『第14節:夢か現実か』
(よく言った、さっさと変われ)
頭に直接響いてきた声を認識すると同時に僕の意識は薄れていった。
その後は暗い暗い空間にいる。これは何年か前にも来たことがある・・・気がする。
空間ではどこが上で下かわからない無重力で、自由に移動はできない。
だけど、音も無く暑くも寒くもない静かな水中にいるように感じられるのが心地良い。
遠くに小さなテレビが見える。意識をテレビに集中させると身体がテレビの前まで移動する。そこには戦国の世の様な世界が映っている。
巨大な竜が多くの人を鏖殺し、その竜に紫色の髪をした人が1人で竜に立ち向かう。
優しい光を纏い、竜の周りを舞ながら攻撃を掻い潜り、竜と共に球体に包まれる。
この映像は前にも1度見たことが・・・あったかな?
その人と竜が球体に包まれてそれから先を映すことはない。
何故テレビはこの映像を映すのか、竜を倒せたのか、あの人は何者なのか。
暗い空間で考えていると遠くから小さな光が見える。
身体がゆっくりと光の方へ引き寄せられる。近づくと光は穴から発しているのがわかる。
穴は僕の身体より大きく、次第に吸い込まれていく・・・。
*
「あ、兄上」
おー、どうしたのだ我が弟、そんな涙を浮かべて。確かお前、えっと、そうだ先輩と勝負してたんだ。
「良かった、戻ってこれて」
君はリア充な奏君ではないか。戻る?どこから?
「香織君!」
おいおい、何がどうしてハグされてんだ。あ、良い匂いする。
「ちょ、ちょっと待て。先ず何があったのか教えて」
ふむふむ、先輩のストーカーがゴーレムの原因で、学園の生徒含めて殺されそうになった。それを僕のもう1つの魂が再び目覚めてそのストーカーを我が安心院家の術で倒した。その直後に謎の攻撃がきて僕が楓をかばって致命傷を負ったがあの力が治してくれたと。
その間、僕の意識は・・・無かったなー。なんか夢見てた気がするけど覚えてない。
「まあ、今回は役にったから良かった」
「香織君、あの・・・うんうん身体は大丈夫?」
「はい、ただ今はそれよりも重要なことがあります」
「え?」
「その蔵本って人はどこに」
「あ!時君がいない」
「あと、謎の攻撃の主を調べないと」
「兄上、すいま・・・ふへへへ」
こいつほっぺ柔らかいな、プニプニでツヤツヤ。嫌なことあったら触ろ。癒やしになる。
「その謝罪は必要か?さっきも言ったけど今回は役にたった逆に力がなかったら僕は死んでたんだぞ。だからこれからやるべきことをやろう」
「・・・はい」
「あの木の矢は魔力系だよな2人はあの木の矢に心当たりはないのか?」
「いきなり空から降ってきたよね」
僕も楓も木に関する魔力について知識はあるが使い手に心当たりは無い。木、すなわち自然物を魔力で操作するには自然との調和が必須であり習得には文明から離れ長い数十年の間自然の中で修行が必要である。うわー、そんな人が敵とか勘弁してくれよ。
「タイミングから考えて、蔵本の協力者と仮定して間違いなさそうです。ただ・・・」
「なんだ楓。言葉を詰まらせるとはらしくない」
「その、あの矢は学園の外から飛来した物だと思います」
「つまり、学園の結界をすり抜けたって事か」
「まさかA+相当の敵」
奏も先輩も、楓の発言から敵の強大さを恐れ出す。まあ、それは確かに怖いけど・・・
「蔵本が消えた事のほうが重要だろ」
「どうしてですか、兄上」
「蔵本は完全に気を失っていた中で消えただろ。協力者が注意を引くために攻撃を仕掛けたとしても周りをよく見ろ」
戦いの後であるのが一目瞭然な周囲を見渡し、楓が僕の発言の意図を察する。
「ぼくが防ぎきれなかった木の矢が残ってる」
「これだけ広範囲の攻撃で、目的が蔵本諸共消し去りたいなら分かる。でも奴は姿を消したとなると・・・」
「時君を連れ去ったのは別人」
「おいおい。一体誰だよ」
「まあ、矢の攻撃主は学園の外にいるのは分かったし、葉里先生に進言すれば対策は取れるだろ。ただ蔵本を連れ去ったのは学園内か外かは分からない。こっちの方が問題だな」
「しかし兄上。学園外から連れ出すのは可能でしょうか。英証の結界は安心院一族の結界に比肩するほど優れていると、以前父上が申しておりましたが」
「まあ、そうなんだけど。英証に限らず窈窕や帝王は、金の卵として外部から狙われる危険と隣り合わせなんだ」
「つまり、今回の様な緊急事態に火事場泥棒をする輩の可能性もあると」
「そ。だから蔵本誘拐犯が外部か内部化は断定できない」
「そもそも、蔵本を誘拐したのは、どの系統の人間かも検討がつかないよな」
「そうだね。人間一人を運ぶだけなら、速さに自信のある武力、ステルス機能を搭載した知力の兵器、ステータスの関わらず瞬間移動が使える魔力。どうやって蔵本を連れ去ったかは手段が無限にあり過ぎて考えるだけ無駄かもね」
何はともあれ、奏や楓に気づかれず対象を連れ去れる実力者となると・・・だっる。
「とりあえず校舎に戻ろうっか。学園長にも報告するべきだし、他のみんなの無事も確認しなきゃ」
先輩の言葉に頷き、僕らは校舎へと足を進める。優秀な知力、武力、魔力の使い手が揃ったこのメンバーが、遠くから監視されているとも知らずに。