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謀婚 帝国編  作者: 樫本 紗樹
おまけ Web拍手再録とおまけSS

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オリバーとジェローム

二章 『無実の罪と地下室』より数日後の話

「私の愛情が伝わらないのは、何が足りないのでしょうか」

 エドワードからシルヴィに会うなと厳命されたジェロームは、兄であるオリバーの元を訪れていた。

 オリバーはとても真面目な性格で、洞察力や分析力をエドワードに買われている。そしてオリバーは二児の父でもある。オリバーの妻はジェロームから見て面白味はないが、お似合いだと思っている。

「嫌いな物を押し付けられて喜ぶ人間などいない」

「私はそこまで嫌われていないと思うのですけれど」

 ジェロームは理解出来ないという表情を浮かべている。オリバーは冷めた視線を弟に向けた。

「ここまで戻るのに帝国内から馬車を用意すると言った陛下の提案を断ったそうだな」

「シルヴィ様には帝国内を実際に見てほしかったのです。庶民の暮らしはレヴィとは大違いですから」

「それは建前で、本音は二人きりで旅行をし、何から何までお世話したかっただけだろう?」

「それはそうなのですが、着替えは手伝わせてくれませんでした」

 心底残念だとジェロームの顔には書いてある。それがオリバーには理解出来ない。

「兄上の分析力は国内一だと思っています。私がシルヴィ様に求められるのに足りないものを教えて下さい」

「私の分析は陛下の為にするものであって、弟個人に付き合う義理はない」

「そのような冷たい事を言わないで下さい。あの暮らし難い帝国に六年も潜んでいたのですから」

「寒い、食事が不味い、と報告書には必ず文句が書いてあると陛下が仰っていたが」

 ジェロームは視線を外す。いくら従弟とはいえ、関係性を考えれば彼は文句を言える立場ではない。オリバーは冷たい視線を弟に向けた。

「ジェリーは陛下との約束を果たせなかったのだから諦めろ」

「人生で初めての弟の頼みなのですから聞いて下さい」

 しつこく食い下がるジェロームにオリバーはため息を吐く。

 オリバーはどうすればいいのかをわかっていた。彼等の周囲は優秀な者が多く、また近衛兵という機密情報を扱う仕事故に自分の事を多く語らない。ジェロームは気持ちを言わなくてもシルヴィに伝わっていると思っているのだろうが、多分シルヴィには伝わっていない。そもそもジェロームの愛情表現が普通ではない事を本人が自覚しているのかが怪しい。

 だが、それをジェロームに教えていいのかをオリバーは迷っていたのだ。

「シルヴィ様は綺麗になられた。皇宮では言い寄る男性もいたと思うが」

「私は護衛騎士として悪い虫を徹底的に駆除しました」

「全てが悪い虫だったと言えるのか?」

「シルヴィ様の処女は私のものなので、それを狙う男は全員悪い虫になります」

 真面目な表情で言い切るジェロームの言葉に、オリバーは無表情になる。

 オリバーはシルヴィに特別な感情を抱いていなかったが、ここにきて申し訳ない気持ちでいっぱいになった。やはり自分の分析は心の中にしまっておこうとオリバーは決心する。

「それはジェリーのものではない。その考えを改め直せ」

「愛した女性には他の男性を知らないでほしいと思うのはおかしな事でしょうか」

「本当に愛しているのなら、その女性の幸せを願うべきだ。自分の愛を押し付けるべきではない」

「私は絶対にシルヴィ様を幸せにしてみせます」

「おこがましい!」

 常に冷静なオリバーが珍しく声を荒げたので、ジェロームは驚いた。オリバーも自分らしくなかったと、ひとつ咳払いをする。

「今のジェリーではシルヴィ様に受け入れてもらえない。私が助言出来るのはこれだけだ」

「もう少し具体的にお願いします」

「恋愛に正答があると思うな。男女の仲は其々違う」

「兄上は答えを見つけていないのですか?」

「夫婦には恋愛感情が必須というわけではない。家族愛がお互いにあればそれで足りる」

「夢がありませんね」

 ジェロームは何処か馬鹿にしたような口調だった。そういうのはエドワードだけで十分だと思ったオリバーは無表情を弟に向ける。

「私の命は陛下に預けていて、妻には捧げられない。夢を見ていて近衛兵が務まるわけがない」

「真面目な兄上らしいと思いますが、私は嫌です」

「それでも相手に受け入れてもらえないジェリーよりは私の方がいいと思うが」

 オリバーの言葉にジェロームは言葉に詰まる。実際ジェロームは拒否されたままであり、オリバーには家族がいるのである。

 オリバーはしょぼくれたジェロームに優しい眼差しを向ける。

「暫くは陛下の命令に従え。それと母上に顔を見せてやれ。心底心配していた」

「母上にはシルヴィ様を連れて帰ると手紙に書いてしまいました。一人では帰れません」

「安心しろ。母上はその話を信用していない」

 ジェロームは悲しげな表情を浮かべる。オリバーは優しく微笑んだ。

「元赤鷲隊隊長夫人だ。ただの母親だと思うなよ」

「それもそうですね。兄上ではなく母上にシルヴィ様の事を聞いてみます」

 母親に恋愛相談をしようと思う神経が、オリバーには理解出来なかった。そもそもオリバーはジェロームの考えの色々な部分が理解出来ない。深く考えるのはやめて、二人は実家へと戻っていった。

 オリバーとジェロームの母アデルは、元赤鷲隊隊長夫人ですからそれなりの人物です。

 ジェロームの事を「生まれつきの性格を教育で矯正させるのは無理だったから諦めた」と割り切っています。

 父親はガレスとの国境に縛られていた為、教育はアデル任せでした。

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