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16.お嬢様は覚醒する(3)

すみません、前半部、軽く変態描写入っております。

苦手な方は※※※以降からお読みください。


彼女の肢体の動き、息遣いから、同じ想いが伝わることの、陶酔。


身体を重ねれば重ねるほどに、彼女のほかには何も要らぬと、全てを壊してしまいたくなる。


彼女に包まれる度、このまま死んでしまいたくなる。


その衝動が、正気の範疇なのか、否か。

その欲望は、狂気なのか、断罪されねばならないのか。


考えることに意味がなくなってから、どれほどの時が経ったのかわからなくなっていた。


彼女の望みと自分の願いに応じ、誰も入らぬようにと蔦で封じた塔の中の部屋は、常に暗い。


しかしまだ、完全ではない。

もっと、永遠に、2度と彼女を失わぬように。


「いつ頃、終わりにしましょうか」


囁けば、答えは口づけで返される。

そして、また、果てしなく溺れる。



「きたわ」

エイレンがふと、顔をあげた。

封じられた扉を抉じ開け、こちらに警戒なく近づいてくる、複数の気配。


「どうでも良いでしょう」

甘えるように胸に顔を埋められ、熱い舌の感触に身を仰け反らせつつ、その心は急速に研ぎ清まされていく。


己に流れる神の血の強固さに、舌打ちをしたい気分だった。

たとえ霊鬼に憑かれようとも、最後の最後で 「どうすべきか」 の判断ができてしまうのだ。


「何なら、このまま死んでもいい」 男と共に陶酔していたいと、その髪に手を差し込みを乱す。

「一緒に死ぬことを許してくれる、と言ったでしょう?」


(ええ、確かに言ったわね)

そうできればどれほど良いことか、と悲しい気持ちで、声を漏らす。


(これが最後。これで、最後にするわ)


だから、まだ、こないで。


エイレンは彼女にしては慎ましい願いを、そっと、精霊魔術の文言に乗せて放った。



※※※※※



「やったぁ! さすが白さん!」


塔の扉を覆う蔦を、見事に食いちぎった狼に、アリーファの手放しの称賛が飛ぶ。


開いた扉に躊躇なく身を踊らせた狼に続き、一行は塔に入った。


「ハンスさんよ」 長い螺旋階段をたどりつつ、神様の力なくしぼんだ肩を、ぽん、と叩くキルケ。

「気を落とすな。人間、誰でも得手不得手はあるさ」


街1つを壊滅させることはできても、精霊魔術の力が暴走した塔には入れない。

そして、気軽に 「んじゃま、全員でサクッと移動しよっか」 と使った、空間を渡る技が不発に終わり、異常なまでに落ち込む。


それが、聖王国の神様(ハンスさん)なのである。


「いや、まぁ、それはいいんだが」 どーせ元々が禍神だし、とやはり自虐が止まらない。

「なんだか……アリーファのお父さんの気持ちが急に分かった気分なんだが……」


すなわち、これまで目を掛けてきた娘に男ができて、急に拒絶されるようになった父親。


そんな気分なのである。


「急に……って。あんた、その年なら、娘の1人や2人や3人や4人」


「ああ……その頃は……」 遠い目をして答えるハンスさん。

「気持ちは奥さん一筋だったし、身体はイロイロと忙しかったし」


「主に浮気だろう」 ファーレンを抱えて階段を登っていた国王(ディード)が、前を向いたままでツッコミを入れ、「あなた」 と妻にたしなめられて首を軽くすくめた。


「アリーファさんの前で」


「い、いえ、別に大丈夫です」 若干息を切らしているアリーファを、ハンスさんがひょい、と抱えあげ……

「この浮気者っ!」 強烈に頭をはたかれた。


「い、痛い! 主に心がっ……!」


「もっと痛め、そして反省しろ!」


「はいはいー、痴話喧嘩はあとでしましょうね、お客さん方」

どこか楽しげにとりなす、キルケ。


そんな、土壇場でもやはりのんびりとした一行に緊張が走ったのは、先頭の狼が急に威嚇の姿勢をとり、唸り声を上げたからである。


「あれ? エイレン?」


塔の最上階の部屋。

更に固く閉ざされた扉の前で待ち受けていたのは、彼らが会おうとしていた、その人だった。


「あれ……でも、なんか、すけてるし……」 アリーファの戸惑った声が続く。

「それ……(はね)? 霊鬼っ!?」


ソレはすうっと頭を下げた。

常のエイレンのように、優雅な仕草。


『ごきげんよう、懐かしいお知り合いの方々』


頭に直接、響く言葉に皆が一様に顔をしかめる。


「うううっ……」


狼がうなり声をあげて跳びかかり、何にも触れられずに着地した。


『わたくしは霊鬼であり、あなたがたがエイレンと呼ばれる方の一部でもある存在』 意に介さぬ様子で台詞が続けられる。

『わが主よりの伝言です……全て片付ける故、しばしお待ちを。そしてこれは』


ソレがすっと、手を上げた。

しなやかな指先から、無数の蝶が放たれる。

暗闇の中で虹色に光る翅がいっせいに、人々の周りを飛び交い、幻惑する。


『お待ちいただく間の、ほんの余興……触れた蝶が見せるもの、良きも悪しきもございましょうが、いずれにしろ、ただの夢に過ぎませぬ……』


がくっ、と国王(ディード)が膝を折ったのを皮ぎりに、ファーレン、アリーファ、キルケ……次々と、眠りに落ちていく。

アリーファを抱えたまま、とっさにファーレンをかばうハンスさん。


「何をする!?」 


『あら、神はやはり眠れませんのね……お気の毒に』


クスクスと笑うソレに、嫌悪そのままに吐き捨てる。


「お前はエイレンじゃない!」


『いいえ』 それはふわりと神様の前に立ち、両手を伸ばすと、その頬を挟んだ。

ぞくりとするような感触に、ハンスさんは思わずアリーファを抱き締める。


『これも間違いなく、わたくしですわ。今までこの国の誰も……認めようとしなかっただけ』


淡々とした言葉の裏に隠される悲痛な響き。


「……辛かったのか?」


『いいえ。認めてほしいなどと、思ったことはございません。辛いと感じたことも。わたくしはただ、存在するだけ』


「では、なぜ泣く」


『これまで、流さなかった分の涙であるだけ』


ハンスさんの喉から、絞り出すような声が漏れる。

「俺はいつでもお前を守ろうとしたぞ、エイレン。お前が泣くことのないように。誰かを憎むことのないように。傷つくことのないように」


『その言葉をきいてわたくしが、どう考えるか……あなたは知る由もないでしょう』


穏やかに、優しく彼女は言い、神様から手を放す。


「……教えてくれ。隠されて、いたくない」


ふっ、と彼女は微笑み、再び、手をすっと上げた。

その手から放たれたのは、神魔法とも精霊魔術とも判別しがたい、眩い光。


『殺 し て あ げ る』


ハンスさんの頭に向けて真っ直ぐに力を打ち付けながら、ソレは軽やかなまでの残酷さで言い放った。

読んでいただきありがとうございます。


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