかどうかすら怪しい。


「見るだけ見てみよ」


教室に行けば作者ごとに作品が並べられている。

ホッチキスで端を留めただけの拙い作り。


・・・でも、絵を見てみるとどれもレベルが高い。

流石に出版できるレベルでないにしても中学生でここまで描けるのは凄い。


「作 安心院 香織」


安心院ってまさかあの安心院?

もしそうならちょっと気になる。


「読んでみよっかな」


屍山輪廻(しざんりんね)

死者を再び活動させる事が可能となった世界。

死者の研究をしていた科学者が死の直前、ある秘術を完成させる。


死者蘇生、人格を失った状態で死者が生前所持していた技術を再び利用する。

科学者の助手がこの技術を政府と取引し提供した事で、

有能な人物の死体は高額で売買され、人格を失っているため

労働者として無慈悲に利用される世となった。


故人を弔わなくなった世界。

死人に口なし、されとて死者すら利用する世界。


戦死した兵士の死体を使い、死を恐れぬ軍隊を有した

テロリストが支配するディストピアとなった世界。


主人公は死者を弄ぶ巨悪を討たんと立ち上がる。


「・・・面白い」


死を恐れぬ屍と死に立ち向かう生者。

仲間が死んで死体を持ち帰れねば

次はその仲間と戦わなければならない。


犠牲を無くして目の前の敵を倒せない。

しかし犠牲を出せば新たな敵を生む。


死と隣り合わせでありながら生に取り憑かれる。


読み切りだけど続きが気になる。

他の人のも読んだけど、面白いと思えなかった。


安心院さんはどんな世界を見ているのだろう。

どういう見方をしているのだろう。


聞きたい。直接会って話してみたい。


「安心院先輩、来てくれたんですか」


声の方に振り向くと、私が探し求めた・・・え、男?


でも香織って名前。あ、妹さんが描いたんだ。


「安心院先輩の作品割と人気ですよ。

 アンケートじゃ絵が見づらいけど内容が良いって」


「今思うと中二感満載だよ。死体のやりとりだぞ」


やっぱりあの人なんだ。男の人だと話しかけづらいけど

ここでチャンスを逃すわけにはいかない。


「あの!」


「僕?」


「これ、貴方の作品ですよね。お、面白かったです」


「マジか。女の子はこういうの苦手なイメージだけど、ありがとう」


目が死んでるみたい。根暗なのかな、作品の世界観全体は

かなり暗いし正確が反映されてる?


とにかく聞かないと。貴方は世界をどう見てるのか、

作品の中の世界をどう創作しているのか。

私と共に漫画を創ってもらえるか。


「あの!」


しかし、私の言葉を遮る声が香織先輩の気を引いてしまう。

背が高くて絵に描いたような素敵な男性だった。


「香織、今年の吹奏楽部はアニソンメドレーみたいだぞ!」


「なーにー!?なら合いの手が必要じゃねーか!」


そして香織先輩は行ってしまった。

後を追いかけたけど見つける事ができないまま文化祭は終了。


進学先があの英証雌雄学園だと知って私もそこに進学すると決めた。


卒業後に大好きな作品正反対恋愛の作者、

無 希星先生のサイン会に行ったら驚いた。


世界的に有名なレーン財閥ご令嬢のシャーロット=レーンだなんて。

彼女も英証に通っている事は有名。香織先輩にシャーロット先輩。

2人から作品創りの極意を是非とも教わりたい。


髪を好きな色の白銀に染め、服装自由だから青と白のフリルが付いた

お気に入りの服を用意して、新しい学園生活に期待に胸を躍らせた。

入学式直後、先ずは香織先輩を探したけど・・・。


シャーロット先輩と仲良くしていた。

正反対恋愛は先輩と後輩の物語。

きっとあの2人は付き合っている。


・・・嫌だ。自己中心的な考えだとはわかっている。

たった1度しか会っていないくせに。

けれど、香織先輩と漫画を創るのは私。


入学式から3日後の朝、私宛に手紙が来た。

中身は写真が何枚か入ってる。


「か、香織先輩の部屋からシャーロット先輩が出てきた」


男女が同じ部屋で一夜を過ごした。

作品の打ち合わせ?いや、それだけとは思えない。

交際してる男女だ。きっと・・・。


これじゃあ、香織先輩と作品創りはできない。


「シャーロット=レーンじゃなくて

 私を選んで欲しい」


言葉に出てしまうほど私の気持ちは強かった。

恋愛だとか、支配欲だとか、独占欲だとか。

この感情が何なのかは関係無い。


面白い作品を生みだしたシャーロット=レーンを

心から尊敬している。

けれど、香織先輩には私を選んで欲しい。


そのためには行動を起こすしかない。

髪を整え、お気に入りの服を着て男子寮に向かう。


暖かい朝陽を感じる間も無いまま走り出す。

運動はあまり得意ではないため、少しの距離を

走っただけで息が切れてしまう。


息を整えながら香織先輩への第一声を考えていたら・・・。


「か、香織先輩」


その顔を拝むのは2回目。

まだ言葉が、とにかく話しかけないと。


「しゃ、シャーロット=レーンなんかより、

 私にしときなさい!」


1人で世界を回ったとはいえ元から人付き合いが

得意ではない。


最悪の再会。


私の新しい学園生活の始まりであった。


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