『第3節:妖怪になれば学校行かなくて済むけど・・・何でも妖怪のせいにされるなら人間が良い』
チャイムが鳴る。ぶっちゃけこの学園のチャイムはただの時報。
朝9時と昼の12時と夕方5時の3回だけ鳴る。
「兄上、授業は本当に自由なのですか?」
「ああ、ガイドに書いてある通りだ」
この学園に時間割という概念は無い。
24時間好きな時に好きな事を学ぶ。
一応クラス分けしてるから各クラスの学びの特徴としたは。
武力クラス
様々なトレーニング施設で肉体や技の精度を高める。
時には他生徒や教師と試合をしたり、とにかくドラゴンボールみたいに修行しまくる。
知力クラスや魔力クラスにデータ分析を頼んだり、新しいトレーニングマシーンを作ってもらったりしてる。
知力クラス
卒業生たちの研究データや設備を使って、決めた研究テーマをひたすら研究する。
武力クラスはと共同で物理研究や肉体研究する事もあったり、魔力クラスと未知の領域に対する研究をする人もいる。
が・・・そこでカップルへと発展する不埒な輩も少なくない。
何故僕と研究したいという美女がいないのだ!!(先輩は例外)
魔力クラス
なんか怪しげな儀式やら実験してるー。
試験も無いが、武力格闘大会・知力研究発表会・魔力公開実験など、各クラスに合わせた実力発揮の行事があるためそこで成果を出せるかどうかが進路に大きく関わる。
まあ、僕の場合は親が自営業だし弟が会社次いでくれるから、そんな真剣に考えなくても良いんですけどね!
「楓は先に武力か」
「はい。正確には、流した魔力を余すことなく攻撃に使う訓練をしたいです」
「なら、俺とやろう」
「奏さん!」
うわ、うわうわうわ。ドヤ顔で「俺とやろう」とかなかなか言えないぞ。
汗だくなのに何で良い匂いすんだよ。
木刀を片手に爽やかな汗を流しながら、笑顔で話しかける一条 奏の登場と同時に生徒の注目が一瞬で集まる。
「奏が1年と勝負するらしいぞ」
「あれ女?」
「違うよ、新入生の安心院一族次男だよ」
「ってことは香織の弟!?」
ざわざわと話声が耳に入ってくるが何故そこで僕の名前が出てくる。
「兄上も奏さんも有名人ですね」
嬉しそうな顔で言ってるけど、奏は確かに家柄に恥じない実力と何よりあのビジュアル!!を持っているからみんなから慕われている。
かくいう僕の場合、安心院家長男ということで最初は注目されたが、家柄よりオタク!!な性格が浮き彫りになり。
武力も魔力もさほど実力を見せないのを能ある鷹は爪を隠しているから、みたいに深読みされたけど・・・。武力クラスのやつは強者ほど他人の実力を見抜くのに長けているため安心院家の長男はダメだ、一条家の長男に挑もう。
と、なっていった。
「やっと一条対安心院の戦いが見れるぞ」
「兄より弟の方が優秀ってことか」
「よくある話だな」
まあ、僕の実力は僕自身が1番わかっているから、なんと言われようと特に気にすることは無い。
でも、楓の実力はちゃんと評価して欲しい。
「真剣勝負なんていつぶりだ?」
「奏さんが中学の時が最後なので2年ぶりです」
「手加減はしないぞ」
「もちろん。ぼくも全力で戦います」
1対1の勝負をするなら決闘場を使うのが1番。
障害物などが一切無い石板のシンプルな舞台を魔力の結界で囲い、何者も立ち入ることができない場所。そこで思う存分力を発揮する。
真剣に持ち替えた奏とクナイを片手に魔力を纏う楓。
静かに視線を合わせる2人。楓が先行攻撃を仕掛け、
戦いの火蓋は切って落とされる。
「春季風物詩 春霞 咲桜」
桃色の魔力を纏った楓の周りに何本もの桜の木が現れ霞がかかる。
同時に楓の姿が消えて、おそらく【隠密】を使ってる。
この手は昔の僕もよく使っていた。
霞を発動すると敵に捕らえられにくくなり、風物詩と組み合わせることで意識を撹乱させることもできる。更に【隠密】を使うことでより不意打ちの機会が増える。
「すげー、あれが安心院一族の四季忍術か」
「綺麗~」
「香織の弟の気配が完全に消えてる」
「奏はどう戦うんだ」
僕もそこは気になる。奏とは長い時間を一緒に過ごしたが、忍びの才能を失ってからまともに真剣勝負ができなくなってからあいつの全力を直に体感したことはない。
「風神 輪廻渦」
巻物を開き、白色の刃に変化させ一周させる。
