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18.お嬢様の前に神様が降臨する(2)

「はい、質問です!」


アリーファはエイレンに詰め寄り、その澄ました顔をにらんだ。


「安静とはどのようなことを指すのでしょうか!いち、大人しく寝ている……」


「正解は2番。患部を保護しつつ動けるだけ動く、よ。少なくとも戦闘中は」


「ひっひどい!それが施療院にいた人の言うこと」


今は戦闘中じゃないし。


アリーファは怒っていた。エイレンがきちんと寝ているよう見張っていたのに、トイレに行った隙に逃げ出されて。


しかも、それから夕方の今まで帰ってこなかった。どれだけ心配したと思ってるの。


なのにエイレンは平然と言い放つ。


「そもそも、安静概念というのが嘘ではないかと思うのよね。わたくしは、動ける限りは動いた方が回復が早いように感じるわ」


「……師匠に言いつけてやる」


ぼそりと呟くと、エイレンは一瞬動揺したようだ。なんだかんだ言う割には師匠絶対だからね。


しかし即座に態勢を建て直してきた。


「どうぞご勝手に。わたくしにやましいところはないわ」


「昨日『絶対に外出はしませんから』とか言って師匠に変装のまじないかけさせたの誰」


「昨日のわたくし。ねえアリーファ、人間とは1日1日と変化していくものなのよ」


なんという詭弁だろう。


「つまりあなたは信用できない人ってことね」


「あら。本当にわたくしのこと、信用できない?」


「じっと見てにっこりしてもダメだから!」


アリーファ必死の抵抗。


ちっ、とエイレンが舌打ちした……え、舌打ち?神殿の『一の巫女』様が?


逸らしていた目を戻すと、エイレンは感無量といった風に片手を口に当てていた。


「やったわ。わたくしついに新しい扉を開いたのよ」


これまでどんなに頑張ってみてもできなかったの、とアリーファが見たこともない程のはしゃぎっぷりである。


たかが舌打ち1つで。


でもアリーファには分かるような気がした。


「そうそう。ヘンにストッパーがかかってできないことってあるよね!」


「あらあなたにも」


「もちろん!野菜切れないとか」


そうだったわね、とエイレン。


アリーファは料理はできるのに、野菜を刻めないのだ。で、包丁はほぼエイレンの担当になっている。


「魚はさばけるのに」


「あれはもう昇天してるから」


野菜に刃物を当てるのはなんだか痛がっているような気がしてできない。ちなみに彼らをスープに突っ込む時には心の中で詫びている。熱いけど許してね。


そんなワケで、エイレンが利き腕を使えない本日のスープは、丸ごとのラデイッシュをごろごろと放り込み干しキノコと干し肉で煮込んだ豪快なものである。


これはこれで美味しそうだ。


「エイレン、その腕いつ治るの」


「まだ痛みがあるからもう少し」


実際にはもう少し、では足りないほどに痛んでいる。さすがは神魔法の力で切り裂かれただけあった。


もし相手がもっとマシな使い手だったら腕1本では済まなかっただろう。(ファーレン)で良かった、とエイレンは心から思った。


そして、おそらくは落ち込んでいるだろう姉を彼女なりに励まそうとアリーファを()いて王宮に向かったのだ。


―――王宮に一市民として入るのは、けっこうまわりくどかった。まずは神殿で神官長()に会い、報告書と引き換えに銀貨5枚と紹介状をせしめた。


そして門番に紹介状を見せて神官長()が潜り込ませた侍女に取次を頼み待つこと30分。侍女がきてようやっと王宮内に入れたが、姉の部屋に行くのにまた30分。


ようやっと辿り着いたと思ったら、そこで見たのは庭園で仲良く寄り添う姉と国王だったりしたのだが―――


(姉上も強くなったものね)


喜ばしいことだ。


遠くで晩鐘が鳴った。

アリーファがぐつぐつ煮え立つスープ鍋に蓋をする。


「師匠遅いね」


「煮立ったらまた水を足しましょう。きっとそっちの方が美味しいわ」


微笑んでエイレンが応じる。利き腕を怪我してから、3人で囲む食卓はほんの少しだけ賑やかになった。


その賑やかさを(わずら)わしいと思わないのが、今の彼女には不思議だった。

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