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13.お嬢様は皇帝陛下と再会する(3)

使者団の報告会はひとまず滞りなく終わった。使者団はここでいったんその任を解かれ、聖王国から提示された新たな条件は今後は国政会議にかけられる予定である。そこで改めて取引内容が確認・決定されれば、やっと具体的な支援へと話が移っていくこととなるのだ。


ある程度の成果を聖王国に持ち帰るため、エイレンはしばらく帝国に滞在することになっている。その間はレグルスが「ぜひ我が家をお使いください」と再度申し出たのだったが、皇帝陛下に「ふざけるな」と一蹴された。


たかだか一使者をロイヤルフロアに寝泊まりさせる方がふざけているのではないか、とは陛下に近しい者皆が思う事であったが、そこは権力のなせるワザである。エイレンは前回と同じく皇帝の友人として元皇后陛下の部屋を利用することにすんなり決まったのであった。


そして。


「うっふふ。今からレグルス様とデートでしょぉお?しっかりおめかししましょうね!」


まさしく手ぐすね引いて待ち構えていた、といった風情のダナエ。


「念のため確認するけれど、あなたはそれで良いのかしら」


「もちろんですわ!」


にんまりとする表情が懐かしい。以前は皇帝陛下の寝所に呼ばれる度に「次こそはきっちり狙いましょうね!」とエイレンの身支度をしながらこういう顔をしていたのだ。


「もうすぐフラーミニウス家の長男さんと婚約をする予定のダナエさんとは、間違いなくあなたのことよね?」


「ええその通りです!」


堂々と胸を張りつつ、半ば無理やりエイレンの軍服を剥ぎ取りにかかるダナエ。このままでいいわよ、と言えば「何おっしゃってるんですか!そんなことでは狙えませんよ!」とこれまた懐かしい調子で食ってかかられた。


「あなたのお相手を狙ってどうするのよ」


「まだ婚約してませんからね!チャンスはありますわよ姫様。んふふー」


ダナエは楽しそうに含み笑いをしつつ、ワンピースをエイレンに合わせている。


「姫様は背が高いので、短いワンピースだと膝が出てしまいますね。仕方ありません、やはりロングで優雅さを強調しましょう!」


あまりにも以前と変わらなさすぎて目眩がする、と思うエイレン。いやこれが己なら分かる。


もともとが義務で国王の側室になる身だった。夫となる男が何をしようと一般の令嬢方のように、愛だ浮気だ裏切りだなどと騒ぐ気には到底なれない。しかしダナエと己が同じとはとても思えないのだが。


「広幅の帯を締めれば、腰のラインが強調できて……んー、でも昼間にこれはやりすぎかしら?」


エイレンの戸惑いを完全無視して悩むダナエ。着る本人に意見を求めないのは、そんなことをしてもロクな返答がないのをしっかり理解しているからである。


「腰を締めると暑いから要らないわ」


とか。そこはガマンして下さらないと狙えませんわよ、とのコメントについにエイレンは尋ねた。


「わたくしがレグルスさんを籠絡しても平気、と聞こえるのだけれど」


「はーいーどうぞどうぞ!むしろ大歓迎ですわ!」


姫様がフラーミニウス家に嫁がれたら、ぜひわたくしを雇って下さいね!とダナエはやはり一般とは違った方向に自己アピールしてくる。これは……と30秒ほど考え込むエイレン。陳腐なことはしたくないが、()かねば仕方ないだろう。


「つまりは、レグルス様のことは憎からず思っているけれども趣味が優先、という理解で良いのかしら?」


「さすが姫様!」


胸元と袖に紗をあしらった淡いグレーのロングワンピースをエイレンに着せつつ、嬉しそうに力いっぱい頷く。


「他の方のように、頭にウジ湧いてるのでは?と思わずにいられないことをおっしゃらないところが素敵です!」


もうねー『本当に愛しているの?』とか『お家が釣り合わなくて辛い思いをされないか心配』とかマジで余計なお世話、と何度トイレでシャウトしたことか。と、しみじみと愚痴るダナエである。


「大体、わたくしがレグルス様と婚約しちゃったら、ダービーでレグルス様に賭けたほかの方々に申し訳なくて。わたくしも賭けてるのに自分のことだから賭け金返せ、とか言えないんですよねぇ」


「ダービー?」


「いえ、ちょっとした侍女たちの遊びですわ!おほほほほー」


エイレンの腰に銀糸のリボンを緩めに巻きつつ、ダナエはうっとりとした顔をする。


「もともと身体のラインが出やすい練絹ですから、リボンはゆったりで大丈夫ですね。この『ちょっとほどいてみたいかも』と思わせる感じが……狙えそうだわっ」


次座って下さいねー、と言われて倚子に腰を降ろせば、手際よく髪を解いて編み始めた。


「前髪から頭の周りをぐるっと回す編み込みが流行ってるんですよね」


襟足はすっきりさせて、ちょっと緩めてこなれ感を出して……とダナエは心底楽しそうにエイレンの髪をいじっている。


「姫様は素材が良くて主張がないので、最高に磨き甲斐がありますわー」


仕上げに青く染めたドライフラワーの髪飾りを挿すと満足げに頷く。


「できましたよぉ!」と呼ばわると、部屋の外で待っていた男たちが入ってきた。噂のレグルスの他に、ルーカス、キルケ、なぜか皇帝陛下までいる。


「おおっ見事に本性隠したな」


清楚可憐な装いをキルケが軽く褒め、「いつもこんな風にしていればいいのにな」と皇帝陛下が呟き、ルーカスは一瞬瞠目した後、黙って目を逸らす。


「似合ってますよ」レグルスは爽やかな笑みを顔面に貼り付けてエイレンに近付くと、ダナエの方を向いた。爽やかさはそのままに、その瞳が少しばかり蕩けている。


「君は本当に天才だな」


「んふーそうでしょう?じゃあ、しっかり自慢してきて下さいね!」


「そうさせてもらうよ」


2人のやりとりはそれだけだった。


しかし、その仲を心配することは全く無かったのだ、と思わせるのには、それでじゅうぶんだった。


ほうこのハイスペ様が、とキルケが内心密かに思い、皇帝陛下が「良いものを見せてもらったな」と少々ニヤつくのを涼やかに無視して、レグルスはエイレンに肘を差し出す。


「では行きましょうか」


「ええ」


エイレンもまたにこやかに頷いて、レグルスの肘に手を掛けたのだった。

読んでいただきありがとうございます(^^)


いささかそのメンタルが分かりにくいレグルス×ダナエさんカップルでした。もう少々の裏話は後ほど活動報告でする予定です。活動報告は基本、制作日記になっているので分かりにくいですが、気になる方は覗いて見て下さいませm(_ _)m

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