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バースたちの恋愛日記  作者: 三月 璃夢
第二章 あなたと出会う前の話
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恋人もどき

モチベーションを捕獲しました!

遅れまして申し訳ありません

Ωという人種がいる。

他の性を誘う特別なフェロモンが定期的に分泌され、その時期を人間は発情期と呼び、忌み嫌った。

まったく、変な話だ。

いつどこで誰が決めたなんか知りもしないけれどたかが月に一週間ほどしかない物事でその人格自体を否定してしまうなんて。


こんなことを思うαは珍しいのかもしれない。

それはきっとまだ年端もいかない頃からだ。


大好きな幼馴染の幸也……ゆき兄が襲われかけた。

ゆき兄は近所に住んでいて二つ上。

両親同士が親しかったのだ。

ゆき兄はファーストヒートだった、上手くコントロールできなかった彼は力の関係的にも抵抗出来ずに路地裏に連れ込まれた。

あのとき、お母さんが気づいたからよかったけれどそうじゃなかったらなんて考えれば今でも背筋に悪寒が走る。


私は彼のことが大好きだった。

でも、親は許しても周りがダメだった。

そもそもつい十数年前までαの妻になるのは年下でなければならないと考えていた人たちだ。

Ωは劣ってると思っている輩が後を絶たなかった。

そして、彼の容姿がΩにしては煌びやかでないからなのもあるのだろう。

グレーの髪に茶けた瞳。

それでも私は目に眩しくない落ち着いた髪色や光に当たる度色をチラチラと変える彼の目が好きなのだ。


私が中学に入学するときにゆき兄が時計をくれた。

そこまで華美なものではなくて「今時のセンスとか分からないけど。やっぱり彼女には何かあげようと思って」と照れ笑いしながら渡してくれたのを覚えている。


「ねぇ、私、ゆき兄のこと番にしたい」

「なんで?」


ゆき兄の声は聞いたことないくらい冷たくて怒らせてしまったのかと不安になる。


「そうすれば、ずっと一緒に居られるんだよね?」

「なつ……番はね、簡単にはなれないんだよ」

「え? 首筋噛めばいいんじゃないの?」

「そうだけど。あのね、解消されたら俺死んじゃうかも」

「え……それは嫌だな。でも、私はそんなことしないよ」


ゆき兄は首に手を当てため息を一つ。


「もし、なつが、大きなって、バース性のことちゃんと学んでそれでもまだ俺のことが好きならなってもいい」


私は即了承した。


中学に上がる直前にα推薦……まあαに対する進学措置に対するアンケートが来た。

これのおかげで私たちは何歳からでも大学に在学できる。

迷わずバース性薬学を選んだ。

ゆき兄の言うことを達成するには近道だと思ったのとゆき兄が緊急抑制剤の副作用にやられているのをよく見ていたから。


中学のゆき兄はまるで別人で。

色の落ち着いていた灰色の髪は艶かしくなり、タイガーアイを模したと気づいた瞳は柔らかな春の陽を受け美しく輝いていた。

漆黒の学ランが宵闇のキャンパスのように彼の素晴らしさを際立たせている。

少なくとも私が「ゆき兄」なんて甘えた呼び方をしてもいいような感じではない。


私に気づいたゆき兄は「なつ」と言いかけたのを遮る。


「幸也せんぱい!」


なんで、まるであのときみたいに悲しそうな顔をするの?


時は流れて私は大学にいた。

もちろん、α推薦のおかげだ。

私が中学生という年齢も考慮して月に一回だけ通っている。

同じ日程なのは県外から来てる人らしい。


「はい」と声が頭上からしてこつりとアップルジュースの紙パックを渡される。


「ありがとうございます……」


この人は変わっている。

少し前の講義でいきなり隣に腰掛けて来たと思ったら私に憧れていると言い、懐に潜り込んできた。

α推薦枠を持っている者としては異例のΩで艶々の黒髪とアメシストの瞳の持ち主だ。


「あ、そういえば駒田さんってどこの中学通ってるの?」

「なんでそんなこと聞くんですか、榎本さん」

「単純な興味かな」

「それなら教えません」


そっかーと気の無い返事から冗談だったと分かる。


「そういえば榎本さんって番いるんですよね」

「ああ、素敵な人だよ。ちょっと不器用だけど」

「いいですよね……私もしたい人がいるんですけど」


そこからは簡単だった。

幼馴染を番にしたいこと、彼が眩しすぎて昔のあだ名で呼べなくなったこと、彼に言われた言葉のこと。

粗方、話し終わったところで電話が鳴った。


「彼から?」と聞く榎本さんのことは事実だ。

スマホのディスプレイには「ゆき兄」と出ている。


「あ、夏絆か?」


少し訝しむようなゆき兄の声が私は好きだ。


「ん……明日? いいよ」


要件自体は単純で明日の午後に昼を食べないかということだ。

190近い身体してΩの性なのか料理をよくするのでその贅沢にあやからせてもらっている。

切れ際に「好きだよ」と低い声で囁かれた。

はぁ……こんな可愛いやつを番にできないとか私はめ殺しだな。


「駒田さんは、辛くないの? その、番にしてもらえなくて」

「まあ、私の理解不足でしょうから……仕方ないです」

「僕からのアドバイスは『ちゃんと話し合え』ってことかな。伊達に君よりたった二年だけど長く生きてないよ」


「はい!」となるべく元気に返事をしたが私はちゃんと笑えていただろうか?


名前の読み方


女α 駒田夏絆 (コマタ ナツキ)

男Ω 斎藤幸也 (サイトウ ユキヤ)

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