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16.お嬢様は覚醒する(2)

なぜだか王都の中心部がよくわからないモノたちに襲われているという状況下で、神様(ハンスさん)とアリーファから一通りの説明を受けたキルケ。

彼の第一感想は、こうであった。


「私としては、結界とやらがどうこう、よりまずはアレをどうにかしてほしいんだがなぁっ!?」


ほれ神様なんだろ頼むよ、と倒壊しかけている神殿の建物を指せば、なんとも言えない空気がその場に流れる。


「あー……無理」 ボリボリと頭をかきつつニベもなくいうハンスさん。


「全部潰す、とかだったらできるけどな」


「潰したら私の寝る場所が有料になるだろ!」


「大丈夫、ハンスさんそんなことしないもんね?」 間に入って取りなすアリーファ。


「そんな面倒な上に何の利益にもならないこと!」


「そうそう、それそれ! さすが、よく分かってる!」 調子良くアリーファに合わせ、はぁぁ、とタメイキをつくハンスさん。


「……どうしようかな」


「……私に相談するなよ」


「だから、できることからしようよ! 早く結婚しちゃおうよ!」


とまた、振り出しに戻ったところで。


「わたくしが、行ってみましょう」


涼やかな声がした。

エイレンの声によくにているが、それより少し丸みがあり、優しい印象である。


3人が振り返れば、そこにはいかにも高貴そうなの女性。

聖王国ではよほどの金持しか着ない絹に身を包み、侍女を従えている。


「ファーレンか」

ハンスさんが呼び掛けた。


「はい」 慎ましやかに目を伏せるファーレン。

産み月が近づいているのだろう、膨らみきった腹をかばいつつ、わずかに膝を曲げる。

「このようななりでございますので、このままのご挨拶失礼申し上げます。神よ、お久しゅうございます」


「ああ……まぁ、お前だけのせいではない。俺の方も事情が変わったからな」


「よろしゅうございましたわね」 気まずげな神様に、穏やかにファーレンは応じる。


「けれど、こちらはなんとかしなければ……ね?」


「それはそうだが」 渋面を作るハンスさん。

「どうやって何とかする気だ?」


「…………」 ファーレンは黒い蔦で覆われた塔を見上げた。

「あの子を説得してみます」


「それは……」


「できますわ」 無理だ、といいかけるハンスさんに、穏やかな口調で言い切る。

「わたくし、あの子がどのような状態だか存じませんけれど……でも、信頼しておりますの」


「私もそう思う!」

思わず同意するアリーファに、エイレンとよく似た面差しが微笑みかけた。


「あなた、あの子のお友達?」


「親友です!」


「そう。あの子はあんなだけど、」


「「本当は優しいところもある」のよ」 同時に言って、どちらからともなくクスクスと笑う。


「ありがとう……で、あなたは……?」 ファーレンの目が今度はキルケに注がれた。


「あー……関係者その3、てところですかね……?」


「もしかして、吟遊詩人さん? この度の工場建設ではお世話になっておりますわ」


「意外とよくご存知で」


「当然でしょう?」 ファーレンはまた微笑み、今度は狼の背をそっと撫でた。


「里神様、一緒に行ってくださる?」

狼は応じるように、ファーレンに身体をこすりつけると、ゆっくりと歩きだした。ついてこい、ということなのだろう。


ファーレンが続こうとするのを、侍女が 「すぐに輿をお持ちしますのでお待ち下さい」 と止める。


「いいのよ。どのみち塔の中では輿は使えませんもの」


「では、私があなたを抱えていこう」

張りのある男の声に、ファーレンの顔が美しく輝く。


「ディード」


「「国王様!」」 

慌てて畏まるのはアリーファ。キルケは一般的な礼をとる。


国王はファーレンと軽く抱擁を交わし、その頬にキスをした。


「探したぞ。無事で何よりだ」


「執務中ではございませんでしたの?」


「この状況でか?」

おかしそうに問い返しつつ、抱え上げてこようとする国王の手からするりと逃れ、ファーレンは膨らんだ腹を優しくさすった。


「大丈夫です。歩いて参れますわ。里神もついていてくれますから、王宮の皆様に指示をして差し上げて」


「私の指示がなくとも、それなりには機能する。むしろ心配なのはあなただ、ファーレン」


ナチュラルに頬と頬を寄せあっての会話。

かわったな、とハンスさんがぽつりと呟く。


「でしたら……」 ファーレンは優雅に国王に手を伸べた。

「一緒に来てくださいな。そして、わたくしが疲れたら、抱えて連れていって下さる?」


ああ、と国王(ディード)はうなずくと、ファーレンと腕を組み、先導する狼について歩きだした。


後ろを侍女が追う。その後ろを、アリーファとハンスさん。

最後尾につき、なんとものどかな集団だ、と感心するキルケ。


アリーファも同様のことを感じたらしい。

「なんか……帝国でのガーデンパーティー思い出しちゃった」


「あら楽しそう」

振り返って、笑顔を向けるファーレン。


「こんな時なのにね?」


「あら、だって……」 ファーレンは全く緊張感のない、柔らかな口調でアリーファに応じる。

「わたくしは妹に会いに行くだけ、ですもの」


「……ああ、そうだったな!」

ハンスさんがぽん、と両手を打った。


「そうだよね!」 アリーファがハンスさんの腕にぶらさがる。

「また、今度はこの国でガーデンパーティーしようよ! 皆で」


「パーティーは……どうかな」 渋面で口を挟むのは、ディードだ。

「復興のために臨時予算を組まねばならんだろう」


「あら、ディード」 ファーレンは明るく笑い声を立てた。

「千年の昔、神と女王がこの地に来たときには、何もなかったのよ?」


塔は、すぐそこである。

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