表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第2章:始まったばかりの春
22/95

『第4節:運動後のご飯より食後のコーヒーと甘い物の方が好き』


「奏さんはどのくらい兄上と一緒にいることが多いのですか?」


「香織の気分次第かな~。ほら、あいつ1人の時間も必要だろ」


「なるほど、先ほど兄上が誘いを断った様にですね」


「あいつが自分から修行するのは久しぶりだし」


「まさかですけど普段は全く修行してないなんてことでは・・・」


「違う違う。いつもはシャロ先輩に追いかけ回されてるから、 それが今の香織にはちょうど良い修行なんだよ」


「今朝食堂でシャロ先輩に会いましたけど、毎朝電話して起こしてたみたいですね」


「俺も香織には強くなって欲しいから特に止めなかった。

 スキルを使えば逃げれるしそれに」


「それに?」


「シャロ先輩も漫画とアニメ好きだから、香織も趣味の合う人ができて楽しそうにしてたんだよ」


「そうですか・・・」


1年間ぶりに兄上と奏さんと学園生活を送れるのが嬉しい。

でも、兄上に好きな人ができるなんて・・・。


綺麗で兄上と同じ漫画とアニメが好き。

好きになる要素は十分だ。

フラれても兄上は好きに正直だから

今でもシャロ先輩のことが好きに違いない。


「あ、奏くーん。楓くーん」


明るく柔らかい声が聞こえる。

黒い軍服を纏ったその人は走る様子でさえ芸術と言えるほど美しい。

兄上の好きな女性、シャロ先輩だ。


「シャロ先輩。お昼ですか?」


「そうなの。一緒に食べよ」


食堂に向かうとお昼少し前の11時過ぎでも人が多い。

豊富な品揃えの中からぼくたちは各々好きな料理を取って席に向かう。

しばらく昼食と雑談を楽しんでいると、シャロ先輩は少し思い詰めたような表情を浮かべ話を切り出す。


「・・・楓君、1つきいて良い?」


「何ですか」


「香織君の、もう1つの魂について教えて欲しいの」


「・・・」


ぼくも奏さんも口を閉じてしまう。

いつかは聞かれると思っていたけどいざその時のなると、正しい返答が見つからない。答えて良いのかもわからない。

でも・・・この人には話した方が兄上の為になる気がする。


「他言しないと約束してください」


「絶対に他言しないと約束します」


ああ、兄上が好きになった理由が今わかった。

シャロ先輩の目は何故か信頼したくなる。


「ぼくが4歳、兄上が5歳の時の話です」


まだ学校に通う前の話。

父は時に厳しく時に優しく、ぼくたち兄弟を鍛えてくれた。

母上が作る料理はどれも美味しい、修行後の1番の楽しみは母の料理。

毎朝5時起床。いつもぼくが先に起きて兄上を起こすのが日課。

兄上を起こす役は楽しい。身体を揺すり、声をかける。


「兄上、起きてください。朝ですよ」


しかし兄上は直ぐには起きてくれない。

布団に包まり、片言で起きない理由を並べる。


「眠い。眠いということは起きてはいけない」


「起きないとダメですよ。父上に怒られます」


「大丈夫だ、楓も一緒に寝よう。2人で怒られれば怖くない」


寝る。兄上と一緒に寝る。同じ布団で、兄上の体温で暖められた

布団に入る。・・・だ、ダメ!!こうなったらまた引きずってでも。


「行きますよ」


「おーふーとーんー。まーたーねー」


部屋の外まで引きずり出せば兄上は自分で歩き出す。

ゾンビに感染した人の様に「う、あーあー。」など

奇妙な声を出しながらフラフラと立ち上がる。


「今日も頑張りましょう」


「頑張るけどさー。日に日にキツくなってない?」


「それだけ父上は兄上に期待してるんですよ」


「僕と楓だよ。そんなに差はないだろ」


「ありますよ!ぼくは武力Bで兄上はAですよ」


「まあ、でも魔力は同じAだし戦況によっちゃ楓に負けることもある」


「それは兄上が適当だからです。本来なら武力BとAの戦力がひっくり返るのは極めて希なパター ンですし」


「はははは」


兄上は才能に恵まれている。武力A魔力Aで生まれた天才。

安心院家は幼少期は武力がBで魔力がAで生まれるのが普通。

武力がAになるのは幼少期から修行を重ね二十歳を迎えた時がほとんど。

だが兄上は生まれ持って両方ともA。


忍術も5属性を直ぐに習得し属性付与まで使える。

武力・魔力共にAでないと学ぶことができない四季忍術 舞を既に学んでいる。

