『第13節:エリートだよ全員集合』
「冬の舞 雪国 吹雪」
そして時君は白い球体に閉じ込められる。
「今度は時君が閉じ込められた」
「冬の舞 雪国。相手を一面雪の世界に閉じ込める術。
中は極寒、更にあいつは吹雪を使ったので中は
風の吹く極寒地獄になってます」
「楓君も使える?」
「・・・ぼくは使えません。」
「ははは!そうか、武力準壱級だから使えんのか。本当に雑魚じゃのう楓」
「黙れ、今度はぼくが相手だ」
楓君は再び魔力を纏わせ戦闘態勢に入る。
時君より圧倒的に格上の相手に。魔力系ではない私でもその格差は分かる。
でもきっと、勝ち目があるから挑むんじゃない。兄を取り戻すためなら戦うんだ。
「お前は馬鹿ではないだろ。先ほどのやつに成す術が無かったくせに
儂に勝ち目があると思っとるのか。」
覚悟を決めた筈なのに、楓君の表情が曇り始める。
・・・でも、香織君を取り戻したいと思っている人間は1人じゃない。
「楓君1人じゃなかったら、どうかしら。」
「シャロ先輩。」
事情は分からないけど私は彼を救いたい。最初は私が仕掛けた勝負に勝つ実力者に会えてワクワクした。でも蓋を開けてみれば向上心は無く、才能が無いと言い訳するへたれ。
同じ漫画とアニメが好きという趣味がある良い後輩だけど、なんとか改心させたい。
自己満足な行動だとわかっている。だけど後輩のためにそれが正しいと信じている。
その一心で1年間努力した・・・けど。
最初に本人が言ってた通り、香織君の能力には限界があった。
後悔してはいけない。それは彼に対して最大の侮辱だから。
でも、もしも趣味が合う先輩と後輩でいたら、迷惑をかけなかったかもしれない。
面倒くさいなんて言われなかったかもしれない。
なのに、好きと言ってくれた。まだ過去の失恋から立ち直れていないから「はい」と返事はできなかったけど嬉しかった。1年間付き合わせたのに嫌いにならず好きになってくれて嬉しかった。
だから取り戻す。
「ありがとうございます、シャロ先輩が一緒なら心強いです」
「そこの娘は知力が特級あるようだが、それで勝てると思うとるのか」
「ああ、俺達3人なら香織を取り戻せる」
香織君の後ろには侍の身なりを装い、鍛えられた肉体から発せられるオーラを纏う彼の親友がいる。
「久しいの、奏」
「お前に名前を呼ばれたくはない」
「奏さん」
「悪いな遅くなって、2回目の爆発で怪我人がでないよう護ってた」
「スマンのう。流桜は海壁の様に衝撃を吸収する効果は無いんじゃ」
「奏さん、さっきの衝撃を防御できたのですか」
「おいおい。楓も知ってるだろ。鎌鼬は風の技。遠くからだったし、相殺くらい訳ないさ。
そんで主犯と思われる男が、こいつの忍術でやられたのを確認してこっちに来たんだ」
・・・なんて頼もしいの。今ここには武力の一条、魔力の安心院、2つの大家の次期党首がいる。
そして私は知力のレーン。ここに3大ステータス上位が揃った。絶対に香織君を救い出す。
「武力壱級か、成長したのう。そこの小僧とは大違・・・」
言葉を止めて香織君は上空を見上げる。ブラフではないと判断し、私達も視線を上げると遠くから何かが飛来してくる。視力の良い奏君がそれが何かを把握する。
「木の・・・矢?」
「下がっとれ、儂が払ってやる。」
「夏風物詩 火遁付与 積乱雲」
反射とも近い速度で楓君は術を発動する。
私達3人の前に立ち、燃えさかる積乱雲が目の前に広がる。
激しい業火は空気を揺らし、その豪快さは火の守り神の様であった。
向かってくる全ての矢を焼き払った・・・かに見えたけど。
「楓!」
香織君は楓君に向かって走り出す。雲が晴れ、弓の灰が散らばる。
「そ、そんな・・・」
「お前は楓が嫌いだったんじゃ」
別の魂を宿した香織と思われる人物の腹部を1本の矢が貫通している。
1本だけ巨大な矢が燃え切ることなく、雲を通過し楓君を貫こうとした。
「ゴフッ、いいか楓。もう兄を優先するのは止めろ。
本来ならお前の力はその程度ではない」
「・・・え」
内臓が潰れる音を響かせながら、大量の血を噴出し最後の力を振り絞って腹の矢を抜く。
膝から崩れ落ちるが表情は何故か微笑んでいる。
「大丈夫だ。楓も奏もちゃんと強くなってる」
流血が香織君の周りを赤く染める。
このままでは絶命してしまうのがわかるほど。
「どうしよう、薬師丸先生の所に運ぶ前に香織君の命が保たない」
医学を持ち合わせていても、医術を持ち合わせていない無力な自分。
それはきっと、楓君と奏君も同じ筈なのに。
「なんで2人は黙ってるの、このままじゃ香織君は死んじゃうんだよ!」
返答は無く、ただ静かにじっと香織君を見つめるばかり。
とにかく医務室に運ばなければと駆け寄ろうとする。
すると、楓君は私の前に腕をやり遮る。
「見ててください」
次の瞬間、香織君の身体が白銀に光り出す。
光は腹部の穴に集中し、みるみると再生を始める。
「え、うそ。これも忍術なの?」
「いいえ、ぼくが犯した罪の産物です」
発言の詳細を聞く余裕はなかった。
とにかく後輩がこのまま助かるなら他のことは二の次でいい。
光が収まると同時に髪が黒く変色し、香織君は意識を取り戻す。