7.お嬢様は鉱床を案内する(1)
いつもお読みいただいてありがとうございます。
(2)部分前半に評判のあまり良くないw変態描写が出てきます。本筋とはあまり関係ないので苦手な方は飛ばして下さい。そしてOKの方はまた筆者の病気が出たなーなどと生温かく見守ってやって下さると助かりますm(_ _)m
病気が出たといえば、少し前から、そっち方面の趣味専門で進めて行く予定の連載をあげています。よろしければ1度覗いてやってくださいませ
【異世界転生した私は、ペンで極悪最凶の変態を目指します!】(https://ncode.syosetu.com/n3572fk/)
夜半近くにやっと昇ってきた月が、やや遠方に国境の火山の細い煙をほの白く浮かび上がらせる。しかしその光も地面までは届かず、固まりひび割れた黄褐色の土は夜に黒く沈んでいる。その乾いた大地の上を、2つの人影がゆったりと移動していた。
「採掘は坑道を掘るのではなく階段方式が良いと思うの。技師とも相談してみなければならないところだけど」
歩くともなく歩きながらエイレンが説明し神様が頷く。
「それなら天井が落ちる心配は無いな。しかし大結界の綻びが思ったより早くてなぁ。この辺りにも人が住むとなると放っておくわけにもいかんな」
「早過ぎない?姉上といつからしてないの?」
「うーん……かれこれ……半年近く?」
ハンスさんが遠い目をして数え、エイレンは息を呑んだ。
「神殿から側室に出している意味が9割減ではないの」
神殿から側室を出す主な目的は、神の力を国王に媒介し、国王を核として張られている結界を強化するためである。神殿からの側室は、国を守るために必要だというのがこれまでの認識だったのだ。それをファーレンは最初からすっぽかしていたらしい。
ハンスさんが頭をポリポリと掻いた。
「だってなぁ、国王様を裏切るようでイヤだと言われれば無理強いするわけにも。この制度ができた頃は、人の認識ってまだその辺ユルユルだったんだけどなぁ」
「あなたがそれで良いのなら構わないけれど、甘過ぎるわね」
ズバリと言われて神様は真剣な目をした。
「俺は神殿の巫女だからといって国のために犠牲になって良いとは思っていないぞ。大事な子孫にかわりないんだ」
「ご立派な理想ですこと」
冷めた目をするエイレン。現実には既に支障を来している以上、理想ばかりを唱えている場合ではない。
「こうなればそうね、あなたが国王を直接襲うしか」
「それは絶対イヤだ!」
オトコは趣味じゃないんだと身震いする神様をエイレンは無表情に励ました。
「大丈夫よ、乙女の夢に忍び込むだけで孕ませられるあなたなら。国王に悪夢だと思わせつつ実際に犯すことくらいワケないわきっと。それともあなたが絶世の美女に化けて逆に犯されるとか」
「……もうやめてくれ」
がっくりとうなだれつつ、結界はなんとかするから、と宣うハンスさん。
「で、用事は?それじゃないだろ?」
話を振ると、ええ、と表情の見えない瞳のままエイレンは頷いた。
「あなたの未練タラタラなお気持ちをアリーファから聞いたわ。ちょうどいい機会だから、女王様本人を叩き起こして話し合えばいかがかしら」
ハンスさんの目が驚きに見開かれる。
「……それはしてはいけないことだ」
ややあって、絞り出すような声。
「もしあのひと自身が望んでいるなら、もっと早くに目覚めていたはずだ。だがどんな生を送っていても、1度も思い出しなどしなかった。今もだ」
「それが何?」
「だから、あのひとが望まないのにうぐっ」
ハンスさんの腹にエイレンの拳がキレイに入る。今日はよく殴られる日だなぁ、とぼやく涙目を蜜色の瞳が覗き込んだ。
「千年も前に死んだ女が何を望むというの。大体がそんな未練がましい性格の人だったかしら」
黙って首を振るハンスさんに、そうでしょ、と微笑んでみせるエイレン。
「このわたくしが許可しているのだから有難く受けなさいな」
「いいのか」
「四の五の仰るならもう1発殴るわよ?」
殴る、という言葉とは裏腹に、巫女の細い手は優しく神様の頬に添えられる。
「昔、あなたを実の兄だと信じていた頃にいつも思っていたわ。わたくしがいるのに、なぜこの人はこんなに寂しそうなんだろう、と」
「あの頃は、俺が1番お前を傷付けていたな。この世の誰よりも大切だと思っていたのに」
足りないものを求めるあまり、傍にいる者の心に気付けなかった。それなのにまだ彼女は、仕方のないことよ、許そうとする。
「人は大丈夫なのよ。傷付いても受け容れ理解して変わることができるから。それに、どのような痛みも悲しみも千年も経てば忘れるわ」
「そうなのか」
「そうよ」
両手で神様の頬を挟み、コツンと額を当てた。
「だからあなたもそろそろ、怖がってないでキッパリとフラれておしまいなさいな」
夏でも体温を感じない、冷たい吐息がエイレンの顔を掠める。
「すまんな」
「いいえ。何を今さら」
それ仰るならわたくしがこの世に生まれた時からよ、と言うと彼に似付かわしくない微苦笑が返される。そして神様は、妻の魂を宿した女の唇にゆっくりと口づけた。
意識を失ったエイレンの身体を受け止め、そっと抱きしめハンスさんは「ありがとう」と呟く。かつての記憶は失っていても、立場を変えても、彼女はずっと彼の巫女でいてくれた。
己が彼女の傍にいたのではない。彼女が傍に居てくれていたのだ。己が彼女を見守っていたのではない。彼女が見守ってくれていたのだ。
しかしそろそろ解放してやらなければならない。彼女には彼女の人生があるのだから。
意識を失った身体をそっと地面に横たえると、儀式は始まった。