ぼくも早く属性付与を習得して兄上に追いつきたい。


修行は家の敷地内にある山の中から始まる。

山に入るとぼくたちより遙かに背が高い父上が待っている。


「おはよう。香織、楓」


「おはようございます。父上」


「おはっす。・・・いって!」


父上は容赦が無く、5歳の兄上に割と強めに拳を振るう。

反省するべき時しか殴らないのでぼくも兄上も殴られることに不満はないけど・・・。


「楓を見習いなさい。きちんとおはようございますだ」


「おはよーございまーす」


「あ、兄上」


兄上は父上や母上に反抗することが多い、

嫌っている訳ではないと思う。


「ちっくしょ、見下しやがって」


「私は大人で香織は子供。そもそも身長差があるのだから

 見下すのはしょうがないでしょう」


「大人になれば兄上も大きくなりますね」


「はーんだ、僕は母似だからな。どうせ180がいいところだろ」


「確かに父上のように190cmぐらいは高くなりたいです」


父上も母上も身長が高く容姿も良い。

近所では絵に描いたような夫婦と呼ばれている。

ぼくたちはまだ子供だけど両親のような大人になりたい。


「・・・2人ともまだ歳は10にも満たない。

 これからだよ」


何故だろう。父上の声が小さい。

詳細を確かめる間も無いまま修行が始まる。

最初は体術を高める修行、正確には武力のステータスを高めるため山を一周する。

父上が仕掛けた罠を掻い潜り、一周したら父上と忍術を使った実戦稽古。


「兄上、負けませんから」


「競争じゃなくていかに自分の肉体を操れるかが重要だぞ」


「楓の目標である兄をライバル視するのも、香織の己との戦いに向き合うのもどちらも良い心がけだ。頑張りなさい」


「はい」


声を揃えて返事をした後、ぼくたちは走りだす。

四方八方から飛んでくるクナイ、落とし穴、攻撃を仕掛ける傀儡人形。

様々な罠を掻い潜り先に進む。

兄上と同時に出発したから動きを間近で見れるため参考になるが・・・。


「邪魔くせ」


忍術を使って罠を破壊していく。

自分の肉体を操れるかが大切と言ったのに兄上・・・。


「ダメですよ忍術を使っては」


「実戦練習になるんだよ。

楓も武力がAになればこっちの方がいいぞ」


「なるほど!ちゃんと考えてるんですね」


「当然」


やはり兄上はぼくなんかより遙か上の存在だ。

そう思ってたのに一周したら父上に拳骨を喰らいこっぴどく怒られている。

武力は武力、魔力は魔力として鍛えることに意味がある。

これを肝に銘じるよう言われ、道場で忍術の実戦稽古に入る。


忍術実戦稽古は基礎である5属性で魔力操作を一通り学んで後、

僕は四季忍術 風物詩、兄上は兄上は四季忍術 舞を学ぶ。


四季忍術 

魔力で春夏秋冬の風景を具現化する。

春なら桜

夏なら海

秋なら紅葉

冬なら雪

しかし、これは一例に過ぎず四季忍術は本人の感性が重要。

好きな季節、景色の見方、気持ちの表現は十人十色。

型にはまらない者ほど強力な術が発動できる。


風物詩の条件は魔力がA。

舞の条件は武力・魔力が共にAであること。

武力が満たさなければ肉体が持たない。

魔力が満たさなければ具現化が不完全。


ぼくは夏が好き。夏に見える積乱雲。

広い青空に向かって高く立ち上る白い塊。

あの雲はどこまで続いているのだろう、雲の上を歩いてみたい、そして空から世界を見てみたい。

だから行くんだ、空の雲へと届くほど大きい雲を自分で作り出す。

この想いを強く前に出し術を発動する。


夏季風物詩(かきふうぶつし)積乱雲(せきらんうん)


「ふむ、形はしっかりと具現化できてる。

 あとは属性付与ができれば完璧」


「ありがとうございます!」


「次は香織の番だ」


卍解(ばんかい) 千本桜(せんぼんざくら)景義(かげよし)!」


「真面目にやりなさい」


本日3度目の拳骨。確か今のは前に兄上から聞いた漫画に出てくる技。

兄上は漫画とかアニメが好きだけどぼくは良くわからない。

エモいとか尊いとかそういう感想はなんとなくわかる。

けど、ぼくも一緒の漫画を読んだりアニメを見ても熱中できない。

兄上と共通の趣味を持てたらどれだけ楽しい事か・・・。


朝の修行が終わり朝食を作って待っている母上の元に向かう。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