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12.お嬢様は新しい気持ちを覚える(3)

「あの……なんか、ごめんね?」


沈黙に耐えきれなくなったアリーファは、エイレンに話し掛けた。


初講義の後に簡単な昼食をとった後、師匠は仕事だと出掛けていった。アリーファはエイレンと2人、再び旧客間の掃除に取りかかっていたのだが……講義の途中から、エイレンの機嫌がそこはかとなく悪くなったような気がしていたのだ。


(やっぱり普通に考えたら、そうだよね)


10日ほどの差でしかなくても、後で弟子入りした子の方が良くできて師匠に褒められたりしたらムカッとくるだろう。


その時は自分にも精霊魔術ができたことが単純に嬉しくて、調子に乗ってイメージを説明したりしてしまったが、やっぱり「そんなーたまたまだよー」とか言って誤魔化すべきだったかもしれない。


(って「本当は嬉しいくせに謙遜してみせる人ってイヤらしいわよね」とか言われそう)


だって私だってイヤだもの。そんな態度に出られたら。


(でもでもでも、じゃあこれは何なのよーっ)


エイレンの全身からほのかに漂う、氷点下の不機嫌オーラが恐すぎる。放っておいてもおかなくても、後で平然とした顔をしながら小さな意地悪を連発されそうだ。


というワケで決死の思いで詫びてみたのだが、案の定というか何というか、返されたのは冷気をはらんだ眼差しだった。


「謝るということはあなた、このわたくしがあのような小さな成功にいちいち嫉妬していると思っているのかしら」


「ひいいっ、ごめんなさい!そんなめっそうもありません!」


「謝らなくてもいいのよ?」


優しい言葉を優しくかけられて、こんな恐怖を味わうことがあるだなんて。


「いえいえいえ!謝らせていただきます!もう今後は2度と先輩をないがしろにするようなマネはいたしませんから、どうぞお許しを!」


「では、許すわ。」


「はい、あの、私刑(リンチ)だけはやめてください……ってあれ?」


エイレンは金目の物をより分けて入れた袋を振ってみせる。


「用意はできたわ。これを売りに行って、帰りには新しいシーツや敷き藁を買いましょう」


「え……もういいの?」


「あらもっと苛めてほしいの?趣味が良くないわね……と言いたいところだけど、わたくしこそごめんなさい」


ふうっと息を吐いてエイレン。嘘まさかこの女が普通に謝ってくるってどういうこと。


「怯えきったあなたの反応が面白すぎて、つい歯止めがきかなくなるところだったわ」


わたくし小動物が震えているような態度に弱いみたい、とか言われても。


その人を人とも思わない態度でよくもまぁ今まで生きてこられたものだと思う。


「本当ひどい女。大嫌い!」


もう絶対零度の吹雪を浴びることになろうが構うもんか、と投げ付けた言葉は、心底嬉しそうな笑顔に軽々と受け止められてしまった。


「そういうこと言われるのって、楽しいわね」





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