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22.お嬢様は旅に出る(1)

「明朝、()つわ。短い間だったけれど、今までどうも有難う。精霊魔術の修業頑張ってね。あなたならきっと、5年程で基礎は一通りできるようになるのではないかしら」


夜、のっそりと自室を訪れたエイレンに無表情でまくしたてられ、アリーファは呆気にとられた。


「エイレン、その態度人としてどうかと思う」


「あらなぜかしら?正確な報告とお礼と励ましだったでしょう」


「だからっ、あなた今日、わざわざウチの母に会いに行ったのよね?」


「ええ」


「で、親しいお知り合いと楽しくおしゃべりもしてきたのよね?」


「ええ」


もしかしたら探されているかも、いや昨日狩りのためのチューニング中っていっててまだ今日は無い無い……と、王都中心街及びその外れにまでちょっと無理やりに出掛けたのは、明朝に発とうと思っていたからこそだ。


アリーファはびしっと自身を指差した。


「で?なんで私だけそんな扱い?!ひと言で済ますってどうなの?!」


「いえ5言程はあってよ」


「お別れパーティーもできないじゃない!」


別れを惜しみたいとかエイレンには多分無いのだろうけど、アリーファとしては何かしてあげたかったのだ。


エイレンの眉間がほんの少し狭くなる。


「なにそれ気持ち悪いわね」


「……あなたってそういう人よね」


「分かっているなら言わなければいいのに」


エイレンとしては、出発予定をなかなか言い出せなかっただけなのだが、多分その言い訳は一生口にできない。代わりに物事の良い面を提示してみせる。


「ほぼずっと一緒に暮らしていたのだから、今さらパーティーなど必要ないでしょう。準備と後片付けをあなたが1人でしなくて済んで良かったではないの」


アリーファの握りしめた拳がフルフルと震えた。どうしてそんなにパーティーがしたいのだろう?


「もしかして気の合わない者がいなくなることを盛大にお祝いしたかった、ということかしら」


「そうよっ」


アリーファが爆発する。


「あなたみたいな女、いなくなると思ったらせいせいするわーっ!」


底意地が悪いし師匠の前でだけ良い子ぶるし秘密主義だし何でも自分だけで決めたがるし人をオモチャだと思ってるし!


息つく間もなく並べ立てられる数々の特徴に、エイレンは微笑んだ。理解者がいるというのは、何と安心することだろう。


「けっこうな(はなむけ)の言葉をありがとう」


「あっ、とその、ごめんなさい言い過ぎました」


「まだ足りないのではないかしら」


アリーファは思わず身を縮める。もっとおっしゃっても良くてよ、とニコニコ迫られるのってこわい。


「あ、あとは……それなりに気を遣おうとしてくれてたけど、全然ダメダメ……」


「ほかにおっしゃりたいことはあるかしら」


「あーと、その。そうだ、どこに行く予定なの?」


エイレンは詰まらなさそうにチッと小さく舌打ちをして答える。


「帝国」


「それ漠然としすぎでしょ!」


聖王国は北辺の小さな国だが、帝国はその南に広大な版図を誇っている。帝国、という答えは「世界中のどこか」とさして変わらないニュアンスなのだ。


「そうね、ツテを頼ってまずは皇都に行くわ」


「それから?」


「皇帝陛下でも(たら)し込もうかしら」


「皇帝陛下のどこいいの?」


「地位と権力」


当たり前でしょ、といわんばかりの表情である。


「超ブサイクだったり超こわい人だったらどうする?」


「誑かしやすくて最適よ」


ふふふっと楽しそうに笑うエイレンを見て、アリーファは思った。


また冗談なんだろうけど、ひょっとして本気ならどんな手を使ってもやりきりそう。


「あなたの悪いとこ、もう1つあった」


「あら何かしら」


エイレンの瞳に、面白がっているような光が差す。アリーファは渾身の力を込めて言い放った。


「この、人でなし!」


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