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15.お嬢様は神官長から依頼を受ける(3)

精霊魔術師(まじないし)の館に灯る透輝石の光に慣れると、神殿の夜は随分暗く感じる。節約のために灯りをすっかり落とした長い石造りの廊下は暗殺者が簡単に潜めそうなほど暗い。


「けれど残念。神殿(ここ)には()してトクするような大物がいないのです。おっと違う蝋燭代はトクでした……相変わらずな節約ぶりね、父上」


神官長の自室で大して面白くもない定番神殿ジョークを叩きつけつつ、エイレンは父である神官長と対峙していた。


「わたくしの居場所をマーク済みなら、体面のためにサックリ消して下さっても良かったのに」


肘掛け椅子に深く腰掛けたまま、ガルミエレ(神官長)は娘を見る。


ごく幼い頃を除けば、父に対して常に礼儀正しかった娘が軽口を叩いてくるのが珍しかった。心境の変化でもあったのだろう。


「どうしたエイレン。使命から解放されて退屈しているのか」


エイレンの顔からさっと表情が消えた。図星である。


「あらわたくしにはまだ野望があってよ。今はそうね……休暇中よ」


休暇中、でまた普段の顔に戻る。


そう、まだ慣れないところはあるが休暇(ヴァカンス)はそれなりに新たな発見があって楽しいのだから。


「それはけっこうなことだ。そなたは地位にも関わらず神殿一の働きアリだったからな。下の者に任せれば良いことまでいちいち手を出して」


そういえばこの父からはしばしば叱られていた。掃除や洗濯など下の者にさせよ、と。


そしてその度にエイレンはこう答えていたのだ。


「指図して、質問されてまた指図して、仕上がりをチェックして嫌味を言いたいのをガマンしてまた指図。己の手でした方がよほど早いわ」


「そなたがそのような態度だから、下の者が困るのだ」


「わたくしは亡霊でしょう。今さらそのようなこと、どうでも良いのではなくて。それより本題は」


このような夜中に呼び出した理由が親子の会話を楽しむため、であるはずがない。


「姉上のことでしょう」


「そうだ。よく分かったな」


ガルミエレ(神官長)は渋面を作った。


「ここ数日というもの、明らかに様子がおかしい」


「わたくしもそれは刑場で見掛けた時に感じたわ。鞭打ち刑で目を逸らさぬなど姉上にはあり得ない」


呪詛(のろい)付きの腕輪が(ファーレン)の手に渡っていることは伏せておいた。気付いていない者にわざわざ言うことはない。


話が早くて助かるな、と神官長。


「そうだ。まるで振る舞いがそなたのようになった」


「あら別に良いのではなくて。それで上手くいっているのでしょう」


「考えてもみろ……頭の回転がそなたの姉(ファーレン)のままなのに、言動だけがそなただぞ」


神官長の口から深く重いため息が漏れた。


「最悪ではないか」


エイレンが頑固なまでに自我を押し通し周囲を利用しても、大きな反感も買わずにやってこれたのはひとえにその判断力とカリスマ性のおかげである。


もしファーレンがエイレンのように振る舞ってしまえば、周囲にどれだけ敵を作ることだろう。


なるほど、とエイレンは思った。


(本当に姉上のこととなるとこの人は心配症だわね)


父の懸念の大体が分かったところで、サクサクとまとめに入る。


「対処して差しあげないでもないわよ」


1度死んだことにした娘を父が呼んだのは、ほかに使える者がいなかったからだ。それが分かっていて、やりたくないとごねるのは性に合わない。


「でも、そうね。もしうまく行ったら成功報酬はいただきたいわ」


「なに」


当然でしょう、とエイレン。庶民の生活では生きていくのにお金は必須ではないが便利なのだから。


「ひとまずは手付金として、銀貨5枚でいかがかしら」


エイレンはにっこりして、父に両手を差し出した。

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