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5.お嬢様は父上様と再会する(3)

神官長の部屋の燭台は、立派な銀製の年代物だ。が、5本の蝋燭が立てられるはずのそれに灯されていた明かりは1本だけだった。


そして神殿の廊下は、といえばこの時刻は一切、何も灯されないらしい。聞きしに勝る節約ぶりである。


そんな暗闇も、元神殿の巫女には苦にならないようだ。精霊魔術師も暗闇には強い方だが、スタスタと歩くエイレンには敵わず少し遅れてついて行くような形になっていた。


「君は大した詐欺師ですね」


結界を張っておいたために、歩きながらの声でも周囲に響かない。


川原に暮らす娼婦は貧民とみなされ、税を免除される代わりに法の保護対象外だ。それを傷付けた市民にどうやって刑を与えられるのかと思っていたら、厳格そうな神官長をあっさり納得させてしまった。


いかにも本気で大きな要求(おとり)をぶちまけておいて、小さな要求(本命)をさり気なく出す、という手口で。


「あらあんなの初歩でしょ。それにあれは、父がわざと引っ掛かってくれたのよ」


エイレンがくすりと笑う。


「わざと?」


「そうそう。ああ見えて実は子煩悩なのよあの人」


そうでなければ死んだことにした娘が目の前に現れた瞬間に本気で消そうとしてるわよ、とさらりと言ってのけるのが少し怖い。


「もしかして、こちらの目的も分かっておられるのでしょうか」


「おおかた、多分ね」


貧民相手でも暴力をふるえば刑罰を受けるのだ、という前提を作り、それを周知させる。おそらくエイレンは、その一石がやがては流れを変えることを目論んでいるのだろう。


そしてもしかしたら神官長も。


きっとこの父娘はおそろしく気が合っていたのだろう、とリクウは思い、ふとあることに気付いた。


「そういえば痛みはどうですか?」


「そうね、動いても喋っても痛いけど何か?」


一応は応急処置済みとはいえ、肋骨と腕が折れているのだ。平然とした顔で言うことじゃない。


「もう戻りましょう。これ以上動いては身体に負担がかかりすぎますよ」


「何言っているのかしら、ここまで来て」


エイレンは心外だとばかりに細い眉を上げてみせた。神殿からやっと外に出たばかりだ。


「王宮はすぐ近くよ。一気に行ってしまった方が効率的でしょ」


「歩いて1時間かかりますが」


「ではまた神魔法で跳びましょう…大丈夫よ、リクウ様ならきっとセーブできるわ」


失敗したら徒歩4~5時間分の距離はいくでしょうしついでにかなり怪我もすると思うけど頑張ってね、と雑に励ましエイレンは神魔法の詠唱を始めた。


こうなった彼女を止めるなんてあの怖そうな父親でも無理だろう。


リクウはため息を1つつき、エイレンの呪文に合わせてまじないの文言を口の中で呟く。


やがて青白い光が天を貫き、2人の姿を掻き消した。

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