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15.お嬢様は神官長から依頼を受ける(1)

「で、なんなワケ?」


夕食後の片付けを終え、後はめいめい好きに過ごすだけ、という時間。


アリーファはエイレンのベッドの真ん中にどーんと居座り、腕組みして大きな緑色の瞳でこちらをにらんでいる。


「師匠と2人で例の、とか何とかコソコソ話しているけれど、一体どういうこと?」


「除け者にされている感が気にくわないのね」


エイレンはため息をついた。確かに除け者にはしていた。彼女に首を突っ込まれても話がややこしくなるとしか思えなかったから。


「わたくしがしでかしたことだから、わたくしで責任を取ろうとしていただけ。あなたには」


「関係ない、とか言わないでよね。あたしたち、同じ師匠の弟子でしょ!」


びしりと指摘するアリーファ。あらなんだか寒い、とエイレンは顔をしかめた。


「では聞くけれど、つまらない仲間意識だの友情だのを強調した挙げ句に命の危険すらある事態に巻き込まれるのと、危ない目に遭わないよう大切に守られるのなら、どちらがお好みかしら」


心もち強調した言葉にアリーファがぴくりと反応する。


「大切に……私、大切にされているの?」


ああずっと言われていなかったからこういうのに飢えているのね、とエイレンは思う。ならばとびきりの甘台詞を囁いてみようかしら。


「そうよアリーファ。あなたはもちろん、わたくしの大切な子……妹も同じだと思っているのよ」


その実の性格は悪いと知っていても、至近距離で完璧な聖女様スマイルを向けられると判断力が鈍ってしまうのがアリーファだった。コクコクと頷くその表情は心なしかうっとりとしている。


「分かった。私が巻き込まれると心配かけるよね。私、(ここ)で待ってるね」


「ええそうしてちょうだい」


「うんそうする。じゃあ、もう行くね」


アリーファはベッドから降り、トタトタと自室へと続く廊下へ向かう途中で振り返った。


「お休みなさい、お姉さま」


「お休みなさい、可愛いアリーファ」


聖女の微笑み続行中のまま応じる。アリーファが誤魔化されたと気付くのは明日の朝頃だろうか。


「いいんですか?魔法がとけたらまた激怒しますよ彼女」


書き物から顔を上げないままリクウが言った。エイレンはベッドの縁に腰を下ろし、足をブラブラさせる。


「あら本当に大切にしているのよ?でなければとっくの昔に『仲間・友達』枠で籠絡しているわ」


『仲間 = 便利そうだからとりあえず味方につけておく者


友達 = 気軽に利用するための者』


これがエイレンの中での設定なのだ。


それはさておき。


「例の腕輪については、月並みに言えば良い話と悪い話があるのよ」


「では良い方から」


「今はわたくしの姉が持っているわ」


「とすると悪い方は、王宮にあっては気軽に手が出せない、ということですね」


「その通りよ師匠」


「しかしそれは困りましたね」


ペンを止め考え込むリクウに、エイレンは困る必要などないわ、と言った。


「だってどうしようもないもの」


「おや君にしては投げるの早くないですか」


「わたくしね、庶民の生活の中から学んだことがあるのよ……責任は必ずしも全うしなくても良い、という」


できないことは無理にしない、それでも人々はうまく生活している。


むしろ全責任を1人で負って物事をこなそうとしていた己の方がバカだったんじゃないだろうか、とエイレンは最近になってやっと気付いたのだ。


例の腕輪にしても、持っているのが神殿の姫(ファーレン)ならば、きっと神官か巫女かあるいは神官長()が解呪してくれるだろう。


「今こそ手の抜き時よ」


エイレンがキッパリと宣言した時、玄関の戸がトントンと叩かれる音がした。


「あら強盗かしら」


「凶悪な空気はないですが……なんでしょうね、こんな夜中に」


エイレンとリクウは顔を見合わせてコソコソと話し合う。


トントン、ドンドンドン。


戸を叩く音は少しずつ強くなっていった。

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