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12.お嬢様は新しい気持ちを覚える(1)

確かエイレンは、こう言っていた―――ピュアな反応が楽しいが、相手が師匠だからつつくのはガマンしている、と。


しかし目の前にはアリーファにとって衝撃の光景が繰り広げられている。


風呂の後、炉の前でのんびり髪を乾かす全裸の娘と、そちらをチラ見すらせず書物など広げて熱心に読んでいる青年。


(いったいどこがガマンしてるのかしら?)


いやお互いごく平然としているからいいのかもしれないけれど。確か噂では神殿の風呂は混浴だったはずだし。


「ちょっとエイレン、こっちきて」


どうしても気になって声をかける。


エイレンが『一の巫女』と分かった直後は敬語を使ったりしてみたものだが「相手の身分で態度を変えるというのは気色悪い現象よね」とばっさり斬られてしまったので、今は完全にタメである。


エイレンはやっぱり一糸まとわぬ姿でヒョイヒョイ歩いてきた。


「どうしたの」


「そこで着替えはさすがにダメでしょ」


ヒソヒソと声を潜めるアリーファに、エイレンはきょとんとした目を向けた。


「だってしっかり乾かしてから服を着た方が気持ち良いでしょう」


「男の人がいるんだから、もう少し気を遣いなさいよ。そばで女の子にそんなかっこうされたら目のやり場に困るでしょ」


「そう?神官たちは普通に見ていたわよ」


どうやら神殿に関する噂は本当だったようだ……え、本当に?信じられないんだけど。


「イヤらしい目でジロジロとかじゃなく?」


「いえ?全然」


裸体は全然エロくない(むしろ探究心が刺激されるのは着衣の方)、というのが神官の共通の認識だ、とエイレンは説明した。


風習っておそろしい。


「とにかくね、庶民にはそんな風習無いんだから、ここではやめた方がいいって。師匠なんかほら平然としてるようでその実、読書スピードが落ちてるじゃない」


「あらあなたも気付いた?面白いわよね」


実に嬉しそうにエイレン。なにくわぬ顔で楽しんでいたらしい。


「別に気にせず見たら良いのに、あんなに緊張するなんて。しかも表面上、平静を装う点がなかなか萌えるわよね」


「ごめんそれ分かんない」


かわいそうとか全く思わないなんて人としてどうなの。


「あの仮面が、どこまでやったら崩れるのか試してみたくてウズウズしまうわ」


子どものような無邪気な笑顔でエイレンは言い切った。小さい頃から憧れていた『一の巫女(聖女様)』のイメージが、アリーファの中でガラガラと音を立てて崩壊する。


エイレンの師匠(リクウ)への思い入れは恋の表れかと思っていたのに……何て女だろう。


「ごめん私、あなたのラブ応援できない気がしてきた」


「あれってあの家から出たいための言い訳ではなかったの?」


「それもあるけど」


―――憧れの少女は実は恋愛不器用さん。でも親友の陰日向ない協力で一方ずつ♡ ――― 的なストーリーの『親友』になれそうな見通しに、すっかりはしゃいじゃったというか。


なんだかもう、ひたすらガッカリ、という気分だ。


「逆に良かったのではないかしら」


エイレンが優しい口調で励ましてくれた。


「年端もいかない小娘みたいな不毛な妄想恋愛脳から早々に脱却できたのだから。ね?」


「私……これからどうしよう」


そんなの決まっているでしょう、とエイレン。


「勉強と畑仕事と洗濯と掃除、たまに仕事よ」


精霊魔術師(まじないし)の弟子。その日常は果てしなく地味であるようだ。

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