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私立英証雌雄学園  作者: 甘味 桃
第1章:始まりの春
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『第1節:女子と関わる=青春というわけではない。はいここテストに出ます』


晴天に恵まれ、空に散る桜が美しい4月1日。

そよ吹く涼しい春風が、少し強い陽射しを緩和してくれるのが心地いい。

のに!僕の体は猛烈に汗だくで、気持ち悪いったらありゃしない。


「待て-!」


雷の如く迫り来る少女、シャーロット=レーンはいつものようにブロンドヘアーを靡かせ、身体のラインがはっきり分かる黒いワンピース型の軍服を纏い、電流を帯びた剣を振りかざしてくる。

その刃から逃れるために、僕こと安心院(あじむ) 香織(かおり)はひたすら、ただひたすら、

気持ちだけはチーターより早く走り続ける。

【逃げ足】が無ければ、とっくにあの刃で焼き殺されるか斬り殺されてんだなーこれが。

笑顔で斬りかかるサド女に言ってやるぜ。


「うおー、来んな人殺し」


「誰が人殺しだ、私はまだ殺したことはない」


()()って言った、僕が被害者第一号だ!」


「香君も男なら少しは反撃しなさい、そんなんじゃ強くなれないでしょ!」


つまずく僕の隙を、見逃さず刃を首元めがけて振り抜く。

普通なら、このまま首と胴体は切り裂かれ、青空に血の華が咲き狂う。


・・・普通なら。


身体が意識せずして前宙し、紙一重で刃を避ける。

そして一瞬加速し彼女から距離を取る。

あっぶねー。一撃が外れたことが不満なのか、めっちゃ不機嫌な面してるけど、僕の方が何回も死にかけてるからずっと不機嫌だわ。


「本当に厄介ね、そのスキル。さすがは安心院家長男」


「家関係無いでしょ、【逃げ足】なんて臆病な性格が生んだ恥ずかしいスキルですよ」


「確かに遺伝が関与しやすい"個人スキル"で【逃げ足】は忍と関係ないかもね。

 でも逃げるって事は、生きるって事でもあるのよ」


「確かに使い道はありますね。先輩から逃げるためとか」


「ちゃんとシャロって名前で呼んでよ」


面倒くせー。この人可愛いんだけど所々のダルいところがあんだよな。

やれすれ違う度に必ず挨拶しろだとか、前髪切れだとか、私は貧乳じゃなくて美乳だとか最後のやつは何て応えればいいんだか。


「チッ、シャロ先輩から逃げて奏に助けを求めるとしますか」


「むむむ、一条家と安心院家が相手となると少し分が悪いかな」


「そうですね、奏と僕のコンビなら余裕です」


「うんうん、奏君と一緒なら前向きになるところは好きだよ」


ところは、ね。


はいはい、その他は好きではないと。

まあ僕みたいなモブが、学園のマドンナと関わりを持てているだけラッキーだと思いますか。

ポジティブ思考の自分大好き。


「でもね、私は自分の力だけで戦う、強い香織君が見たいの」


「本来忍は、1人で戦わず徒党を組んだ戦法をとるんですけど」


「それでも香織くんはまだまだ強くなれる筈だし、()()()()()()だよ。」


この人がここまで僕に拘る理由は、去年の僕の発言のせい。

[才能が無い]という、才能ある人が一番嫌う言葉を不意に漏らしてしまった訳だ。


「お願いなので、もうほっといて欲しいです。

 シャロ先輩が僕に強さを求める理由は、ただの自己満足じゃないですか」


「そうだ、文句あっか!!」


「その清々しさ、一周回って好きですよ」


「・・・え、や、やだ好きだなんてそんな」


なーに赤くなってんだが。去年僕にウブとか言ってたくせにに照れんなよ。

絶対告白された回数なんて10回は軽く超えてるだろうに。


「じゃあ、自己満足以外の理由を言ったら、今から先輩に全力で挑みます」


こう言えばさすがに諦めるだろう。

強くなることの意義だとか、価値だとか、そんな御託を並べられても絶対首を縦に振るつもりはない。


どんな言葉で説得してくるかと思ったら、理屈もへったくれも無い言葉がきた。


「だから、信じてるから。香織君は強くなるって」


何の根拠も無い彼女の願望に過ぎない発言。


しかし、そんな言葉を放つ彼女の瞳に邪気は無く、

生まれたての欲を知らない赤ん坊のように澄んでいる。


「・・・あーもー、やるか!」


この人の目が好きなんだ。どんなことがあっても、曇ることのないあの目が。

そして、これだけ自分の目標にひたむきな人格が。


世の中、何を言うかではなく誰がいうかである。


「かかってこい!」


クナイを片手に自分より格上に挑む。少年漫画なら熱い展開だが、現実は甘くない。

5秒後には背後から絞め技くらって泡吹いてんだもん。

あえて刃を置いて肉弾戦に持ち込むなんて、何のためにさっきまで斬りかかって来たんだよ。


「よーし、苦しい場面でこそ人は強くなる。今ここで限界を超えろ!」


く・・・電気が流れる軍服に触れているせいで、身体が痺れ抵抗はできない。

首をしっかり絞められ、呼吸がまともにできず思考がまとまらない。

完璧に詰んでるわ。打つ手ねーわ。いっそのこと死んで楽になりたいと思えるほどだわ。


さて、今日は入学式がある4月1日。

あいつは今頃奏と合流しているかな。






「これでHRを終える。この後は自由だが、研究会が新入生歓迎会を行うから参加を勧めるぞ」


遂にこの時が来た。兄上と奏さんと過ごせる日が、来たんだ。


「よし、いざ兄上の元へ」


待ち合わせ場所は中庭。そのためには、新入生を勧誘しようとする上級生を掻い潜らなければならない。【隠密】を発動し、集団の隙間を抜けて一直線の中庭へと向かうと、視線に久方ぶりの奏さんが映る。


「奏さん!」


「お、来たな。入学おめでとう」


「ありがとうございます。兄上はどこですか?」


「・・・えっとだな」


「あ、コーヒー買いに行ってるんですか?」


「ちょーっと怖い先輩に絡まれてだな」


「兄上は今どこですか」






何故だろう、楓の怒気を感じた。


「ゴ・・・フ」


「どうした~美女に抱きつかれて照れてんのか~?」


ウザい。


可愛いからって、何やっても許されると思うなよ。

身体は痺れて感覚が無いから、せっかく女体に触れても分からないし、呼吸がまともにできないから意識を保つことでやっとだ。


「ま・・・た」


言うんだ、力を振り絞って参ったと言うんだ。

そしてこの地獄を終わらせる。


「え、まだまだ?なんだやる気満々じゃん!」


クソ女が。1年前に戻れたら自分を全力で止めてたのに。


そうか・・・冷静に考えるともう1年か。


1年前の僕はやりたいことが無かった。

今はあるのかと問われてもはいとは言えないが、できれば一般校に通いたかった。

だってここは、とりあえずで来て良い所ではないのだから。


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