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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第2章:始まったばかりの春
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『第6節:黒歴史って単語誰が作ったのだろうか』


以前、兄上は本気で父上に挑んだが、同じ武力・魔力がAでも経験の差が歴然で惨敗した。

・・・だが、今目の前にいる兄上の姿をした男は、傷どころか服に汚れすら無い状態だ。


「貴方は香織ではありませんね。

 四季の表現が全く違う」


「其方も党首だけあって確かな実力者じゃの。

 だが、お主もまだ武力・魔力共に壱級か」


「・・・香織に一体何をしたのですか?」


「楓に聞いた方が速いんじゃないかのう。

 どうやら兄のことを愛して止まないようじゃ」


・・・そうだ、ぼくは兄上を愛してる。

安心院家の才能を引き継ぎ、常に前向きで重く考えず物事に捕らわれない。

そんな兄上を、心の底から愛してる。


「兄上はぼくの全てだ!兄上を返せ!!」


男は僅かに笑みをこぼし、魔力をみなぎらせながら言葉を放つ。


「ならば見せてみろ、楓。お前は兄を超えねばならぬ!」


兄上を取り戻すには目の前の男を倒すしかない。


冬季風物詩(とうきふうぶつし) 土遁付与(どとんふよ) かまくら」


高速で雪が男の周りに降り積もりかまくらができる。

土遁で強化され、岩以上の強度となったかまくらは僅かな間、男の拘束する。


何故か未習得の筈の属性付与が使える。

その理由を調べる時間は今は無い、とにかくこいつを倒す。

次の手は雷遁でかまくらに電流を流す。

しかし、実行しようとした次の瞬間かまくらが内部から破壊される。


「おしかったな、魔力が壱級と準壱級の差程度なら閉じ込められたが

 特級と壱級では圧倒的な差がある」


「・・・特級」


父上が何か気にしている様だが、今ぼくはこいつを倒すことだけに集中するべきだ。


「楓、俺も手を貸して良いか?」


「奏さん」


「これは楓が招いたことだけど、親友として俺も香織を取り戻したい」


「良いではないか。今の楓はつまらん、一条の方が面白そうだのう。

 だから・・・」


一瞬で目の前に・・・。


「お前はしばらく寝とれ」


ぼくの頭をめがけて拳を振るう。

だが、眼前で拳が止まる。


「な、に、やってんだ。僕の身体だぞ」


「ほ、う。抵抗、する、か」


次の瞬間、男は自らの手で自分の胸部を貫く。

僅かに感じた兄上の魔力。

血が大量に噴出し、膝から崩れ落ちる。


「兄上?」


身体を揺さぶっても兄上は声を出さない。生暖かく、鉄くさい血がぼくの手を赤く染める。

どうしよう、どうしたら、何をすれば、兄上、眼を開けて。

死ぬ?このままじゃ兄上が、死ぬ。


「香織!彩華さん、治療の忍術とかないいんですか?」


「あります。しかし、ここ数百年治療忍術が使える忍はいません」


「ってことは、このままだと香織は」


「私の出番ね」


綺麗な黒髪のその女性は気づけばぼくの目の前にいて、我が子をそっと抱き寄せる。

流血で瀕死の状態の息子を前に、優しい表情を崩さない。


「母上」


「あんたたちはいつもやんちゃだけど、もうちょっと考えて動きなさい」


「はい、すいません」


黒榎(くろえ)さん、香織を治せるんですか?」


「治すのは無理、でも傷を封印して死を先延ばしにするの。

 封印してる間に治療すれば助けられる」


母上は安心院家の歴史でも随一の封印術の使い手。

先ほどの方法でぼくも兄上も修行の傷を何回も治してもらった。

傷に手を添え、魔力を込め始めると、兄上の身体が白銀に光り出す。

胸の傷を中心に光は強くなり、修復し始める。


「まさか、【超回復術】が発動したのか」


傷の修復と同時に兄上の髪は黒色に戻る。

完治すると光が収まり目を覚ます。


