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19.お嬢様たちは師匠を探す(1)

むかしむかしのお話です。人間の娘と神様は恋をして、2人で暮らせる土地を探して遠くへ旅に出かけました。


やっと見つけたのは、寒い風の吹きすさむ荒れた大地でした。神様は言いました。


「ここに私の加護を与えよう。草木が芽吹き、実りを迎えるように。川に魚が泳ぎ、山には鳥が歌うように。草原に花が咲き、蜂が蜜を集められるように」


神様は娘との間に生まれた子を核にして大きな結界を張り、寒い風や嵐から守りました。やがてそこは見違えるように豊かな土地となり、人が集まり、国になりました。


娘は女王として神様とともに国を治めましたが、やがて別れの時がやってきました。


神様は大変悲しみ、女王に言いました。


「私の寿命を半分与えよう。千年の時を共に生きよう」


女王は言いました。


「いいえ。あなたはその分も長生きして、この国を守って下さらなくては。その代わりにわたくしは、何度生まれ変わってもあなたに恋するでしょう。これからの何千年先も」


だから神様は今でも、この国を守って下さっているのです。愛する人を待ちながら。



※※※※※



「紹介するわ。こちら神様のハンスさん」


「……え。今なんて?」


「だからハンスさん、よ」


「その前っ」


エイレンはすぐに戻ってきた。師匠(リクウ)ではなく、見知らぬ男を連れて。そして前置きなくいきなり、これである。


(多分めちゃくちゃ怒ってる……)


無表情な顔に瞳の奥のブリザードが怖すぎる。


アリーファに気を遣っていったん戻ってきて、ことの元凶を説明しているのだが怒りと焦りで途中省略しすぎ。


(つまりさっきの師匠はハンスさんが化けた(?)姿ってことかな)


短期間の共同生活でここまで読めるようになった私、すごい。やっぱり自分をほめてやりたくなるアリーファだったが、しかし。


「神様って本当に神様?」


「本当に神様よ」


「お前失礼な女だな。この神気を見れば一目瞭然だろーが!」


男、もといハンスさんが割って入った。


「だって本当にいると思わなかったんだもん!しかも神気なんて全然っ分かんない!」


「嘘だろおい、神様っぽい感じしない?ほらほら」


「無理」


立派な上腕二頭筋を見せつけられても。


アリーファからすれば、ハンスさんはどう見てもちょっと変わったチャラい兄ちゃんである。


「あなたのせいではないわ、アリーファ。神様の存在は神殿のトップシークレットなのよ」


「どうして?」


「全くもって有り難みが感じられないから」


「神殿の連中は俺のプロデュースを間違えてるよな。なぁ、そこの可愛いお嬢ちゃんだってそう思うだろ?」


「思わない」


「ほらご覧なさい」


胸が痛いッとかわめきつつうずくまるハンスさんの横で勝ち誇るエイレンの表情が、まるで師匠をいじる時みたいにイキイキしている。


「2人仲良しなんだね」


うっかり言って、しまった、と思った。エイレンから漂う冷気が痛い。


「やめてちょうだい。こんな人、ただの知り合い以下だから」


「ただの知り合い以下って何だよ」


「はた迷惑な知り合いに決まってるでしょう」


「うううっ」


表情を変えずに突き刺す言葉の刃に、ハンスさん再び胸を押さえてうずくまった。楽しそうだ。


エイレンはさくさくと本題に入る。


「で、これからこの人が拉致監禁した師匠を助けに行くのだけれど、アリーファはどうするの」


「……えっ……」


「なにびっくりしているの。そういう人よこの神様は」


いやびっくりしてるのは、エイレンに「どうするの」とか確認されたことなんだけど。


「じゃあ私も行くっ……てでも、犯人ハンスさん?!神様のクセに何してるの?」


ハンスさんが白い歯を見せてにっこり笑った。すがすがしい神様スマイルである。


「そりゃあれだ、嫌がらせ」


「アリーファ、たいまつはないけれど大丈夫ね」


神様ガン無視して戸口へ向かうエイレン。精霊魔術師(まじないし)の館にあるたいまつは、先に透輝石がついたものである。初期投資はオニ高いが、まじない1つで半永久的に使える優れもの……精霊魔術(まじない)さえ使えれば。


「コイツがさぁ、俺の女のくせに」


「では行きましょうか」


「ちょっと待って!今の気になる!」


無視されていることに気付かない振りをして喋り続ける言葉にアリーファが捕まった。ハンスさんがにやりと笑う。


「聞きたいか?」


「聞きたい!聞きたい!」


「では、耳を貸せ。俺様ならではのレア情報を教えてやる」


ゴニョゴニョと囁かれる物語に、アリーファの表情が乙女な感じに輝く。


「ということは千年越しの恋?!」


「その通りだ」


「ハンスさん一途なんだ!」


「全くもってその通りだ。なのにコイツはだな、やっとこの国の女として生まれてきたと思ったら……ゴニョゴニョゴニョ」


「それひどいよね!」


「アリーファさん、一途は誤解よ。神話を紐解いてごらんなさい。この方が気に入った娘たちに、どれだけ気軽にちょっかいかけてることか」


盛り上がる2人に、エイレンは静かな声で冷や水を浴びせた。


ちなみにその『ちょっかい』の数々はいかにも『神の恩寵』的な良い感じで記録されている……当時の神殿関係者が後始末に苦労してそうだ。


わたくし前世の記憶など一切ないけれど、神様の奥さん(女王様)が寿命シェアを拒否された理由は理解できるのよね、とエイレン。すなわち。


「あと千年もこの浮気者の坊やのお()り?ぜひ辞退させていただきたいわ。適当に聞き心地の良いことを言ってバックれてしまいましょう……ということではないかと」


「ぐはあぁぁっ」


千年越しの恋、全否定。今度こそ本気の涙目で悶絶するハンスさんに絶対零度の微笑みを投げかけ、エイレンは戸口を出て行った。

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