巨大な渦が霞を払い桜の木を伐採していく。
楓の術が解かれ、外野の僕たちを含め上空の多数の人影が眼に映る。
「分身か、数がずいぶん増えた」
16人の楓が上空から降ってくる。分身の術は陽動として強力だが
魔力の消費が激しい・・・が、魔力Aの楓にすればその程度たいしたリスクにはならない。
「風火土雷水 災害降来」
5つの属性の魔力を纏った楓が落ちてくる。
これは昔の僕は思いつかなかった。
15人の分身に魔力を回し、そのまま爆弾に使うなんて良いアイディアだな。
「天邪鬼 悪遊戯」
奏の重心が前後に揺れ始め、微かに残像が見える。
分身が落下すると
風が切り裂く音
火が燃えさかる音
土が地面を叩く音
雷が穿つ音
水が波紋を描く音
あらゆる災害が天空より降ってくる会場は地獄と化している。
「お、おい香織。お前んとこの弟凄くないか?」
「まあな、自慢の弟だ。ただ、凄いのは楓だけじゃない」
「え?」
音が鳴り止み、煙が晴れると会場の中心に楓が立っている。
その周りを無数の奏の分身が現れては消え現れては消えるを繰り返している。
奇妙な光景に周囲は現状把握に難航している様子だ。
「遂に習得したんですね」
「感心ばかりしてる場合じゃないぞ」
天邪鬼
一条家が生みだした歩行術。
独得の重心操作から足運びで相手の視界から現れては消える現象を繰り返す。
以前、楓と修行したときはあんな分身なんてできなかった。
習得した今、奏を捕らえるのは楓の【隠密】とは別の意味で至難と言える。
・・・だが、楓の場合そうではない。
「夏季風物詩 入梅 咲紫陽花」
会場の上空に雨雲が現れ雨が降り出す。
雨に触れた楓の分身は徐々に姿を消し、楓の後ろにいる1人にだけ身体に紫陽花が咲く。
入梅 咲紫陽花
梅雨の雨水に触れた相手に紫陽花を咲かせる。
咲くのは本物の肉体のみで分身など偽物の肉体には咲かない。
更には探知機にもなるので追跡も可能。
「冬季風物詩 土遁付与 かまくら」
白い魔力を手に集中させ本体の奏に封印術をかけようとする。
勝負ありだ・・・奏の勝ち。
「雷神 閃電豪雷」
気づけば楓は刃を黄色に変えている。雷速で刀を振り楓の首筋で寸止めしたことで勝負は着いた。
相も変わらず凄い剣術だ。
妖怪剣術
様々な妖怪の伝承を元に一条家が作り出した剣術。
剣術に合わせて刀を持ち替えないといけないが、先ず1つの剣術を習得するのに長い時間を有する。
だから、刀を持ち替えないといけないと言う事態は基本起こらない。
なのに、奏は一族きっての才能に恵まれたからか幾つもの剣術を現在も習得し続けている。
そんな奏と良い勝負した楓も凄い。
「奏の勝ちだ」
「でも香織の弟も凄かった!あれが一条と安心院」
「やっぱ歴史ある家はすげーな」
歓声が鳴り止まない中、会場の上で楽しそうに会話をしてる楓と奏。
きっと互いに良かったところ直すべきところを教え合ってるのだろう。
しばらく話した後、僕を見つけた楓は笑顔で駆け寄ってくる。
「兄上―!」
こらこら、君はいくつなんだい。
高校生の兄弟が学園でハグなんて軽く引くレベルだよ。
んで、僕の胸に顔を埋めるとかそれ彼女が彼氏にやるやつだろ。
「あ、あんな可愛い子に抱きつかれるなんて」
「落ち着け、あの子は男の子だ。別に羨ましくは・・・」
馬鹿だ。馬鹿がいる。
僕なんかよりあおそこで女の子からタオルやら水やら
渡されてる奏の方がずっと羨ましいだろ。
「お疲れ、ずいぶん強くなったな」
「ありがとうございます。でも奏さんはもっと強くなってます」
「楓や奏ほどの強者はそういないけど、いろんなやつがいるからここで修行してれば楓も強くなるよ」
「はい、頑張ります!」
1年間通っておきながら一切の成長が無い僕の言うことを素直に受け止められるのが凄い。
「香織、楓少し早いけど3人でご飯食べようよ」
「良いですね」
時刻は11時を回ろうとしている。
まあ、2人はガッツリ戦ったから腹減ってるだろうけど。
「僕は少し修行するから先に行ってて」
「・・・」
は、無視?真顔で見るの止めて。きゃ、恥ずかしい。
「わ、わかりました」
「付き合おうか?」
「いや、奏じゃ退屈するだろうし。
僕のレベル合ったやつをやるつもり」
「そうか」
「頑張ってください!」
「おう」