『第12節:キウイは黄金色派』
俺は自分の親についてよく知らない。だが政府のため名誉ある職務を全うできたそうだ。
何故それを知れたのか。物心ついた時、育った環境が政府の施設だと認識したから。
どうやら俺の親は政府に絶対服従する代わりに、自分達の子どもは自由に生きる事ができるよう政府の管理下に置かない契約を結んだらしい。
魔力A+という事もあり、政府は俺を管理したかったらしいが契約のため不可能だった。
10歳で莫大な遺産を頼りに目的も無く生きた。自分以外の人間が下等に見え、退屈な日々。
そんな中、英証雌雄学園の存在を知り、A+の人間を過去何人か輩出した実績から、自分と同等の人間を求めて入学した。入学初日で出会ったのがシャーロット=レーンだった。
知力A+。新入生代表で演説をした彼女に、俺は初めて自分以外の人間に興味を持った。周りの下等生物達は可愛いだの付き合いたいだの、分不相応な発言にイラッとした。
彼女に相応しいのは俺だ。そう思っていたが、奴は俺の想いを踏みにじった。
A+だとかステータスで人間の価値を計るのはくだらないだの、理解できない。
何のために世界ではステータスを設けているのか。人間の立場を明確にするためだ。
彼女は知力系でありながらそんな事も理解していないのか。
許さない。絶対に。
俺は復讐を決意し、とにかく力を求めて旅に出た。
だが、学園を逃げて僅か1週間で俺は捕まった。国内での活動を避け海外を放浪していると、ある国で見た事もない獣と対峙した。巨大な兎の化け物。魔法でその場を直ぐにでも離れようとしたが、遠くに空間を繋げるには時間がかかる。だがこの兎は素早い。近距離に空間を繋げて回避しなければ一瞬で殺られる。攻撃魔法を知らない俺は防戦一方だった。しかし徐々に兎は俺の動きを捕捉しつつあり、回避先を攻撃されるのも時間の問題だった。
このままでは命が危ういと思い、後先考えず終局を発動して、まだスキル改変前であったため自身も体感100年の間白い箱に閉じ込められ精神は崩壊してしまった。
目が覚めると、寝室と思われる部屋にいた。精神状態は完治しており、訳も分からずにいると、男が扉を開けて現れた。
「誰だあんた。俺に何か用か」
「頼みたい事があるのだよ。君の能力を持ってすればできる」
「断る。そんな暇は無い。直ぐにでも俺は力が欲しいんだ」
不気味な笑みを浮かべながら、男はある提案を持ちかけた。
「取引といこう。君に新たな能力を与える。そうすれば何回でも終局が使えるようになる。
条件は1つ、2人の人間を連れてきて欲しい」
最初は胡散臭いと思った。しかし終局を使ったのに完治できたことから、この相手の話に乗ればシャーロット=レーンに復讐できると確信した。
条件通り2人の人間を誘拐した。魔力A+は簡単だった。あの化け兎との闘いで自分の魔法の使い方を改めた。しかし武力A+は苦労した。誘拐しようと空間から現れると、気配で回避される。化け兎以上の強さを持った相手と懸命に闘い、見事捕らえた。
そしてスキル改変という前代未聞の所業を果たし、俺は終局を何度でも使える能力を手に入れた。復讐の作戦を立て、新たな魔法を習得し、彼女のDNAを集めいざ作戦を実行したら。
「ふぁ~、お、出られたか」
その男は自分の攻撃を防ぎ、あろうことが終局をくらったのに平気でいる。
次は何をすれば良いのか。新たに攻撃、再び終局を使う、無視して標的を殺害する。
いくつかの選択肢から選んだのは理屈ではなく感情に従った行動だった。
「何故平気でいる」
質問。
質問したいことは山ほどあった。
お前は何者でどこでそれだけの力を手にいれたのか。
だが先ずは何故平気でいるのか、これを聞かずして次の行動に
移せないほど俺の心は追い込まれていた。
「大変だったぞ、箱の中じゃ何にもできないうえに外の状況もわからんし、
暇つぶしできる物もないから本当に暇じゃった。だから・・・」
一体どんな手段を執ったのか、意識を研ぎ澄ませていたら、返ってきたのは拍子抜けな話だった。
「寝てた」
・・・何を言っているのか。
睡眠をとっても箱の中では100年の時を過ごさなければいけない。
どれだけ寝て起きても白い世界が目の前にあり抜け出せない。
技の詳細を知らないからいつ終わるのかもわからず、その精神的苦痛は想像を絶する。
なのに、この男は・・・。
「ふ、不可能だ。100年間も寝て過ごすなど」
「100年間か!お主、なかなか恐ろしい終局を使うのだのう。
まあ、儂は500年の時を暗闇で過ごした。100年間程度なら昼寝には十分じゃ」
笑いながら話す男。何を言っているのか全てを理解することはできないが
終局をくらって平気でいる様子を見せられれば受け入れるほかない。
「ほいじゃあ、今度は儂の番じゃ」
男は全身に白い魔力を纏うと、雪の中をはしゃぐ無邪気な子供の様な動きで
自分の周りを舞い始める。直ぐにでも空間で逃げようとするが、攻撃されているという恐怖より、奴の魔力で具現化されていく景色に心を奪われ、何も出来ないでいた。