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16.お嬢様は失せ物を回収する(1)

神殿から王宮へと続く道を、たいまつを持ったガルミエレ(神官長)とエイレンは足早に移動していた。


神殿と王宮は隣接しているとはいえ、王宮内部はとにかく広い。ファーレンの部屋まではゆうに1時間はかかるため、せっかちな父娘の足は自然と速くなってしまうのだ。


門番の兵士にガルミエレ(神官長)が身分証を見せると、礼儀正しく、しかし明らかに不審がっているらしい質問がなされた。


「神官長様がこのような時間に何用で」


「側室様から誘いをいただいておりましてな……今宵は国王様が政務で来られず寂しいから、共に星でも眺めましょうと」


国王は数日後に地方視察を控え、スケジュール調整のため政務に忙殺されているのだ。それをガルミエレ(神官長)が知っているのは、側室(ファーレン)経由ではなく抜かりなく王宮内に潜ませているスパイ(連絡係)からである。


ここぞとばかりに好々爺スマイルを決める神官長。


「やはり愛娘(まなむすめ)の誘いとあっては断れないものですなぁ」


「ああ、いくつになっても我が子は可愛いっていいますよね。私の親も、いつまでも子ども扱いするので困ってますよ」


「さよう。我が子というのは大人になっても、どうしても幼く見えてしまうものですよ」


年若い守備兵は白い歯を見せて笑い、どうぞお通り下さいと敬礼をした。


「……なにか言いたいのかエイレン」


「いえ、さすがはわたくしの父上(神官長様)ですわ」


父は確かに子煩悩だが、どちらかといえば大事な子だからこそ千尋の谷に突き落とすタイプだ。それをされなかったのは(ファーレン)くらいのものだが、その姉とて知っているだろう。


寂しいから来て、などと甘えたことを言ったら叱り飛ばされるだろうことを。


あながち嘘でもないぞ、とガルミエレ。


「いくつになってもバカなことばかりしでかす我が子なぞ、頭にカラ付けたヒナにしか見えんわ。全くバカはファーレンだけかと思っていたらそなたまで」


まだエイレンが逃亡したことを根に持っているらしい。


「それで、神官長様が感じたファーレン様が変わった点とは」


強引に話題を変えると、ガルミエレが深刻な表情を見せた。


「うむそれがな……いろいろだ」


「ふんわりとした解説ありがとうございます、神官長様」


「例えばだな、そなた侍女がうっかりドレスに水をこぼしたとしてだ。3日間無視するようなこと、するか?」


「それは……7歳頃のわたくしがもし大臣の姫なら、そうしたかもしれないわね」


現実にはエイレンに侍女などついたことはない。『一の巫女』の身分になった時にそういう話も出たが、身分に見合ったお飾りなど必要ないと断ったのだ。


「そういうことだ。ファーレンはボーッとして見えるが、あれはあれでうまく行っていたのに……急に頑張らせたから性格に破綻を来したのだろうか」


「さあ……それはあるような無いような。そもそもファーレン様は尻を叩いてもなかなか動かないロバではないの」


頑張れと言われて頑張るタイプではない。そういう点では意外と図太い、とエイレンは密かに思っている。


「そうでもないぞ。側室になってからはしっかりしてきたのだ」


「あらそう。それで、ほかに変わった点は」


「うむ……報告によるとだな、(ねや)での振る舞いが一段と大胆になったそうだ」


続きは、周囲に聞く者などいないにも関わらずゴニョゴニョと耳打ちする。


(あらそれはわたくしが教えて差し上げた上級編)


「まさかあれを実践なさるとは」


「あのファーレンが、まさかだろう」


神官長の悲痛な声にエイレンは考える。それに関しては、わたくしだって父上と母上がそういうことしてたとか想像できないので何とも言えないわね。


「まぁまぁ神官長様。ファーレン様がお幸せならいいのでは?」


「そういう問題ではない」


「それより、そのスパイ(連絡係)変えた方がいいわよ」


「こう、寝所の扉もカーテンも開け放ってわざと見えるようにしておって、覗いたわけでは決してない、と言い訳しておったが」


「だとしたら……本当に問題ね」


だってわたくし、そこまでは教えていないもの。


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