『第5節:男兄弟の喧嘩って実際どんな感じなんだろ』
「母よ、空腹なり」
「母上、お腹空きました」
いつも優しい表情を浮かべる母上は綺麗な黒髪の持ち主。
美白の肌は灯りで照らせば輝きを増し、着物を纏うその姿は大和撫子という言葉が似合う。
「おはよ~、可愛い子供たち!」
わっ、母上はよくぼくたちを抱きしめる。
もう4歳だからそろそろ止めて欲しい。
「さ、ご飯にしましょ」
「いただきます」
家族4人で食卓を囲み団らんする。
修行は厳しいけど、兄上や奏さんと遊んだり家族で旅行したり幸せな日々を送っていた。
後に兄上に起こる悲劇。
それは、父上のお客様が自宅に来たときに聞いたある一族の話。
我が安心院一族は厳しい修行で鍛えられた人材を、様々な職場に派遣する会社を営んでいる。
1000年以上前、安心院一族は忍・一条一族は侍として栄えていた時代。
時が過ぎ、忍も侍も必要とされなくなっていく世の中になる。
そこで、安心院は人材派遣・一条は警護会社を始め再び栄える。
とある大手建設会社の社長が自宅を訪れ、母上が外出していたためぼくがお茶をお出しした時にその一族のことを聞いた。
「安心院さん、大和一族とはどのような一族なのですか?」
「・・・どこでその名前を?」
父上から発せられる怒りなのか憎しみのような気迫で空気が沈む。
ぼくの顔をみるなり直ぐに出て行くよう言われた。
「と、とある噂を耳にしまして。安心院・一条・大和。
御三家が遙か昔存在していたとか」
お客様のその言葉を最後にぼくは部屋を出た。
「大和・・・」
聞いたことが無い。御三家、つまり安心院や一条に並ぶほど大きい一族が他に存在していた。
・・・知りたい。
幾つもある家の倉庫で1番大きくて厳重に管理されてるやつから大和に関する資料を探した。
片隅に隠すように置かれていた箱に大和の名前が書いてある。
箱を開けると本が何冊も入っていて、一番上にあった本にぼくは釘付けになる。
「個人技能後天付与薬。」
昔、スキルは個人技能と呼ばれていたと父上に教わった。
つまりこれはスキルを後天的に付与できる薬の資料。
大和そのものに関する資料は無いけどぼくはその資料を
直ぐに兄上の元に持って行った。
「兄上!」
部屋に行けば兄上は気持ちよさそうに昼寝をしている。
仕方が無いのでぼくは1人でこの薬の調合に挑むことを決めた。
【不意打ち】
相手に意識外からの攻撃を必中させることができる。
階級によって精度が変わる。
安心院家は忍の家系、代々【隠密】を所持している。
【隠密】
自身の気配や音を消すことができる。
兄上の【隠密】はC。
両足を動かさなければ相手に感知されない。
視界には映るけど、隠れた状態で【隠密】を使って【不意打ち】で攻撃すればより強力な武器になる。
そして、【超回復術】これはスキルではなく魔力による自己治癒能力。
【超回復術】
傷を治すことができる。
魔力の階級によって精度は変わる。
最高で失った内臓を修復することもできる。
これを兄上に付与できたら、兄上は最強の忍びになると確信した。
父上に知られると怒られるきがしたから家の隅でこっそりと数日かけて薬を完成させ、兄上の元に向かう。
「兄上!あ、また寝てる」
身体を揺さぶっても起きる気配が無い。
兄上は昼寝してる時が最も起きにくい。
先に口に流し込めばいいかな。
ぼくが口を開いて流し込むと兄上が苦しみ出すと髪と眼が毒々しい紫色に変色する。
「がっ、お前この薬は」
「兄上?」
「楓、この薬をどこで・・・が!あー!」
苦しみ悶え始める兄上を前にぼくは何をしたら良いのかわからない。
とにかく人を呼ばないと、父上に報告しないと兄上が。
「父上、父上―!」
家中どこを探しても父上がいない。
母上もいないからおそらく外出中だ。
門下生もみんな派遣に出払って誰もいない、どうしたら。
頭を抱え混乱していると玄関から声がする。
「おじゃましまーす、香織と楓いますか?」
奏さんだ、奏さんならなんとかしてくれるかも。
5歳ながら聡明で頼りになる奏さんに訳を説明して一緒に兄上の元に向かう。
「香織、大丈夫か!?」
髪と眼の色が紫のままの兄上は多少息切れしたものの
落ち着きを取り戻していた。
「あーあ、やっちまったな楓」
「兄上?・・・グハッ」
殴られたのか?速くて強い、空中に押し出された。
このままだと中庭に落ちる、受け身を取らないと。
なんとか受け身を取ったが腹部の激痛に耐えれず起きれない。
「あに・・うえ」
刃が交える音が聞こえる。
痛みが引き身体を起こすと、真剣を持った奏さんとクナイを持った兄上が戦っている。
「ふむ、一条の末裔、奏か」
「香織の動きじゃない」
「当然、良いか香織とではなく初見の相手と戦うつもりでおれ」
しばらく2人は戦った。
奏さんは武力A。兄上と奏さんはほぼ実力が拮抗している筈なのに奏さんが押されている。
「良いぞ、幼子にしてそれだけ動けるのは将来有望じゃ」
「ハァハァ、お、お前は誰だ」
「儂か?安心院 香織に決まっておるじゃろ」
嘲笑しながら話すが明らかに嘘とわかる。
「嘘だ、兄上と魔力が全然違う。お前は誰だ」
「お前は黙っとれ」
「ガッ!」
速い、あまりに速い。頭を踏まれるまで一切の抵抗ができなかった。
「ったく、お前が余計なことをしたばかりに大好きな兄は忍の才能を失ったのだぞ」
「な・・・どういう意味だ」
より強く頭を踏まれ地面にめり込み奏さんがすかさず刀を振るう。
「その前にその足をどけろ!」
「おっと」
「楓、大丈夫か?」
「は、はい」
兄上の身に何がおこったのか、目の前の人間は何者なのか。
わからないまま考え込んでいるとため息をつかれた。
「わかんらんのか、お前は頭が良いのか馬鹿なのかどっちなのだ」
「まさか、楓が作った薬が」
「その通り、彩華も物の管理が杜撰じゃのう」
あの薬のせいなのか、確かに副作用があるかは調べてない。
兄上があのようになったのもぼくのせいなら何てことをしたんだ。
確たることは目の前の人間は兄上ではなく別人だ。
「ただいまー」
母上の声、父上の気配もする。
マズい目の前の男は何をするか予測がつかない。
「ふむ、現代党首に挨拶でもしてくるかのう」
一瞬で姿を消した男の気配は父上の近くまで移動した。
その後は強力な魔力が移動しながらぶつかり合う。
最後は再び父上と共にぼくたちの前に姿を現す。