「う~、朝?ご飯何」


「兄上!」


その後、兄上の身体を調べたら傷については問題無い。

・・・ただ、【隠密】を失い。武力はAからB-、魔力はAからD-まで下がった。

原因はぼくが作った薬の副作用によるもの。


大和

武力に優れた一条、魔力に優れた安心院。

大和は知力に優れた一族で3つの一族は御三家と呼ばれていた。

薬学、生物学の研究をしていた大和は、

御三家を巻き込む危険な生物実験を行い絶家。

事件の詳しい記録は残っていないが言い伝えで当時の安心院家党首が解決したらしい。

研究資料は安心院家の党首が管理し、今日まで誰の手にも触れることは無かった。


資料を読み直したら書かれていたのは重度の副作用が起こる。

しかし、どのような副作用かは投与後でないとわからない。

【不意打ち】を得た代わりに【隠密】を、【超回復術】を得た代わりにステータスを。


兄上は、忍の才能を失った。違う・・・ぼくが奪った。

更には謎の魂を宿してしまった。


異なる魂を宿す。式神使いや霊能力者の類いが降霊を行った際にできる所業。

どのような副作用かは投与後でないとわからない。

あの魂の正体はわからないけど、ぼくの薬のせいなのは間違いない。


父上はぼくたちが6歳になったら大和について教えてくれるつもりだったらしい。

あと2年、違う、ぼくが父上にちゃんと聞いていれば、資料をしっかりと読んでいれば兄上の未来を奪うことは無かった。


小学校に入学後、兄上はどれだけ修行しても武力・魔力が再びAになるどころかBにすら成長できず、【不意打ち】もD から成長できないまま中学に進学。

進学すると同時に修行は最低限しかやらなくなった。


父上はぼくが責任を持って党首になるため修行を続けることを条件に、兄上に口出しをしないでいてくれた。


安心院一族党首の資格は武力・魔力が共にAであること。


父上の指導や、奏さんの手合わせの甲斐あって武力をA-に上げることができた。


後はここ私立英証雌雄学園で武力をAにして、安心院の四季忍術は格式高いと証明する。


そうする事が兄上の未来を奪った罪滅ぼし。





「これが、あの魂についてと兄上が忍の才能を失った理由です」


「う、嘘。香織君はそんな重大な事があった素振りは全然見せなかった」


・・・そう、怒鳴られた方がどれだけマシだったか。

気の済むまで殴られた方がどれだけ償いになったか。


「香織の本心は今でもわからないんですよ」


「どいうこと?」


「才能を失った事実を知った直後、兄上は」


「香織君は・・・」


「起こっちまったもんはしょーがねー(笑)(笑)と」


「へ、へー。か、香織君らしいね」


さすがの先輩でもこの反応。

自分の未来が弟の手によって奪われたのに、笑ってしょうがないと割り切れたのは、ぼくへの気遣いか、それとも・・・。


「でも、香織のやつ久しぶりに自分から修行してるしまた強くなるかもな」


「シャロ先輩のおかげです」


シャロ先輩の調べでは兄上は魔力はわからないけど、武力は修行を続ければB+まで成長できる。

小学生時代は武力と魔力の修行をしていたから成果が出なかったけど、武力のみ集中して修行すればまた強くなれる。

根気強く兄上に付き合ってくれたおかげだ。


「違うよ。私がいなくても香織君は自分で成長できる。

 むしろ、1年間も付き合わせて本当に申し訳ない」


いつも人の眼を見て話すシャロ先輩が珍しく下を向いて話す。

できれば後悔をしないで欲しい。

事情を知らなければ、シャロ先輩の行動はむしろ正しい。

1年間も諦めずに説得し続けるなんて凄いこと。

シャロ先輩がいなければ兄上は答えを見つけられなかった。

これからも、兄上とは仲良くして欲しい。


気づけば時刻は13時を回り、食事も終えていた。


「そろそろ午後の修行に行くか」


「私も行っていい?香織君の修行の様子見てみたい」


「きっと喜びます、行きましょう」



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