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5.お嬢様は父上様と再会する(1)

その晩、神官長ガルミエレ・ド・イガシームは強力な神魔法が発動されたのを感じ取った。


これは彼の次女、エイレンが逃げ出した晩に発動されたものと似ている気がする…が、暴発したそれとは違い、今回は軌道がはっきりしており、かつ、すぐ消えてしまった。


(気のせいか?だが…)


足を組み換えた途端に膝掛けが落ち、神官長はやや渋面でそれを拾う。


神殿の奥まった自室は、石造りの床や壁がラグやタペストリーで覆われているほかは、最低限の家具が置いてあるきりで、この季節では夜ともなるとまだ薄寒い。


神殿には床暖房設備があるものの、神官たちが付き切りで火の管理をせねばならぬため、春の大祭を機に使用を終えるのが慣例なのだ。


(あれほどの力を使えるとしたら、エイレンしかおるまい…しかし何故、今になって)


春の大祭が終わって20日余りも鳴りを潜めていたというのに、神殿がもはや公には彼女を追っていないことを察知したのだろうか。


有り得ることだが、街中で不用意に神魔法を使ったりなどしないはずだ、彼の知っている次女(エイレン)ならば。


神魔法はいわば大鉈(おおなた)。威力は凄いが小回りが効かない。戦闘時においてさえ、指令なしに防御技以外を使うことは禁じられている。日常では尚更だ。豊作祈願や天候祈願といったものにしか使われることはない。


しかし現実にエイレンは明日は王宮に嫁ぐという晩に、乱暴ともいえる神魔法の使い方をして逃げた。そして気のせいでなければ、先程が2度目だ。


(やはり狂ったのだろうか)


彼の5人の子供たちのうち、エイレンは気質が最も彼に似ていたはずだった。


強力な神魔法士の血筋には当然のごとくプライドが高い者が多いが、その矜持が己に向かう者は少ない。しかし彼女は己が『理想的』ではないことを決して許さず、努力を重ねることができたのだ。


加えて稀有なことに、彼女はその天井知らずのプライドを状況判断でいとも簡単に引っ込めてみせることができた。エイレンを良く知る者ならば口を揃えてこういうだろう。


彼女は(へりくだ)る時ほど恐ろしい、と。知らぬ間に相手を足元から絡め取り服従させるのだ。


しかしその性質こそ、父親である自分譲りなのだと彼は思う。常に利を計算し、感情よりも理性を優先させながらもそれを隠せる者のみが神殿でトップに立てるのだから。


その素質を見込み、密かに目を掛けてきた娘の急な裏切りは彼にとって認められぬことだった。だが狂った、ということならまだ納得できるかもしれない。


(あの娘こそが側室として実権を握るに相応しかったのだ…なのにそれを放棄するとは)


今、彼の次女(エイレン)はどこで何をしているのだろう。神魔法を使わねばならない事態に陥ったとすれば、かなり危険な目にあっているのではないだろうか。気配が急に消えたのも気になるところだ。


(…?!)


急に空気の流れが変わったのに気付き、彼は顔を上げて背後を見る。


戸口から広がる暗がりの中に、かつての愛娘の姿が浮かんでいた。


「珍しく難しいお顔をなさっているのね、父上」


エイレンは音もなく部屋に入り、かつてと変わらぬ親しみと尊敬を込めた挨拶をしたのだった。


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