3 こくはく
Chapter7(編集中)
バース性を消したくて抑制剤を大量に飲んだとこまでは覚えている。
後先考えなかったなぁと思いながらゆっくりと意識を浮上させていく。
目が開いた。
……知らない天井だ。
ここは、病院?
視線を彷徨わせても誰も居ない。
よくある安っぽいホームドラマなら家族が集まって泣くようなシーンなのに。
やっぱり嫌われてるみたいだ。
上手く動かない手でナースコールを押す。
やってきた看護師さんからケータイを受け取り、mutterにコメントする。
もちろん、バース性は公表しない。
浮上できなかった理由を簡単に書く。
早速ジンさんから返事が来た。
抑制剤の大量摂取で神経がおかしくなってるのか手が震えて打つのに時間がかかってしまった。
もっと話がしたいなんて彼らしい返事だ。
思わず笑みが溢れる。
ふと、彼の存在が自分の中で思いの外大きくなっていることに気づく。
思えば、最近、ジンさんと他の人が話してると嫉妬を覚えることが多かった。
特に昔からの親友という優弥さんと話してるときはとても楽しそうで顔ですら笑みを浮かべてられるか不安なほどだ。
何気なくカメラロールを見返すと彼の自撮りが目に入る。
ファンクラブで「顔写真公開しよう!」とかいう謎の深夜テンションでやったことだ。
僕の顔もバレてる。
彼の顔、どこかで見たことがある気が……。
刹那、脳裏にいつかの冬に出会った少年たちが蘇る。
道に迷ってた兄弟らしき二人。
道案内をする僕。
柔らかくて包み込まれるような大好きな匂い。
初めてなのにどこか昔から、それこそ生まれる前から求めてみたいな。
そんな香りをさせるあなた、「陸人」と呼ばれた彼はこちらを向いて微笑んだ。
「ありがとうございます」
ちょっと硬そうな黒髪と暖かみのある不思議な感じの黒い瞳。
少し下がった目尻がなんとも言えない優しげな雰囲気を醸し出している。
黒のコートから覗く燻んだ瑠璃色のニット。
「似ていない弟さんですね」
他愛ない会話を投げかける。
彼は困ったような顔をして言葉を濁した。
その声とたまに自分を甘やかしてくれるジンさんの声が驚くほど似ていることに気づく。
ピタリとピースが噛み合う音がした。
そっか、ジンさん。
あなたは、僕の運命だ。
僕はずっとあの雪の日からあなたのことを探してました。
今だけは大嫌いな神さまにも感謝したい。
数ヶ月後、随分前に退院した僕はファンクラブのみんなと会うために都内のレストランに訪れた。
企画したのは僕の姉的な存在である「ロッカ」さんだ。
「やっほー! みんな揃った?」
明るく陽気な声。
βかな。
「揃っ……ジンさんとスーさんは?」
誰かが言い終わらないうちにドタドタという音と共に二人が入ってきた。
ふわっと香る確かなフェロモン。
ずっと会いたかった。
待ち焦がれてた……身体が異常に熱い。
それが発情期の合図だと気づくのにそう時間は要らなかった。
視線が僕に集まる。
発情期まだ先なのに。
なんで?
意識が混濁していく。
「うぅ……」
呻きながら身体を起こす。
「ゆずくん! 大丈夫だった?」
ロッカさんが飛びついてくる。
女性らしい身体に抱きつかれて知らず頰が熱くなった。
目線を彷徨わせてジンさんを見つける。
一瞬目が合ったのに逸らされる。
なんとなく首に触れると出来立ての傷。
位置的に番痕。
「ゆずさん、ごめんなさい。 どうしてもあなたが他の人のモノになってほしくなくてつい」
泣きそうな声でジンさんが謝る。
あなたがたとえαでも告白しようと思ってたと言われた。
一拍の間。
「……夜空さんのことが好きでした。 私と付き合ってください」
お互い顔が赤い。
まさか公開告白されるとは思わなかった。
答えはもちろん。
「喜んで」
彼の顔が小さい子どもみたいに輝く。
僕を抱きしめる腕には力強さが宿っていた。
ネタが切れました()
しばらくは次が思いつくまで過去編をメインにした短編をあげます