『第7節:勉強には値引きするという意味も含まれてると最近知りました』
さーて、修行始めますか。
魔力を上げるのは多分無理だから武力を鍛えるとして、実戦修行やりまくるか。
ここは先生に頼もう。
この学園の教師は3人のみ。
武力・知力・魔力それぞれAを持つ教師が各クラスの授業を担当している。
とは言っても生徒は自主的に学んでいるから知力と魔力は、ほとんど教師を必要としない。
じゃあ、武力はと言うと。
「ホッホッホ。ほれ、立たぬか。この程度で死ぬわけないじゃろ」
100を超える生徒が血反吐を吐きながら倒れている。
去年、同じ光景を見た気が・・・何とかレーン先輩なんて知らない。
息1つ切れず、スーツの上からでもわかる鍛えられた肉体を有する白髪オールバックのその人は、一体何歳なのだろうか。
武力クラス教師、辻 剛。
仏のような顔で地獄の授業を行うことで有名。
先生は無敗という訳ではないが、先生に攻撃を当てられる者は少ない。
心外迎撃拳相手の意識の外から攻撃する拳法。
習得するには合気道並に相手の呼吸に合わせる技術が必要。
先生は【意思疎通】のスキルを持っているため、相手の意識がどこに向いてるかを把握し意識外から攻撃する。
意識を常に集中させなければ隙を一瞬で突かれるため、集中力向上にはうってつけ。
【意思疎通】を使って生徒に自分の教えを的確に伝え、欠点の理解と長所の向上から、先生の教え子は皆著しい成長を遂げる。
奏もよく辻先生に教わってる。僕は、まあ、先輩がね。
あー、今思い出すと本当に面倒くさかった。
とにかく、先生とひたすら戦ってレベル上げしよう。
「先生―、相手してもらえますか?」
「ほ!香織、お主遂にやる気になったか。」
「待ってたんですか。」
「お主の父である彩華も私の教え子。
息子の香織を育てるのを楽しみにしてたのじゃ」
父が先生の教え子!?そんなこと一言も聞いてない。
っても、この学園に通ってたなら辻先生に教わるのは当然か。
琴刃さんとだけ修行してるイメージだったけど。
「ではかかって来なさい。どれほど動けるか見せてもらおう」
僅かな魔力、未熟な体術、持てる物全てを駆使して挑んだ。
しかし攻撃は全く当たらず、思わぬ所から攻撃が来る。
拳や足の動きが眼で終えても身体が反応できない。
止まることのない先生の攻撃を食らい続け、立つこともできず倒れたところで先生は止まる。
うっわ本当に地獄だわ。
体中殴られては蹴られ殴られては蹴られ、仏の顔した殺人鬼かよ。何人か殺ってんだろ。
これなら先輩に追いかけられた方が100倍マシ。
でも、これぐらいやらないと強くなれないか。
「ま、まだまだ」
「その息や良し」
先生の拳が目の前に来た次の瞬間、僕は意識を失う。
あまりに速い攻撃に全く反応できなかった。
優しい陽射しの心地よさに癒やされていると目が覚める。
痛みで身体が動かせない。
は~弱いな~僕は。強い奴はいいな~。
「目が覚めたか」
「はい、父とは違う強さを感じました」
「ホッホッホ。人の強さなど十人十色、
違って当然じゃよ」
「違って当然・・・。うちの四季忍術も、本人の感性で違う風景を生み出すのと同じですね」
「香織は戦闘に関する知識はあるが、身体が全然着いてこれてないようじゃの」
「武力B-なもんで。経験積むのが一番ですか」
「私はそうしてきたが、香織は基礎修行を繰り返して身体の使い方を覚えた方が良いの」
「目安とかあります?」
「武力がBまでが目安かのう。しかし、求める強さの定義を明確にする方が先かのう」
「強さの定義?」
「多数を相手取りたい。一対一で必ず勝ちたい。護りたい人に傷を付けたくない。
お主は戦いの中で、何を求める」
・・・考えたこともなかった。
四季忍術は魔力Aが前提であるため、広範囲かつ威力も高い事から、多対一でもタイマンでも効果を発揮する。
術を極める他には、どのような相手が来ても倒せるように知識を身に着けておく。
僕は、何のため、誰のために強くなりたいのか。
「直ぐには答えが出そうにないので・・・決まったら改めて勝負を申し込みます」
「楽しみに待っとるぞ。
わからないことがあれば遠慮無く聞きなさい」
頭を下げると辻先生は他の生徒と戦い始める、
時刻は13時を回りお腹も鳴り始めたし昼食にするとしよう。
「兄上―」
聞き慣れた高い声が遠くから聞こえる。
まあ、僕を兄上なんて呼ぶのは世界で1人だけなんだけどね。
楓に奏か、昼食べて来たんだ・・・ん?
「香織くーん」
なーんであの人も来てんの。軍服完全装備じゃん。
まさかだけど今日は真剣勝負しようだなんて言わないよね。
陽射しでより輝く黄金色の髪をした先輩が、笑顔で僕の名前を叫びながら手を振っている。
うっはー可愛いー見てるだけで幸せ。
どう反応したらいいかわからず、とりあえず手を振ろうとしたら、何故か僕の足下に青色の魔方陣が現れる。
「何だこれ」
視界から楓たちが消え、もしかしたら異世界に行けるかも!
などと一瞬でも期待したが、次に視界に映ったのは薄暗い倉庫の中であった。




