13.お嬢様は少しばかりの失敗をする(2)
無くし物を探すまじないは、描かれた円の中に棒を立てて行う。呪文を唱えると棒が動き、大体の方向と場所を教えてくれる。
おおざっぱだが2度3度と繰り返すことで精度があがってなんとなく見つかってしまうという、精霊魔術にありがちなワザなのだ。
が、そんなワザで実物を見たことのないアイテムを探そうというのが無理だったのだろうか。
棒は円の中をウロウロしたあげく、最終的に中央に戻り動かなくなってしまった。
「なんとか動いて下さいよ」
思わず声に出すと、棒はイヤイヤするように横揺れを繰り返し、また止まる。そこをなんとか……なりませんかね、やっぱり。
「なかなか不気味な光景ね」
「不気味ってことはないでしょう」
振り返るとそこには、エイレンのほっそりとした姿があった。透輝石の青白い光に照らされて、その肌はいっそう白く見える。
「笑える光景、よりは失礼にならないかと思うわ」
「……別に笑ってくれても構いませんが」
「そんなことより師匠、わたくし謝らなければならないことがあるのよ」
「呪詛付きアイテムをうっかり売ってしまったことですか」
さすがのエイレンも反省したということだろうか。しかし、そう気にしないで下さい、と続けようとした言葉は、サクッと遮られてしまった。
「うっかりなんて失礼ね。気付いていたに決まっているでしょう」
「じゃあ何で売ったんですかね、君は」
「まず第1に、寝具を買うお金が全然足りなかったから。第2に、割としっかり封印されていたから、まーいっか☆と。第3に、結構な安値で買い叩かれたものだから良心がちっとも痛まなくて……でも師匠には、申し訳ないことをしたわね」
他の装飾品を売ってもお金が足りないと分かった時に、出直そうか迷ったのだが―――アリーファは寝相が悪かった。
もうひと晩同じベッドで寝て、散々に枕やサンドバッグの代わりにされるのはゴメンだ。とその時は思ってしまったのだ。
「封印はしっかりしていたんですね」
「ええ。呪詛などおそらく並の神官や鑑定士では気付かない程度に……でも今あなたが探しているということは、やはり売ってはまずかったのよね」
買い主は郊外のマーケットに露店を出していたガラクタ商だった。鑑定士の資格は持っているはずだが、呪詛には気付かなかったのだ。
普通の良心があれば、呪詛付きアイテムを世に流通させようとは思わないだろうが、そのあたりがけっこう麻痺しているのがエイレンである。
「大して問題にならなくても回収した方が良いでしょうね。しかし見つからないとなると」
「師匠がお気にされるなら、わたくしが明日あたってみるわ。まだ買い主の手元にあるはず」
師匠に言った通り、翌日エイレンはマーケットまで出かけ、ガラクタ商の姿を探した。しかし、呪詛付きの腕輪の買い主はその日もその翌日、翌々日も姿を現さなかった。




