10.お嬢様に妹弟子ができる(1)
アリーファはひと言で言うなら、可愛らしい少女だ。
エイレンをにらみつける緑茶の瞳はくりっと大きく、鼻筋は低いがそれなりに通っていて、大きめの口元に愛嬌がある。やや丸みのある顔を縁取る柔らかな髪は鳶色で、瞳の色とよく合っている。
(昔、こういう子になりたかったことがあったわ)
エイレンはふと、幼かった頃を思い出した。容姿も性格も可愛気がない、とよく陰口を叩かれていたっけ。
それにしても、少女の両親は何がそんなに心配なのだろう?泣くほどだから、よほど滅茶苦茶な生活しているのかと思ったら違った。
つまりあの涙は「私悪くないのに娘が急に変わっちゃって」というノリだったのだろうか。
(なんだか同情の余地がどんどん無くなっていくわね、あの両親)
どちらかというと少女の方に共感したくなるが、なるべく冷静に、とエイレンは己に言い聞かせつつ口を開く。
「アリーファはとても腹を立てているのね。どうしようもないほど」
「そうよッ……顔合わせたら殴りそうだから避けてあげているのに、あのバカ親どもときたら!」
よほど鬱屈が溜まっていたのか、アリーファは淀みなく憤懣をぶつけてきた。
かかった。後はこのまま話させてしまうだけ……とはいかなかった。
「で、あなたどこの誰」
「あら、それって重要なこと?」
「当たり前でしょうがっ」
「わたくしはエイレン。精霊魔術師の弟子になったばかりよ」
「エイレンって、神殿の一の巫女さんと同じね……そういえば顔も似てるわねあなた」
なかなか鋭い。髪と瞳の色を変えているからバレないと思っていたけれど、今後は偽名も必要かもしれない。
「あら偶然ね。一の巫女をご存じ?」
「当然でしょ。あなたこそ、この辺りに住んでて彼女を知らないっておかしくない?最近、弟子になったばかりってその前は何をしてたのよ?」
「わたくし、己の話をしにきたのではなくてよ」
「聞かせてちょうだい」
きっぱりとアリーファは言い切る。
「でないと、私のことなんて絶対に喋らないからねっ……まずはそのお貴族様な話し方よ!あなたどこで育ったの?」
まずはそこから言わないといけないのだろうか。なんだか適当に当たり障りなく話しても、どんどん突っ込まれて墓穴を掘りそうな気がする。
「あの、それ……適当に当たり障りなくかいつまんで話すのと、がっつり真実を話すのどちらがお好みかしら?」
「もちろん真実の方よ。私ウソつかれるのキライ」
「では話すけれど……人には言わないでね。うっかり噂にでもなったら、噂元を探り当ててサクッと始末してしまいそうな人がいるから」
エイレンの父はそういう人物である。
「大丈夫、私そんなこと話す友達いないから!」
アリーファが胸を張り、エイレンは小さく溜息をついて話し始めた。




