6.お嬢様は姉上様と再会する(2)
「さすがねリクウ様。あなたって本当に腕利き…もううっとりしてしまうわ」
エイレンから送られた賛辞が、全くもって嬉しいと思えない程度には怖かった。徒歩1時間程度の近距離から神魔法をぶっ放すなど、普通に考えたら破壊行為以外の何物でもない。
精霊魔術なら微調整効くでしょヨロシク、とエイレンは気軽に丸投げしてくれるが、精霊魔術はもちろん万能ではない。大抵のことはできてもその効果は微妙…つまりは器用貧乏である。
神魔法の威力を精霊魔術で受け止められるワケがない、となぜ考えないのだろうか。
現にどうにか王宮の屋上には乗ったものの、音と震動だけはどうしようも無かった。
驚いて飛び出す衛兵や女官たちの姿を見ながらリクウはぼやいた。
「普通の家なら絶対に穴あけてましたよ。もう2度としませんからね」
「あら。せっかく、持ち腐れていた才能と技術を活用して差し上げているのに」
「いりません」
細々と依頼をこなし、人々の暮らしを手助けする。精霊魔術師は古来そうして生きてきた。無くても困らない、と言われ絶滅寸前になっているからといって、派手なことをするのは性に合わないのだ。
「…まぁその話は今後じっくり詰めるとして、まずはさっさと行きましょうか」
エイレンは立ち上がり、染めないままの簡素なワンピースの裾をはたこうとして止まった。いったんつなげた腕の骨が、先程の衝撃で折れたのかもしれない。
「もう1度つなぎましょう」
「要らないわ…これで説得力も増すというものよ」
エイレンがこれからしようとしているのは、己の代わりに側室になった姉への根回しである。
貧民に危害を加えた、という理由で市民を罰するのは異例のこと。実現するには使える手は全て使わねばならないだろう…たとえそれが、全く頼りにならないフワフワ女であったとしてもだ。
「さて…あなたやっぱり優秀だわ」
エイレンは周囲を確認し、にんまりとした。巨大な王宮本殿の西端―この下がちょうど、代々側室が住まう部屋である。
「姉はこの下ね」
言うなり歩き出したエイレンを追いつつ、リクウは存在感を消すまじないを口の中で唱えた。
本当にもう、これきりにしてほしいものだと考えながら。




