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バースたちの恋愛日記  作者: 三月 璃夢
第二章 あなたと出会う前の話
23/25

宵の明星

更新遅れまして申し訳ありません

陸人過去編です

父は、母は、私を、私たちをアイしてくれてたのだろうか。


梅雨時の僅かな晴れ間、そんな微妙な時期に男の双子生まれた。

兄は漆を塗りたくったような黒の眼と髪を持ち、弟はやや茶けた色。

三歳の検診のとき父からもらった拳は今も、怖い。


「なんで、こいつは『α』なんだ。どうして、『β』以外生まれないはずだろ」


指差して蔑む視線を私と母に送る、父、周りのみんな。

『α』の意味も、法則性も知らない私には理解できなかった。


「浮気したのか? この裏切り者め」


夜空に、後の番に「多胎児にはバース性が生まれやすい、研究で証明されてる」と聞かされるまでずっと私の心に残ってたわだかまり。その元凶の言葉。


私が、井上陸人は『β性の両親から生まれたαである』ということは誰も証明できなかった。

当時の遺伝子検査はあまりにも高額で田舎の小企業の社長である父には到底出せるものではなかったし、とかくβの人々にはバース性に関する知識はない。

胎内でかけられたストレスで変化してしまう可能性があることも、αという性は不安定でなおかつ後天性のΩより気づかれ難い故にβからαになる人が一定数いることも。


態度の変わった親族のことはあまり、思い出したくない。

断片的にあるのは親戚を名乗る見知らぬ人に変な真っ白な粉を飲まされたこと、父にぼんやりするまで頭を殴られて雨の中放置されたこと。

あの日は年に数えるほどしかない豪雨だった。

身体は一瞬で熱を奪われ、ただでさえ危うい意識は霧に包まれるように染まって。

明かりが漏れる家の中から双子の弟である陸志の笑い声が黄色く見えて。

どうして同じ日に同じ腹から生まれたのにこんな差があるのだろうとほんの少し恨めしくなる。


ほどなくして両親の離婚が成立した。

親権は兄弟どちらも母に渡されたたようで祖母の家での生活が始まった。

「異端児」である私は祖母から無視され、弟ばかりが溺愛される。

もう、彼と自分は双子だなんて認めたくなかった。

中学ではいじめにあった。

どこの誰が流した情報なんて関係なく、彼らは飛びつく。

ただでさえ自分より弱い者に飢えている年齢だ、家族内でも邪険にされてる私は格好の的だった。

作り笑顔で学校に行き、帰っては泣き、それすら気にかけられず、そんな生活を繰り返したある日、吐き気が止まらなくなった。

呼びに来た母さんの声すら鬱陶しくて腹部の痛みが強まってしまう。

目に入った棚を使ってバリケードを作る。

ふっと身体の力が抜けて張ってきた糸がプツンと切れた。


目が覚めれば知らない天井だった。

腕に刺さった点滴が気持ち悪くてナースコールを押そうとするが、重力に抵抗すらできない。

声を出すのすら久しぶりで口を動かすのも苦痛だ。

獣のような動きでやっとの思いでボタンを押す。

バタバタとやってきた医者が身体を拭くためにとタオルを渡す。

そのときに病衣を脱いで愕然とする。

肋骨が、浮いていた。

それだけじゃない、肉という肉が落ちていた。

さっきの感覚を考えれば私は餓死寸前まで眠っていたようだ。

もう、その日から中学に行くことはなかった。

何度か幼馴染のユウは時々遊びに来てくれて、そのときに学校の話をほとんどしないかったのは彼なりの配慮だったのだろうと今更ながら思う。


ある日、ユウが遠出をしようと言い出した。曰く、好きなゲームのポスターが都内限定品らしい。

そのままトントン拍子にことが進み、今私たちは冬なのに無駄に暖かい日本のど真ん中にいる。散る雪も肩に乗ってすぐに溶けてしまう。


「リク!!! 見てよ、デッカいテレビが外にある!」


はしゃぐユウを尻目に現在地を確認するが天性の方向音痴が災いしてもうお手上げだ。ユウに確認してもため息を吐くだけ。


「あの、大丈夫ですか? 道、お教えしましょうか?」


ゆるゆるとマフラーを巻いた黒髪の少年が横から顔を出した。

優しさなのだろうか、彼の紫の眼がこちらを見つめる。

ほんの少し、赤く染まった頰に唇が吸い寄せられた。

特に悪意も感じないのでありがたく聞く。


「雪で濡れてますけど、大丈夫ですか?」


背伸びした彼の首から甘いゼラニウムの香りがする。

香水でもつけているのだろうか。

衝動的に首に噛み付きたくなる、口の中をガチッと噛んで理性を保つ。


「はい、ありがとうございます」


違うんだ、私はもうわがままなんてしない。

父のようにならない。

こんな一時の感情で彼の私の人生を狂わせたりしたくない。


もし、「運命」の誰かに会えたら必ず幸せにするんだ。


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